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番だと言われても  作者: 都森 のぉ


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37/42

37.鏡像の番

 一度ならず二度までもタルルダ王国の王族を危険に曝したことを重くみた帝国はローベルトの謹慎と出国停止を命じた。さらにタルルダ王国には一年間の関税優遇を確約すると宣言した。ローベルトが入国してから辺境伯領に来るまで黙認し、わざと騒ぎになるまで放置した手前、一度はここで和解を決める。重苦しい空気の中、アンダルト帝国の皇帝は帰国したローベルトをすぐに呼びつけた。


「何をしたのか分かっているのか?」


「直答の許可をいただきたく」


「良かろう」


「番のために、向かい愛情を示し……」


「そのような愚かな答えを聞くために直答の許可を出したわけではない。マルドス、その剣を引いてやれ」


「御意」


 謁見の間でローベルトは膝をついて皇帝と相対していた。皇帝に対して万が一が起こらないようにとの配慮で近衛兵がローベルトの背後に控えていた。皇帝の問いに回りくどく答えたとしてマルドスは剣をローベルトの眼前に差し出した。危機を感じて口を閉じたローベルトは、皇帝の問いに答えられていないことに気づく。


「直答も反論も不要だ。番のためという理由が通じるのは帝国のみ。ローベルト、お前はビリワナ王国の貴族を殺し、タルルダ王国の王族に刃を向けた罪人であり、国際法に則り裁かれるアンダルト帝国の貴族子息に過ぎない。お前を無罪とするなら帝国は諸外国から爪弾きにされる。それほどのことをしたと胆に銘じよ。傷が塞がるまでは公爵家で療養しろ。そのあとは追って沙汰を下す。連れていけ」


 番のためという大義名分でヤーナを求めていたが、皇帝に処分を言い渡されて初めて罪の意識を覚えた。ヤーナの側にいたことは許せないが、番が見つかったときは逃げることを知らない者を一方的に殺したことは、やり過ぎであったと感じ始める。


「何て馬鹿なことをっ、タルルダ王国の王族を殺そうとしたなんて」


「母上、それについては、知らずにっ」


「知らなかったから何だと言うのです! そもそも初対面の者に斬りかかるのが正しいとでも言うつもりなら今すぐに剣を捨てなさい」


「番のために、俺は……」


()とは、誰のことだ。ヤーナ嬢は番ではないとビリワナ王国に返しただろ。お前自身が追い出した」


「そのことですが、ヤーナに会って分かりました。ヤーナからも番の匂いがしました。今まで前例が無いことですが、俺には番が二人……」


「いるわけないだろ。双子であっても番は別々だというのに……あのキリアとか言う女は、間違いなく偽者だ。調査を待てば、こんなことにならなかったというのに……あの女は“番の残り香”を使っていた」


 バルドワは静かに真実をローベルトに告げる。キリアは尻尾をなかなか掴ませなかったが、間違いなく番を偽っていた。そのことが分かるまで、本当に番だったときに無理に引き離せば、互いに番を求めて周りに被害が及ぶ。迂闊な行動は取れなかった。


「“番の残り香”はとても扱いが難しく、そう簡単に同じ匂いにすることはできないはずです」


「そうだ。私たちが調べた結果をようやく耳に入れる気になったのだな」


「皇帝陛下直々に叱責させるなど、貴族にあるまじきことですけどね」


「執務室で話そう」


 ローベルトは傷が痛むのかゆっくりと歩く。それでも傷をつけたのがヤーナということでローベルトは笑っていた。今までヤーナから何かを強く返されたこともなかったためローベルトは感動していた。


「“番の残り香”は、突如として番を失った者への治療薬として一般的だ。だが、その調合はとても難しく熟練の調合師でも組み合わせを見つけるのは至難の技だ。だから、私たちは本当に番が二人なのだと思い、何人もの専門家に依頼した。誰もがあり得ないと言った。蓋を開ければ、キリアが自分で調合していたそうだ」


「自分で?」


「ローベルトに毎日会い、“番の残り香”を纏い、日々の反応から最適な物を見つけ出した。反応が良かったものを強く纏えば、お前は番を誤認し本来の番を偽者だと思うことに賭けたのだ。そして、賭けに勝ち、お前は本当の番を捨てた」


「あれが偽者だったとは・・・そのせいで俺は番を捨てることになったのか」


「陛下からお前への処罰だ。生涯、帝国から出ることを禁ずる。また、お前の子より決まっていた公爵の爵位も取り下げも繰り上げて侯爵とする、との仰せだ」


 国を巻き込む騒動を繰り広げながら叱責だけで終わるわけはない。処罰としているが、これはローベルトがヤーナを巡って、さらに問題を起こさせないための措置だ。


「そんな・・・ヤーナに会いに行けないではないですか」


「ここまでのことをして何故、会いに行けると思っているのだ?」


「それは、キリアが偽者ならヤーナを番として迎えるのに……」


「こちらがダメならあちら、あちらがダメならこちら、ヤーナ嬢はタルルダ王国の王族だ。タルルダ王国国王からは、信じて入国を許可したが、まさか王族を亡きものにするためだったとは思わず、国を危険に曝した。幸いにして未遂だったが、害ある者を来賓として招き入れた責を取り、退位することを宣言した。そして、アンダルト帝国はタルルダ王国を属国とするために、公爵子息を、ミシャルペ領国経由で入国させたのかと問い合わせがきた。タルルダ王国を混乱させるつもりだったのかと訊かれている」


 もし、ローベルトがリュシアレーデを殺していれば辺境伯領は戦争のきっかけになっていた。ローベルトを捕らえようとナディックも剣を取り、戦ったはずだ。ローベルトが捕らえられても、身元を保証した国王は責任を取らされ、王不在のままアンダルト帝国と戦争が起き、タルルダ王国は圧倒的武力の前に敗北する未来が待っている。


「王太子は凡人で、外政も内政もできず、戦乱の世を生き抜く気概もない。お前はタルルダ王国と戦争がしたかったのか?」


「そのような考えはありません」


「そう思われても仕方ないことをしたと自覚しろ。ローベルト、陛下から傷が塞がるまで療養を命じられていたな。これ以上、問題を起こすな。いいな」


「申し訳ございません」


「謝る相手が違う。ローベルト、処罰が終わったと思うなよ。まだ、タルルダ王国からの要望がきていない」


 ローベルトは傷の痛みから部屋で大人しくするが、傷が塞がってもタルルダ王国からの要望が届かなかった。これにはアンダルト帝国側も不思議に思うが何も言い出せなかった。

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