6.87.380 破滅の大食いチャレンジ
これってヤバいんじゃっ!!?
ドリーの『大食いやりたい宣言』を耳にした瞬間、イヤな予感がして顔色を変える真一。
慌ててドリーを止めようとするが、先に口を開いたのはシャリィだった。
こんな状況になっても冷静そのもので落ち着いた様子である。
「面白そうですね、ドリーさんの大食いチャレンジ」
予想外のシャリィの反応に、真一はすぐさま念話でシャリィに確認する。
〘えっ!?シャリィ、止めないの?〙
〘大食い勝負なら大丈夫でしょう。ドリーさんは負けないですよ〙
〘うん、ドリーに任せるニャミュ!〙
自信満々に念話で答えるドリーだが、確かにドリーならどんな量でも食べられそうだ。
〘ミィクさんたちを助けるには、いずれどこかの時点で相手の土俵で勝負する必要がありました。でしたら勝率が限りなく高くて、しかも相手がこちらの実力を知らない分野で勝負するのが最善です〙
〘なるほど〙
〘結果的にはドリーさんの暴走は、最高のファインプレーだったかもしれませんね〙
そんな念話での作戦会議が裏で繰り広げられているなど露知らず、ナーザムは改めてドリーに確認する。
「まさか本当に当館の大食いチャレンジに挑戦されるのですか?」
「もち…
「内容によりますね」
だが即答しそうになるドリーを制して、シャリィがすかさず口を挟む。
勝負を受ける前に、しっかりとルールを確認しておく必要があるからだ。
「際限なく料理が出てきて物理的に達成不可能などという、勝負としての要件を満たしていないものでは無いんですよね?」
「当然ですとも!大食いに自信のある方なら、クリアできないものではありません。もっともレベル3とレベル4のチャレンジは、まだ達成者は出ておりませんが」
どうやらここの大食いチャレンジには、レベル1から4までの4段階があるらしい。
出てくる料理の数が、1皿から4皿まであるのだ。
ただし皿が進むにつれて、料理の量も1.5倍ほどに増えていく。
4皿目は1皿目の3倍以上にもなる計算だ。
料理の内容はモニターで事前に見せてもらうことができた。
1皿目はイモと肉を炒めた料理で、大皿1つ分くらいのサイズがある。
真一だと四分の一くらい食べれば、腹がパンパンになるほどの量だ。
「当然ながら上のレベルのチャレンジほど、クリア時の賞金も豪華になります」
「その分、失敗したときのリスクも大きくなるわけですね」
「はい、といっても通常なら料理の代金を割り増しで払っていただくだけです。とはいえ救世主のみなさまに請求などできませんから、ちょっとしたペナルティだけにしておきましょう。なに、この街ではごくありふれた、一般的な『ペナルティ』ですよ」
はっきりと罰の内容を明言することなく、あいまいな説明に終始するナーザム。
けれどもその心の内は、魔眼を持つシャリィには筒抜けであった。
〘どうやらレベル4に失敗すると、一発で奴隷コースのようですね〙
レベル4の賞金は、ナーザムの反応からして恐らく❽⓿⓿⓿リル《価値》(※約1.6億円)程度。
このミグルの相場で言うと、奴隷2人分くらいの金額である。
店側がそれだけの額を賭けるのだから、客側が自分の奴隷化を賭けるのも妥当ということなのだろう。
「それで、どのレベルに挑戦されますか?」
「もちろんレベル4ニャミュっ!♪」
今度はシャリィが口を挟むヒマもないまま、即答するドリー。
「それはそれは、、、」
それを聞いたナーザムは、思わず愉悦の表情を浮かべる。
「本当に自信がおありのようですね」
そう話すナーザムの口元には、隠しきれない嘲笑がにじみ出ていた。
チャレンジをクリアされる可能性があるなど、欠片たりとも想定していないのだろう。
これで1人目、三つ首獣人ディガンの奴隷化が決まったと確信しているようだ。
その後チャレンジの内容や報奨とペナルティを再度確認したところで、勝負を行うことが正式に決定した。
成功した場合はレベル4相当の賞金に加えて、ナーザムにこちらの質問に答えてもらうこと。
シャリィは異世界勇者ハルミの能力やこの街の裏の秘密について、いろいろと聞き出すつもりだ。
失敗した場合は、ここミルベガスで問題を起こした場合などに適用される、ごく一般的なペナルティが発生するとのこと。
ナーザムはそう言葉を濁しているが、負けたら奴隷化ということである。
ーーーーー
こうして始まったドリーの大食いチャレンジ。
詳しく語る必要があるだろうか?
いや、ない。
結果は真一サイドの誰もが予想した通りのものであった。
「エピーのエサはまだニャミュっ!?」
一瞬にして3皿目までを食い尽くしたエピーが、何1つ表情を変えることなく催促する。
逆に食べるのが早すぎて、調理が追いつかない程であった。
「次の4皿目が最後でしたね。これはドリーさんの勝ちでしょうか?」
罠に気付いている素振りも見せず、ナーザムに念押しするシャリィ。
ここまでの3皿は、どれも尋常ではないサイズだった。
それも皿が進むにつれて、サイズがどんどんと増えていく。
今まで食べたトータルの量は、獣人少女自身の胴体のサイズにさえ匹敵するのではないか?という程だ。
だというのに小さな少女の腹は、わずかたりとも膨らんでいないのである。
何かの手品か魔法ではないか?と、ナーザムが慌てふためくのも無理はなかった。
「厨房の準備に手間取っているようです。少し見て参りますね」
冷や汗をダラダラと垂らしながら席を立つナーザム。
この勝負に絶対に勝てと、領主のハルミから強く命令でもされているのだろう。
程なくして裏から、何やら騒ぎ立てる物音が聞こえてくる。
けれどもそんなナーザムの狙いも、シャリィの魔眼の前にはお見通しであった。
〘どうやら次の料理に毒物を入れるように指示しているみたいですね。即効性の下剤のようです〙
追い詰められたナーザムは、とんでもない実力行使に出てきたのであった。