3.34.96 服嫌いドラゴンの異世界コーディネート
「ママスミグル〜♪。出来上がりは明日になるんで、また明日来てくださいね〜」
結局3着ほど服を買った真一たちは、店員のお姉さんに見送られて店を出た。
もちろん下着は買っていない。
ドリーストリップ事件で店を追い出されるかと思ったが、なんとか許してもらえた。
お姉さんも最初は怒っていたのだが、美少女を好きなように着せ替えているうちに機嫌を直してくれたのだ。
最後はノリノリで服を選んでいて、次回も歓迎してくれるみたいだ。
出禁になってもおかしくなかったのに、有り難い話である。
ちなみにエピーとドリーはやはり服を着るのに抵抗があるようなので、出来るだけ着心地のいいものを選んでもらった。
ミーニャの服と似た感じの、肌触りのよい材質のものだ。
近くでじっくり見てみると、どうも布ではない謎素材で作られている。
縫い目がなくてプラスチックみたいに見えるのだが、ふっくらスベスベしていて柔らかい。
選んでもらった服はどれもエピーとドリーに良く似合っていた。
お姉さんが上手くコーディネートしてくれたのだ。
エピーたちが着ることが出来る服は限られているというのに。
というのもTシャツみたいに上からかぶるタイプの服は着られないからだ。
首が3つあるからな!
そして翼があるので、背面にも制約がある。
今までは翼を折りたたんで無理やりミーニャの服を着ていた。
とはいえかなり窮屈で、エピーたちはストレスを感じていたらしいのだ。
だったら最初から背中が大きく開いているものを選べば、翼を出しておけると考えた真一。
だけどそういった露出の多い服は、この世界では少ないらしい。
どうやらこの温暖な地域の人たちは、直射日光を多く浴びるのを避ける傾向があるみたいである。
とはいえその辺りは無料で手直ししてくれるようだ。
さらには尻尾も問題である。
スラックスタイプのボトムスだと、大きな尻尾が邪魔ではけないのだ。
なのでよくよく考えてみれば尻尾がある時点で、最初からノーパンしか選択肢はなかったのである。
尻尾のある獣人向けのパンツもあるらしいのだが、あくまで犬猫タイプの細くて柔らかい尻尾が対象だ。
スカートなら大丈夫かと思ったのだが、なんとこの世界にはスカートのようなものは普及してないらしい。
基本的には露出の少ない服ばかりで、この店にはエピーが着られるボトムスは存在しなかった。
そんなこんなで結果としては、ワンピースタイプの服を買うことになった。
それも頭からかぶるヤツは無理なので、前が開いていて着た後に閉める、Yシャツみたいなタイプのものだ。
ただし面白いのは、この世界の服にはボタンもファスナーもないこと。
かといって浴衣みたいに帯で止める訳でもない。
ミーニャの服と同様に、右腕を通す袖が2つあるのだ。
店にあった前開きタイプの服は、ほとんどが同じタイプである。
どうやらこの異世界ではこれが一般的なようだ。
まず最初に右腕に袖を通す。この1個目の右袖はやや細くて短い。
次に背中側に服を回してから、左腕に袖を通す。
そして今度は前側に服を回して、最後に2つ目の右袖に右腕を通すのだ。
服の前面はボタンとかで留めているわけではないが、かなり余分に布で覆われているので、めくれて肌が見えることはない。
要は地球のYシャツとかは服が360度(一周)分しかないのに対し、こちらの服は540度(一周半)分あるってことだ。
真一は日本でこんなタイプの服を見たことはないが、このシンプルな構造にはなるほど!と思わされる。
生地が余分に必要になるが、その分ボタンやファスナーみたいな細かい部品が不要になるのだ。
単一工程で製作できるので、作るのがラクそうである。
壊れる場所も少ないので、洗濯もしやすくて長持ちしそうだ。
生地を無駄に使っていいのならば、頭のいいやり方だと思う。
恐らくこの異世界は、こういった布地を潤沢に用意できるのだろう。
そこで気になってくるのが、服の材質である。
店にある服の生地はいろいろ種類があるみたいだが、地球の布のように糸を編んだものはほとんどない。
代わりにプラスチックっぽいものや、紙っぽく見えるものがほとんどだ。
何かの魔法技術を使って大量生産しているのではないかと、真一は予想していた。
そんなこんなでお姉さんに勧められるがままに選んだのは、ワンピースタイプの服を3つである。
青、白、グレーの3色で、どれも肌触りにはこだわってもらった。
背中に翼を通す穴を空けてもらうので採寸も行う。
とはいえ獣人じゃなくても、身体に合わせた手直しをするのは一般的なことらしい。
嬉しいことに一晩で仕上げてくれるそうだ。
なので今回は注文と支払いだけして、明日以降に取りに来ることになった。
いろいろドタバタありつつも、何とか服を手配できた真一たち。
店を後にしたが、晩飯の時間にはまだ早い。
バジゴリ亭でたらふく食べてから、まだ3〜4時間ってところなのだ。
そのうえ途中で買い食いまでしている。
なのでもう少し街歩きを続けることにした。
幸いにしてどっぷり日が暮れているというのに、バンリャガの街は寝静まる気配がなかった。
まぁこの世界の夜は16時間近くもあるのだし、まだまだ寝るには早いのだろう。
そうして大通りを散策していると、真一は服飾雑貨の店で『いいもの』を見つけた。
その店にはカバンやバッグが売っていたのだ。
さっそく店に入ってもらうと、様々な種類のバッグが陳列されていた。
リュック、肩掛け、手さげ、ウェストポーチ。
果ては頭に乗せるタイプのものまである。
そんな中で真一が一目見て気になっていたのは、ボックスタイプのリュックである。
長くてガッチリしたショルダーベルトが2本付いているのは普通だが、リュック本体部分が特殊なのだ。
石とプラスチックの中間みたいな謎の材質で出来ている。
固くて形がしっかりしているが、何より重要なのは密閉できるうえに防水がしっかりしていることだ。
「ミュイ〜、シン、これが欲しいの?」
「これは何の食べものニャミュ?」
「食べものじゃない。持ち運ぶ物を入れておくバッグだ」
「何でそんなのが要るの?物を運ぶなら『溜め袋』に入れとけばいいのに」
「いや、それだとベチャベチャになるだろ。濡れちゃマズいものは、これに入れてから溜め袋に仕舞うといいかな〜って思って」
「ご馳走もニャミュ?」
「うん、食べ物もこれに入れておけば、溜め袋から出しても美味しいまんまだ」
「それはスゴいニャミュっ!いっぱい要るニャミュ!」
と、ドリーがうるさいので、最終的には大き目のものを店にあった5個全部買う羽目になった。
今日だけでどれだけ無駄遣いしてるんだって話である。
いきなり大金をゲットして金銭感覚がマヒしているのは、エピーとドリーだけでなく真一も同じだった。
次に見つけたのは靴屋だ。
当然エピーたちは今の今まで裸足である。
靴も履かせた方がいいかと考えたのだが、これにはエピーですら反対した。
余計なものを身に着けるのは、かなり気持ち悪いらしい。
服は人間社会には必要だとエピーは認識しているので、何とか我慢して着てくれているのだ。
ドリー?
食べられないクツはイヤだそうである。
安定の反応であった。
ちなみにバンリャガの街では獣人も数多く見かけるが、半分くらいは裸足である。
なので獣人の(フリをしてる)真一たちなら、靴は履かなくても問題なさそうだった。




