6.27.320 左足を探して
空を行く3つの人影。
もちろん、エピーたち、シャリィ、そして朝霞である。
朝霞も自由に空を飛べるようになり、真一たちはさっそく『左足パーツ』の捜索を始めていた。
目印はシャリィが可視化した『赤い光』だ。
エピーが左手で『左下腿部パーツ』を持ち、光の指し示す方向へと向かっていく。
もともとゲッシュフトの街の近くにあるように見えていたが、近づくにつれてどんどん光が強く太くなってきていた。
やはり『左足』の在り処は、ゲッシュフトの西にある『日没の森』のようだった。
そこは直径30キロメートルほどの密林地帯である。
そこそこ凶悪なモンスターが棲み家としていて、冒険者ギルドの設定した推奨ランクはシルバー(Bランク)。
もちろんエピーたちから見れば雑魚なのだが、世間一般からすればかなりの高難度エリアだ。
真一たちはそんな『日没の森』の上空に、既に差し掛かっていた。
「けっこう広い森だな。この光がなければ、絶対見つけられそうになかったとこだよ」
「ミュイ〜、かなり近くまで来てるっぽいね~」
エピーの持つパーツから出る光は、既に前方ではなく斜め下を指し示していた。
目的地は森のほぼ中心部のようだ。
光の方向と見比べながら、手がかりを探して目を凝らす真一。
最初に気付いたのは、野生の視力に優れたドリーであった。
「ニャニャっ!?なんかあるニャミュっ!」
「ムレビトの村かなぁ、、、それにしては何だかみすぼらしいけど」
「いえ、あれは人のものではないですね。もっと野蛮な何かの集落のようです」
エピーとシャリィもその村を視界に捉えているようだ。
どんどんと接近していき残り距離が1キロほどになる頃には、ようやく真一にも姿が見えてきた。
それは森の中の少し小高くなった場所に設けられた拠点のようであった。
集落の周囲には壁が作られているが、防壁と呼べるほど立派なものではない。
丸太が隙間だらけで突き刺されており、何となく壁っぽくなっているだけだ。
壁の中の集落には、家とも呼べないような、半ば崩れ落ちたボロ小屋が点在している。
見た目から言えば、廃集落といったところであろうか。
ただし明らかに住んでいる者たちの気配がある。
もしかしたら人間が放棄した村に、何者かが住み着いているのかもしれない。
そんな村は丘のような地形の頂上部に作られており、中心には高くて巨大な木が生えている。
そしてその巨木を足場にするようにして、警戒用の櫓が組まれていた。
その櫓の上には、人型の何者かがいて監視を行っているようだ。
やや小柄なその姿が、真一の目にもうっすらと見える。
それはつまり向こうからも、接近してくる真一たちの姿が見えているということなのだ。
「痛てぇぇぇっ!!」
いきなりの激痛に思わず涙目になり、悲鳴を上げる真一。
またしても『タンス野郎』が、真一の左足の小指をタンスにぶつけてきたのだ。
しかもそれは今までになかった凶悪な勢いである。
カーンっ!
それと同時に集落の方から、鐘の音が聞こえてきた。
音がしているのは、ちょうど櫓の上のあたりだろうか。
そして、、、
「痛てっ!痛てっ!だから痛いってのっ!!!」
何度も何度も繰り返して、真一の小指に激痛が走る。
いつもの朝の目覚ましは1回だけなのに、今回は何故か『連打』であった。
それも狂ったような連打だ。
カンっ!カンっ!カンっ!カーーーンっ!!
それと同時に物見櫓の方からも、焦りまくったような鐘の音が鳴り響いてくる。
どう考えても、警報の鐘であった。
そうして真一はようやく気が付く。
まだ距離があるので、音が届くまでに多少のタイムラグはあるもののの、、、
この鐘の音って、完全に小指の痛みとシンクロしてるよな?
小指に痛みが走った数瞬後に、カーンっ!という音が届いてくるのだ。
つまりあの鐘は、、、
真一の左足の小指を打ちつけて鳴らしているのだ。
決してタンスの角にぶつけていたわけではなかったようである。
どうやらパーツの持ち主の正体は、『タンス野郎』ではなく『鐘つき野郎』だったみたいなのだが、、、
わざわざそんなコトに、俺の足を使ってんじゃねぇよっ!!!
と、涙目で恨みがましく、櫓の上の人物を睨む真一。
恐らくソイツは、この集落の見張り役なのだろう。
実際に村中に響き渡るアラート音に、村の住民たちが一斉に飛び出してくる。
そうして空を見上げて真一たちの方を指さしていた。
そんな『村人』たちの正体は、、、
「どうやらゴブリンの村のようですね」
またお前らかよっ!!!
どんだけゴブリンだらけなんだよっ、この異世界っ!!
シャリィの声を聞きながら、この異世界ミグルに送られてきたばかりの頃の出来事を思い出す真一。
ワンパターンな展開に、いい加減ゲンナリしてくるのであった。