2.26.39 生首だけでコンニチハすんな!
「はい、2回目です」
思いっきりヒロイン(仮)に蹴飛ばされたのは。
真一は村の中にある家の屋根の上から小声で呟く。
どうやら『生首だけでコンニチハ』するのは、相手を怖がらせるだけらしい。
さすがに学習した真一だった。
戦闘中にいきなり首飾りの紐が焼き切れて、地面に落ちた真一。
その頭の上でゴブリンキングとヒロイン剣士ちゃんの死闘が、決着のときを迎えていた。
女剣士キルナの敗北で。
ゴブリンキングの極大剣により、真っ二つにされそうになっていたのだ。
すぐさま真一はちょうど目の前にあったゴブリンキングのアキレス腱に噛み付いた。
ゴブリンキングの外皮は凄まじい硬さなのだが、それ以上に防御力チートの真一の歯の方が遥かに硬い。
とはいえ本来であれば、ザコ真一のアゴの力ではとても噛みちぎるなど不可能である。
それでも火事場の馬鹿力でも発揮されたのだろう。
真一の歯がゴブリンキングの頑強な皮膚を食い破り、激痛を与えることができたのだ。
そしてゴブリンキングが怯んだ隙に、ヒロイン剣士ちゃんは逆転の一撃を叩き込んだのである。
まさに抜群のチームワークの勝利であった。
やったぜ!という高揚感で、テンションだだ上がりの真一。
女剣士キルナとハイタッチはできないけど、声をかけようと考えた。
さっき戦闘中にいろいろ現地語を聞いたおかげで、異世界語翻訳スキルが発動した感覚があったのだ。
喋る方も含めて異世界語をマスターできたっぽいので、さっそく試してみたい。
由華先輩似の女の子のときは失敗したけど、この世界の言葉で話しかければ大丈夫のはずだ。
噛み付いていたゴブリンキングの死体から口を離すと、真一の頭がゴロンと転がる。
たまたま天を見上げた体勢になると、ちょうどキルナもコチラを見つめていた。
目が合ったので真一は、とびっきりの笑顔を浮かべる。
そうして異世界語で『コンニチハ』と声をかけてみたのだが、、、
結果はご覧の通りである。
「生首だけでコンニチハは、やっぱりダメなんだな、、、」
どうやら言葉の問題ではなく、見た目の問題だったようだ。
今さらながらにそのことに気が付いた真一であった。
さて蹴飛ばされた真一が着陸したのは、村にある家の屋根の上。
少し傾斜が付いている屋根の端の方まで、舌を使って移動する。
都合のいいことにそこからは、村の様子が一目瞭然であった。
下からは見つかりにくそうだし、真一はひとまずここで観察を続けることにした。
下手にコンタクトする前に、できるだけこの異世界や村の情報を得ようと思ったのだ。
真一が乗っている家は、村の中心の広場のような場所に面していた。
そこには多くの村人が集まってきている。
真夜中とはいえあれだけの戦いがあったのだ。
村人たちはさすがに全員起き出し、家の中に隠れて見守っていたようだ。
ようやく決着がついたので、一斉に外に出てきたところである。
みんなでヒロイン剣士ちゃんたちを囲み、口々に感謝の言葉を述べていた。
さて村人たちは全部で100人足らずってところだ。
家の数は20軒ほどなので、妥当なところだろうか。
そのうち本格的な冒険者パーティっぽいのは2組だけであった。
村人たちの会話で名前も分かった。
女剣士キルナが率いるパーティ『最前線』と、6人組のパーティ『青の疾風』だ。
うん、言葉が分かるのめっちゃ楽!
おかげで情報収集が捗る。
キルナはやはりこの村いちばんの凄腕で、どうやらシルバーランクの冒険者らしい。
お約束の冒険者ランク制度だが、本当にあるみたいだ。
もっともシルバーがどれくらい凄いのかは分からない。
ゴールドの1つ下と考えると上から2番目なので、もしそうなら滅茶苦茶強そうだ。
だけどゴブリンキングに大苦戦していたぐらいだし、上から3番目か4番目くらいかもしれない。
ちなみにメットを取った姿は本当にスゴい美人だ。
ただし美少女って年齢じゃなさそうで、二十代半ばくらいに見える。
ちなみに戦えるのはその2組だけというわけではないようだ。
他の村人たちもゴブリンと戦っていたし、大半はそれなりに荒事もこなせるみたいである。
まぁこれだけ危険な森に住んでいるのだから、当然なのかもしれない。
女性だって戦うようで、隠れていた女たちも弓とか刃物を手にしている。
なので非戦闘員は幼児や少女、老人くらい。
その中にはもちろん、村の外で出会った由華先輩似の少女もいた。
名前はミコミちゃんと言うらしい。
ミコミちゃんを含む10人くらいの子どもたちは、今も大人の村人に囲まれて守られている。
そしてミコミちゃん、やっぱりダントツで可愛い。
ミコミちゃんとキルナさんを見て、この異世界は美形だらけなのかと一瞬思った真一。
だけどさすがにそんなことはないみたいで、それ以外の村人は、まぁ、普通である。
あっでも、ミコミちゃんママはめっちゃ美人さんです。
ぜんぜんまだまだ余裕でイケるっ!
という真一のどうでもいい感想はさておき、時間はもう深夜である。
普通の村人たちや戦い終えた冒険者たちは、一通り話し合うとすぐに家に戻っていった。
貧乏くじを引いた若者たちだけが、徹夜で外壁の応急補修と村の見回りをするようだ。
そして疲れているのは真一も同じ。
激動の異世界2日目、溜まりに溜まった疲労でいい加減体力の限界である。
「ミコミちゃって言うのかぁ〜。名前まで可愛いなぁ〜」
などと呟きながら幸せな妄想を思い浮かべているうちに、真一の意識は急速にまどろんでいく。
今晩は久しぶりに良い夢が見られそうであった。




