6.49.342 川沿いの街
たっぷりと満足するまで食事をとった真一たち。(※主にドリーのみ)
あたりはすっかり暗くなってきたので、再びタクシーに乗ってホテルに戻る。
ミグルの夜は長いので、本来なら新たに訪れた街を見て回りたいところだ。
けれどもいつの間にかレストランの外に野次馬が集まっていたので、とても出かけるのは無理そうな感じだったのである。
どうやら『ディグフニューシュ《三美聖》』が来ていることは、もう街中に知られてしまっているようだ。
三つ首の真一たちがいると一目でバレバレなので、変装してお忍びなんてのも難しい。
結局はレストランの人に頼んで、裏口からタクシーでこっそり脱出することしかできなかった。
ホテルに戻ってきた真一たちは、今後の方針を話し合うことにする。
まずは誰かに拾われた右足パーツが気になるところだが、、、
「たぶん箱の中に放置されたまんまだと思う」
「筆談もできない感じですか?」
「うん、ずっと足の指でメッセージを書いてるんだけど、全く反応してくれないんだよな」
真一の右足を拾った誰かさんだが、もちろんとっくにどこかの街に着いている様子だった。
川で回収した右足をカゴか何かに入れてしばらく歩いていたのだが、1時間ほどで動きが止まったのだ。
そのままどこかの室内に運び込まれた真一の右足は、今は箱か何かの中に入れられて放置されている。
1メートルもない小さな箱なので、歩き回れるようなスペースもない。
真一も筆談したり動き回ったりといろいろアピールしてみたのだが、無視されたままであった。
「そうなると、すぐに右足を見つけるのは難しそうですね」
「うん、何か状況が変化するまで待つしかないかな〜」
これが地球なら、SNSで拡散して探してもらうことができたかもしれない。
けれどもここミグル《内側》には、そんな都合のいいツールは存在しないようだ。
今ならどこにでも記者が押し寄せてくるので、インタビューに答えて記事にしてもらえば、情報提供を呼びかけることもできるだろう。
けれどもいまやアイドルになってしまった真一たちでは、偽情報が大量に寄せられるのが関の山だ。
結局はしばらく静観しておくしかないのである。
「それじゃ、明日からはどうしますか?」
いまのところ右足の場所の手がかりは無い。
他のパーツについても、すぐに探しに行けるものは全て回収してしまっている。
残るは手がかりなしのものと、回収不可能な場所にあるものだけ。
となればパーツ集めもいったんここで中止する他ない。
「エサっ!エサを食べに行くニャミュ!」
「それはいつも通りだろ。これで新しいパーツの手がかりは無くなったわけだし、シャリィの世直し旅を始めよっか?」
「他にも民衆が迫害されてる街があるんですよね?」
「はい、代表的なところだとギューフュツとか、ボーロボロなんかが、ベドベダルと並んで悪名高い街ですね」
朝霞に答えてシャリィは、ミグル《内側》でも悪政を敷いていることで有名な街の名前を挙げた。
確かにその2つ目の街の名前は、どう聞いてもヤバそうな響きがする。
「じゃあさっそくそのボーロボロの街とかに行ってみる?」
「そうですね、、、ですがわたしとしてはその前に、このミグルのいろんな街を見て回っておきたいです」
真一の提案に考え込んだシャリィは、そんなことを言い出した。
「確かに普通の街がどんなかが分かってないと、何をどう世直しすればいいか分かりませんもんね」
「はい、ユアさん。文献ではいろんな街のことを知ってはいるのですが、わたしが実際にこの目でよく見たことのある街は、ベドベダルだけですから」
なんせ生まれてからずっと、城の最上階に閉じ込められていたシャリィである。
世直しをするにしても、正常な街の基準というものが分からない。
戦場を飛び出してから、フェンミンやゲッシュフトなどいくつかの街を通りがかっただけなのだ。
そして街の生活をほとんど知らないのは、真一や朝霞も同じであった。
「だったらしばらくはこの街に滞在して、街の様子を見学してみることにしましょうか」
「といっても、これだけ騒がれてちゃ、とても街歩きなんてできそうにないかも、、、」
なんせいまや救世主アイドルとなってしまったシャリィたちである。
普通に街の中で暮らすことなど、とてもじゃないが出来そうになかった。
恋人たちとのんびり異世界観光もいいかと思っていた真一だったが、そう上手くはいかないらしい。
「ミュイ〜、だったら元の予定に戻って、ユアの冒険者訓練からやり直すのがいいんじゃない」
朝霞を仲間に加えて冒険の旅に出た真一たちの、最初の目的はそれであった。
「確かに街の外のダンジョンなら、それほど騒がれることもないですよね」
「決まりだな。それじゃ明日は、朝イチで冒険者ギルドに行ってみよっか!」
こうしてエピーの提案により、明日からは冒険者としての生活を始めることになった。
そうなれば今日はもう寝るだけであり、、、
その際には例のイベントがあるわけである。
「ミュイ〜、予定も決まったし今日はもう寝よっか!それじゃシン、お休みのチューしよっ♪」
ずっと日課となっている、寝る前のキスをせがむエピー。
宿泊しているホテルの部屋には寝室がいくつもあるが、エピーはそのうちの1つに歩き出しながら真一に流し目を送る。
ただし寝室へ向かうのは、もちろん真一たちだけではない。
「ユアも来るニャミュ♡」
「や、やっぱりわたしも、、、?」
口ではそう言いつつも、ドリーに続いて寝室へと歩いてくる朝霞。
3人はエッチにはトラウマを抱えてしまったはずなのだが、キスまでなら問題ないようだ。
そして当然のようにシャリィも、寝室へと付いてくる。
「シャリィもキスするニャミュ?」
「もちろんしますよ。ですがわたしがキスするのはシンだけです。それに、、、」
ドリーの無邪気な質問に、当たり前だと答えるシャリィ。
けれどもシャリィはもちろん、キスだけで終わるつもりなどない。
「シン、キスの後は2人だけでたっぷり楽しみましょうね♡」