1.5.5 スキル設計ガバガバじゃね?
■ここまで■
チートスキル『ダメージ最小化』により、真一は全身バラバラにされても死なない、、、のだが、スリップダメージはしっかり入ってしまうらしい。
10秒ごとに1のダメージを受けるというのに、真一の残りHPは15しかなかった。
「ダメじゃんっ!!俺、もうすぐ死ぬじゃんっ!!!」
「ああ、うん、あと150秒の命だね♪」
「うんじゃなくてそれ、スキル設計がガバガバ過ぎじゃないですか!?」
思わず激しい口調で問い詰める真一。
神さま相手に畏れ多いことだが、必死の真一は余裕を失っていた。
「失敬だなぁ。5秒もあればヒール《回復》とかできるよね?」
「いやいやいや、俺、回復魔法なんて使えないんですけど!150秒じゃヒール覚える前に死んじゃうからっ!!!」
「もぅ、ほんとワガママだなぁ。せっかく僕がユニークスキルを作ってあげたのに」
さすがの少年も気分を悪くしたのか、怒りのオーラを放ち始めた。
目に見えるほどのドス黒いオーラだ。
神さまを怒らせてしまったことに気付いて顔色を青くする真一だったが、もはや後の祭りである。
少年から放射される圧迫感によって、呼吸が苦しくなり、心臓がキリキリと痛みだす。
あと2分ほどで死ぬと分かっていても、もはやこれ以上反論などできようはずもない。
真一は恐怖でガタガタ震えることしかできなかった。
まだ異世界へ転生する前だというのに、真一の命はまさに風前の灯火である。
「まぁ、でも確かにこのままだと異世界行く前に死んじゃうね、、、」
だが幸いなことに、真一が何もしなくても少年は勝手に納得してくれたようだ。
少年のドス黒いオーラが引いていく。
それとともに真一が感じるプレッシャーも消えていった。
「しょうがないなぁ。今回だけ特別にサービスしてあげるよ。はい、『スリップダメージ微小化』〜♪」
機嫌を直した少年が、真一に手をかざして何かの不思議な力を発動した。
どうやら新たな力を授けてくれたようである。
「これでスリップダメージは100分の1。つまり10秒で0.01になるよ。これならHP全快で20000秒あるから何とかなるでしょ。おまけにミニマムヒールだけ付けてあげたしね」
真一はさっそく浮かんだままのステータス画面を確認する。
すると確かに新しい力が『スキル』として付与されていた。
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名前:馬宮 真一
レベル:1
HP:2 / 20
MP:20 / 20
スキル:
ダメージ最小化
スリップダメージ微小化
ミニマムヒール
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「っ!!!」
だが真一が目を剥いたのはそこではない。
なんとHPが『2』しか残っていなかった。
それほど時間は経ってないはずなので、スリップダメージだけによる減少ではない。
どうやら少年の怒りのオーラは、ダメージを伴うものだったようだ。
もはや瀕死である。
そういえば確かに体が死ぬほど重い。
頭がクラクラして、今にも倒れそうだ。
すぐに回復魔法を使わないと死んでしまう。
画面に表示されている『ミニマムヒール』というのがそうなのだろう。
とはいえ使い方など分からない。
アニメみたいに口に出して詠唱すればいいのかな?
