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6.4.297 ベドベダルと穢れの残滓

 魔界の門からべドベダルまでは、普通の魔動車なら丸1日以上かかる距離。

 シャリィが乗ってきたような高速浮遊ホバークラフトタイプでも、半日は必要だ。

 けれども真一たちはわずか数時間で、目的地に近づいていた。

 エピーは飛行のスキルを使い、ここまで全速力で飛び続けている。

 そしてそのスキルを真似て初めて飛行魔法を構築したシャリィは、エピーのスピードに難なく並んでおり、まだまだ余裕すらありそうだった。


 背中に美しい純白の羽根を広げて、目的地へと先導するシャリィ。

 だがシャリィがやっているのはそれだけではない。

 飛行魔法を使って朝霞の身体も飛ばしているのだ。

 おかげで朝霞はシャリィの後方を同じスピードで付いて来れていた。


 朝霞を抱えずに済んでいるので、エピーも全速力で飛べるようになっている。

 それどころか今のシャリィなら、真一たちまでまとめて浮かせて、もっと高速で飛べそうですらあった。

 ただしシャリィが朝霞を魔法で浮かせているのには、別の思惑があるのだ。


 とりあえずこれでアサカさんがシンに抱き着くのは阻止できました。

 何だかこの子はただの小娘とあなどっちゃダメな気がするんですよね、、、


 と、魔眼による洞察で、シャリィは朝霞の加護の力の危険性を敏感に感じ取っていた。

 不用意に真一に近づかせたら、何かとんでもないハプニングが起こりそうで。

 その結果、恋のライバルに真一の心を奪い去られてしまうのでは?という予感がするのだ。

 計算高き魔女シャリィは、アサカとシンの物理的距離を離そうと悪巧みしまくりなのである。


 高速で飛行していても目的地まではそれなりに時間がかかる。

 けれどもお互いに自己紹介などしていると、あっという間に時間は過ぎていった。

 シャリィの魔法で空気のシールドを張っているので、静かな会議室にいるかのように自然に会話ができる。

 みんなかなり打ち解けてきて、『シン』、『エピー』、『ドリー』、『ユア』、『シャリィ』と愛称で呼び合うようになっていた。

 ちなみに人名の発音が苦手なエピーとドリーだったが、『シャリィ』は普通に言えるようである。


 そんな感じで飛んで行くうちに、べドベダルの街が見えてくる。

 円形の城壁に囲まれた、かなり寂れた雰囲気の街だ。

 これまで真一たちが訪れたバンリャガなどよりもだいぶ小さく、住民の数も少なそうだ。

 街の中心には巨大な円錐状の塔のような城があるが、それすらも物悲しげな印象があった。


 ただしシャリィが向かっていく先はべドベダルの街ではない。

 そこから右手の方角にある、不気味な渓谷のような場所だ。

 赤黒い地肌の様子を見ると、『不毛の大地』という言葉が思い浮かんでくる。

 実際には木々も少なからず生えてはいるのだが、普通の植物とは異なる邪悪な気配を感じさせた。


「シャリィ、あそこは?」


「『けがれの残滓ざんし』と呼ばれている場所ですが、実は初代さまがシュニグマ《暴狂霊ぼうきょうれい》を封じた地なのです」


 べドベダルの周辺では凶悪なモンスターが大量に発生するが、この場所こそがその元凶なんだそうだ。

 初代べドベダルとシューリュウ《神霊》が創り上げた封印は、シュニグマ《暴狂霊》自身の力をエネルギー源としているらしい。

 シュニグマ《暴狂霊》の持つ膨大な魔力を使って、封印を維持しているのだ。

 だがそれでもなお消費しきれないシュニグマ《暴狂霊》の邪悪な魔力が周囲に漏れ出してしまう。

 それによって汚染された場所こそが、この『穢れの残滓』であった。


 そうこうするうちに、真一たちは封印の地に到着する。

 不気味で入り組んだ渓谷の奥地に、空からゆっくりと降りていく。

 すると地上からではとてもたどり着けなさそうな急峻な谷間に、大きく陥没した深い穴があった。

 穴の中へと下降していくと、吐き気のするようなおぞましい空気が漂ってくる。

 そんな穴の底には、闇そのものが実体を持ったかのようなナニカが降り積もっていた。

 触れたら精神まで汚染されてしまいそうな、黒いヘドロのようなものである。


「はぁっ!」


 ゆっくり空から降下していくシャリィが、足元のヘドロに向けて衝撃波の魔法を放つ。

 すると一帯のヘドロが浄化されるように消し飛んでいった。

 そうして黒くただれた地面があらわになる。

 そこには黒光りする四角い石柱が、やや傾いた状態で穴の底に突き刺さっていた。

 禍々しい気配を発するそれが、シュニグマ《暴狂霊》の封印されたものだと見て間違いないだろう。


「ニャニャ〜、なんだかマズそうニャミュぅぅ〜」


 何でも口に入れる腹ペコドラゴンでさえ食べたくないというのだ。

 そのヤバさ具合がよく分かるというものであった。


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