3.23.85 悪い勇者はいねぇがぁ〜?
「なんじゃこりゃあぁっ!!」
「ビュリオーンにザーマーギャだとっ!?」
「あの獣人っ娘、ナニモンなんだ?」
「おい、ビルジ、こりゃ何のモンスターだ?見たことねぇぞ」
「コベアトじゃねぇか?絶命の森に棲むシルバー(Bランク)モンスターだ」
ギルド中の冒険者たちが詰めかけてきて、3匹の死体と真一たちを取り囲み、ガヤガヤと騒ぎ立て始めた。
どうやら一角ダチョウがザーマーギャで、鹿頭クマがコベアトと言うらしい。
「こんな小っちゃい嬢ちゃんが仕留めたってのか?」
「さすがに無理だろ?死体を見つけて持ってきただけじゃ?」
「そういやこの子ら、メチャクチャ可愛くないか?」
「だよなっ!奥の2人はすっごい美少女だし、手前のボーイッシュな娘もイイよな」
「分かるっ!俺も『アイドル』かとおもったぜ!」
「あぁ、どう見ても冒険者じゃねぇだろ」
「ぜんぜん強そうに見えないからな」
冒険者たちの言葉に、エピーとドリーがムッとした様子を見せる。
少し気になるセリフはあったものの、真一的には2人が可愛いと言われるのはちょっと嬉しい。
だけどエピーたちはそれ以上に、弱い者扱いされるのがNGのようだ。
特にドリーが今にも暴れ出しそうである。
真一は慌てて気をそらそうと、納品カウンターのおっちゃんとの交渉を進めることにした。
「それでこの3匹って買い取ってもらえますか?それとももしかして、想定外のモンスターだったりします?」
「い、、、いやいや、そんなことはねぇよ。3匹ともシルバー(Bランク)。この街じゃ珍しいが、冒険者ギルド全体で見りゃぁ、それほど騒ぐようなもんじゃねぇ」
どうやらやり過ぎってことはなかったようだ。
シルバーランクはキルナやゴブリンキングと同等である。
それくらいの獲物を選んで持ってきたのだから、狙い通りと言えるだろう。
だというのにおっちゃんはいまだに、有り得ないものを見たって感じの驚きようであった。
「それよりお前ら、こんなデカブツ、いったいどっから出したんだよっ!?」
あぁ、驚かれていたのはそこかっ!
そりゃ真一だって地球で同じ現象を見れば驚愕しただろう。
だけどこんなファンタジー異世界なら、普通にアイテムボックスや収納魔法があるんだと考えていた。
エピーが異次元空間チックな『溜め袋』に収納していたので、それがごく普通のことだと思い込んでしまったのである。
「そうだっ!こんな小柄な嬢ちゃんが良く運んでこれたもんだぜ!」
「いやそれが、さっきまで手ぶらだったんだよっ!」
「あぁ、何もないところからいきなり取り出したみたいだったぜ」
周りの冒険者たちも、不思議そうにしている。
だがそこで冒険者の1人がふと思わぬ一言を口にした。
「これってもしかして、勇者のスキルなんじゃねぇか!?」
その瞬間、冒険者ギルド内の空気が変わった。
立ち並ぶ冒険者たちが一気に殺気立ったのである。
「勇者!?」
「勇者だとっ!」
「コイツらクソ勇者かっ!?」
明らかに冒険者たちは、勇者にネガティブな感情を持っていた。
いや、冒険者だけではない。
納品カウンターのおっちゃんもナミンも他の職員たちも、みな不愉快そうな表情をしていた。
さながら『魔女狩り』ならぬ『勇者狩り』みたいな雰囲気であった。
エピーの溜め袋は勇者のスキルではないが、それでも真一が勇者なのは本当である。
訳もわからないうちに、いきなりピンチに見舞われた真一だった。
「おい、良く見ろよ、指4本じゃねぇか!」
だが真一がアタフタしていると、隣にいた冒険者の男が声を上げる。
その瞬間、殺気立っていた空気が霧散した。
「ほんとだ、ってか、だいたい首3つの勇者なんているわけないだろがっ!」
「適当なこと言ってんじゃねぇぞ、ギメチィ!焦らせやがって!」
「悪りぃ、だけどこんな手品見せられたら勇者の特殊能力かって思うだろ?」
「確かに勇者は小娘っぽい見た目でも油断できねぇしな」
「あぁ、こないだのイカれた女はほんとヤバかったぜ、、、」