「み、ミニマムヒール?」
真一は恐る恐る呪文を口にしてみる。
するとバラバラになっている真一の全身に水色の光の粒がパラパラと降り注いだ。
不思議な感覚とともに、身体の苦しさが一気に解消する。
どうやら無事にミニマムヒールの魔法を発動できたようだ。
改めてステータスを確認してみる。
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名前:馬宮 真一
レベル:1
HP:20 / 20
MP:18 / 20
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MPを2消費して、HPが全回復していた。
「レベル1程度のHPなら一発で全快でしょ。数時間に1回使うくらいならMPの自然回復の方が早いから永久に回復できるよ」
確かに毒なんかの継続的なダメージを受けても、HP全快からなら20000秒耐えられる。
5時間ちょっと、といったところだ。
それをMP2で回復できるなら、自然回復でも十分にまかなえる。
だが真一は気付いていなかった。
それでは夜寝ている間にコロッと死んでしまってもおかしくないということに。
けれども状況の変化についていけず、そこまで頭が回らない真一だった。
「どう、これで文句ないでしょっ!?」
「ぅううっ、、、は、はぃ、、、」
少年が高圧的に問いかけてくる。
もちろん真一には反論する勇気などあるはずもない。
まだ何か絶対に落とし穴があるよな?と思いつつも、ヘコヘコと首を縦に振る。
もっとも首を切り落とされているので、実際には上手く振れていないのだが。
まぁともかく少々のコトでは、この怒りっぽい神さまに何も言えるわけがない。
そう考える真一だったが、、、
「あっ!!」
少々ではない問題に気がついた。
機嫌を損ねないようにへりくだりながら、恐る恐る切り出す。
「あのぅ、、、でも、、身体がバラバラなのは何とかなったりしないですかね?」
「それくらいくっつければ治るでしょっ!!」
かなり下手に出たにもかかわらず、めっちゃ怒られた。
あまりにも理不尽で、涙目になる真一。
とはいえ少年は口では文句をいいつつも、真一に向け両手を伸ばす。
すると真一のバラバラ死体(※死んでません)のパーツが、少年の左右の手に1つずつ引き寄せられていった。
フワフワと漂って少年の手に収まったのは、真一の左手と、左前腕だった。
ちょうど手首のあたりで分断された2つのパーツを、少年は断面を合わせるように両手で近づけていく。
すると2つのパーツは切断面同士が吸い付くかのように、ピッタリとくっついた。
そのあと少年が試しにパーツをブンブンと振ってみるが、外れる気配はない。
どうやら切断面をくっつけるだけで、謎のパワーにより元通りになるようだ。
「ほらね。後は自分で出来るでしょ?こんなことまで僕の手を煩わせないでくれるかなぁ」
「はぃ、すみません、、、」
苛立たしげに文句を言う少年に、ぐっと耐えながら謝る真一。
どう考えてもいきなり他人の身体をバラバラにした方が悪いはずだ。
けれども怖くて言い返せない真一である。
それよりもくっつけるだけで治るのであれば、自分でも簡単にできそうだ。
真一は試しにやってみることにした。
さっそく両手を動かしてみる。
まぁ、両手とはいっても、、、
少年が乱暴に投げ返した左手パーツ。
視界の横でフワフワ漂っている右手パーツは手首から先しかない。
目の前に自分の両手はあるのだが、まともに動くのだろうか?
恐る恐るやってみると、両手の指先を思い通りに動かすことができた。
どうやらバラバラであっても、神経は神パワーのワープ技術で繋がっているらしい。
だが指先だけは動くものの、宙に浮いた状態のパーツ自体を移動させるのが難しい。
試しに手のひらをパタパタ扇ぐようにしてみる。
すると空中を泳ぐようにゆっくりとだが、なんとか移動させることができた。
悪戦苦闘しながら時間をかけて両手を移動させていく。
そうやって苦労して手にしたのは、右足の2つのパーツだった。
膝から下全部のパーツと、太ももから膝までのパーツである。
名前を付けるなら『下腿部パーツ』と『大腿部パーツ』だろうか。
その2つのパーツを器用に回転させて、真一は膝下あたりにある切断面を接触させる。
すると2つのパーツはスッと吸い付くように結合した。
「あっ、ほんとだ。簡単にくっつぃ…
感嘆の声を上げる真一だったが、その言葉は途中で途切れる。
いきなり周囲がキラキラと輝きだしたのだ。
なんだか神々しい光の波が、下から上へと大量に流れていく。
いったい何が起きているのか聞こうと、少年の方へ振り向く真一。
すると少年はまるで何でもないかのような気軽さで、トンデモないことを言い出した。
「あぁー、いろいろ注文多いから制限時間来ちゃったよ〜。それじゃ頑張ってね〜♪」
どうやら真一が異世界に旅立つ時間が来てしまったようである。
「え!?、もういきなり?もっと現地の情報とか、、、ぃや!!、せめて身体だけで…
最後まで言い切ることすらできなかった。
真一の身体は立ち昇るキラキラの粒子に包まれて、白い空間から消え去ったのだった。
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異世界の森に、一陣の風が吹く。
落ち葉とともに風に吹かれて転がるのは、、、
真一の生首であった。