6.22.315 未踏領域の最強モンスター
もう1つのパーツが未踏領域にあると知って、一様に難しい表情を浮かべる真一たち。
普段通りなのは1人だけである。
「それがどうしたの?ドリーなら何処でも余裕ニャミュ♪」
「ミュぅぅ、ドリー、ヴォイグル《未踏領域》ってのは、エピーたちのいた群れがあったとこだよ」
脳天気なドリーと違って、エピーは未踏領域の恐ろしさしっかりと分かっていた。
というのもエピーたちが追い出されたカミュリャム《至聖龍》の群れは、その未踏領域で暮らしていたからだ。
そしてその群れにいた至聖龍たちは、今のエピーたちよりも遥かに強大な力を持っていた。
何よりそこは、エピーとドリーが左の首を失った場所なのである。
だがこの場で誰よりもそのエリアの危険性を認識しているのは、他ならぬ真一であった。
シャリィの話を聞いて真一は思い出したのだ。
この膝の切断面の上にあるパーツが、どんな状況にあるのかを。
そこにあるのは真一の左足の太もも、『左大腿部パーツ』である。
そしてそのパーツは既に拾われているのだ。
謎の最強モンスターによって。
「やめよう。今の俺たちの力じゃ、そのパーツの回収は不可能だ」
いち早く決断を下す真一。
けれどもドリーは不思議そうな表情を浮かべる。
「ニャニャっ!?なんでニャミュ?」
「俺の左の太ももは、とんでもなくヤバいモンスターに拾われてるみたいなんだ」
「そうなんですか?ですけどダグザギャッデスだって倒せたんですよ」
「いや、ユア、コイツはそれとは比べようがないくらい、本当にヤバいんだ」
「ニャニャニャっ?」
だが口でそう言うだけでは、簡単に納得してもらうことは難しそうだ。
真一はもう少し詳しく説明することにする。
「そうだな、例えばドリー、、、エピーが持ってる俺の左足、食べようと思っても硬すぎて歯が立たないだろ」
「えっ!?食べていいニャミュ♪?」
真一の例え話に、条件反射的に食い付く腹ペコドラゴン。
「例えばって言ってんだろっ!!」
「いただきまーす♡、ガブっ!!」
真一の言葉も聞かず、ドリーは衝動的に左下腿部パーツに噛みつく。
全力で、、、
「痛っでぇぇぇぇっ!!!」
幻獣種ドラゴンの凶悪なアゴの力に、涙目で絶叫する真一であった。
だが涙目になったのは真一だけではない。
「ニャぁあ゛ぁぁっ、硬いニャミュぅぅぅ。シンは硬すぎて美味しくないニャぁぁ(泣)」
エピーも真一のふくらはぎのあまりの硬さに、悲鳴をあげてわんわんと涙を流していた。
まさに自業自得である。
とはいえあれだけさんざん真一を喰う喰う言っていたドリーだったが、実際に噛み付いたのは今回が初めてのことだ。
そして真一のマズさは想像以上に衝撃的だったようである。
「うわぁぁん、ショックニャミュぅぅ。コウビの後はシンの身体を食べてみようと思ってたのに、、、」
カマキリかよっ!!
と、ドリーのサイコ発言に脳内でツッコミを入れる真一。
そしてコウビもデザートもダメになって、意気消沈する肉食カマキリ雌ドラゴンであった。
それはさておき痛みに顔をしかめながら、真一は話を続ける。
「とにかく俺の防御力はカンストしてて、普通なら傷なんてつけられないんだ」
ステータス画面によると、真一の防御力は『65535』である。
これは2の16乗、つまり16ビットの最大値であり、カンストしているのだと考えられる。
そしてそれはダグザギャッデスを始めとして、ありとあらゆるモンスターの攻撃を跳ね返してきた。
そんな真一の防御力が突破されたのは、今までにわずかに3回。
邪神のデモンストレーションによるバラバラ切断。
朝霞のヒカるんによる、絶頂ビーム。
そして謎の最強モンスターによる太ももへの甘噛みであった。
さらにはヒカるんガードを破った魔王の特殊な攻撃も、真一の防御力が通じない可能性が高い。
ただしヒカるんや魔王の攻撃は、あくまで『特殊な効果』によるものである。
対して謎の最強モンスターは素のステータスだけで真一の防御力を突破しているように感じられたのだ。
それはつまり、、、カンスト値を超える存在なのではないか?と。
「俺の太ももを拾ったヤツは、簡単に牙を突き刺してきた。恐らくダグザギャッデスや至聖龍ですら、簡単にひねり潰せるくらいの力があるんだと思う」
「ニャミュぅぅぅ、、、」
さすがのドリーもようやくヤバさを認識したのか、強気な様子に陰りが見えている。
そしてエピーは目に見えて顔色を真っ青にさせていた。
冷や汗まで流して目が虚ろな様子は、どう見ても尋常ではない。
もしかしたらそんなヤバいモンスターに何か心当たりがあるのかもしれない。
あるいは今の話で何か恐ろしいことを思い出したとか。
例えば左の首を失ったときのこととか、、、
とはいえあまりにもエピーの様子がおかしくて、真一としても気安く聞ける雰囲気ではなかった。