どうやら真一が何もしないうちに危機は去ったようである。
もっとも焦っていたのは真一だけで、エピーたちはマイペースなものである。
「ミュイ〜、シン、ムレビトは溜め袋持ってないの?」
「うん、どう考えても持って無いな。エピーたちしか使えないと思うぞ」
「溜め袋ってなんだよっ!」
真一とエピーの会話を聞いて、おっちゃんがツッコんできた。
エピーに代わって真一が説明する。
「えーと、身体の中に胃袋みたいなのがもう1つあって、そこにモノを溜めとけるんです」
「溜めとくって、明らかに入ってるサイズがおかしいだろ!!」
「変じゃないもん、そういうものニャミュぅ」
「うん、俺たちの種族は誰でも使えるんですよ」
良く知らないものの、適当に話を合わせて答える真一。
「誰でもだとっ!?そもそもお前ら何の獣人なんだ?」
「エピーはカミュリャムだよっ」
「ドリーはカミュリャムニャミュ〜♪」
「かむりゃむ?聞いたことねぇぞ」
「わたしもです」
おっちゃんとナミンが揃って首をかしげる。
カミュリャムは龍語の単語なので、『至聖龍』と言わないと通じないのだろう。
もちろんドラゴンと知られたら大騒ぎになりそうなので、言うつもりなどない真一である。
「絶命の森から来たって話だし、ヴォイグル《未踏領域》あたりにでも棲んでる種族なのか?」
「えぇ、こんなスゴい能力を持つ種族なんて見たことありません」
「エピーはスゴいの?」
「ドリーはスゴいニャミュっ!」
褒められたエピーとドリーは、一気に機嫌を良くして笑顔になる。
「スゴいなんてもんじゃないですよっ!この力があればミグル《内側》の物流が変わります!」
「あぁ、大量の食糧や物資を運べる、し、、」
そこまで言ったところで、おっちゃんが言葉に詰まる。
エピーの胃液でベチャベチャになったモンスターの死体を眺めて。
うん、こんな運び方した食糧は食いたくないよな、、、
「まぁ、なんだ、、うん、いろいろ、便利じゃないか、、、」
顔を引き攣らせたおっちゃんの様子を見れば、運搬を依頼されることはなさそうだ。
真一がやりたいのは運送屋ではないので、溜め袋の能力で無駄に騒がれるのは避けたいところである。
なので話題を変えてみることにした。
「ところでさっき勇者がどうとか言ってましたけど、それって何なんですか?」
実際、真一は何で勇者がこんなに嫌われているのか気になっていたのだ。
勇者について何も知らないフリをして聞いてみる。
「あぁ、絶命の森から来たんじゃ、勇者なんてもん知らねぇか。勇者ってのはリューイン《創世神》が召喚した異世界人のことだ」
あの邪神はこの世界でリューインと呼ばれているらしい。
どうやら創世神という意味のようなので、この異世界を作った神があのクソガキということで間違いなさそうだ。
「魔王と戦うために呼ばれた兵士で、成長が早い上にそれぞれが特殊な力を持っているんです」
「魔王?」
「それも知らんのか?ウズングル《魔界》に棲む魔族の王だ。ここマヌングル《人間界》の豊かな土地を奪いに攻めてくるんだよ」
さっきから謎の単語が連発である。
とはいえ『異世界言語翻訳機能さん』のおかげで、何となく意味が分かる真一であった。
「それじゃ魔王と戦う勇者はいい人なんじゃないんですか?」
「ちゃんと戦ってくれりゃな。実際は力を振りかざしてやりたい放題するクソ野郎だらけだ」
「もちろん中にはいい勇者もいるんですよ。ただこの街は3シス日ほど前に、最低な勇者の被害に遭ったんです」
「あの事件で大勢の人が死んだんだ。ここの住人はみんな、多かれ少なかれ勇者を嫌ってるな」
つまりチートスキルをもらって調子に乗った地球人がやらかしたのだ。
『3シス日』というのがいつのことなのかさっぱり意味不明だが、きっとそれほど昔の話ではないのだろう。
大量に犠牲者が出たとなれば、勇者全体が恨まれることになるのも無理はない。
絶対に身バレする訳にはいかないと、気を引き締める真一であった。




