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5.76.293-1 【エピローグ】決別のとき (1)

第5章の最終話です。

長くなったので分割します。

〘ありがとう、わたしの愛し子。これでこの地は完全に浄化されました〙


 ようやく目の前で顔を合わせることのできた『愛し子』に、『彼女』は優しく語りかける。

 元気な姿を見られたことも嬉しいが、何よりも『彼女』の悲願が成就したことが大きい。

 『愛し子』はこの地に戻るなり、『彼女』たちの悲願を成し遂げてくれたのである。

 これにより『彼女』が『愛し子』に願った使命の1つは果たされたわけだ。

 そしてもう1つの使命は、、、


〘この後どうするかはあなた次第です。この歪められた世界をどうするか、わたしからあなたに何かを求めるつもりはありません〙


 全て『愛し子』へと委ねることにした。

 かつてこの星は『彼女』たちのものであった。

 けれども歪められた結果とはいえ、もはやこの世界は人間たちのものである。

 であるなら世界の未来は、人の子の手によって創られるべきだろう。

 だからこそ『彼女』は、リューイン《創世神》に代わって世界を導く存在として、『愛し子』を生むことにしたのである。


〘あなたがこの世界をどう変革するか、全てはあなたの思うがままに。あなたはこの世界を導く者として生まれたのですから〙


 旅立つ『娘』に、『彼女』は最後に声をかける。


〘良き旅を、わたしの愛し子〙



ーーーーー



 ランドット・べドベダルは頭を抱えていた。

 戦場からとんでもない報告が届いたからである。


 魔族との戦争は、人類の勝利で早々に決着したらしい。

 それ自体は素晴らしい知らせである。

 そしてその勝利の立役者こそが、、、

 ランドットの娘である、魔女シャルラリィであった。


 今朝決行された作戦では、『魔女』が単身でウズングル《魔界》に乗り込んだそうだ。

 人類連合軍も表側から攻めて挟撃作戦を展開する予定だった。

 だがその必要は無かったらしい。

 何故なら魔女がたった1人で魔王軍を壊滅させ、撤退に追い込んだからだ。

 しかも魔族に支配されていた『魔界の門』まで取り戻したのである。


 本来であればランドットとしても喜ぶべき事態だろう。

 べドベダルが派遣した軍が、最大の功績を上げたのだから。

 とはいえそれは『魔女』が魔王軍ですらどうにもならない化け物だったことの証明であり、、、

 同時にその怪物が五体満足で帰ってくるということなのだから。

 だがそこに予想外の続報が届く。


〘姫さまはもうべドベダルに戻らないそうです。冒険者となって旅に出ると言って飛んで行ってしまいました〙


 魔女のお目付け役として送り込んでいたジョズボンが遠話通信で連絡してきたのだ。

 魔女の管理を任せていたはずなのにこのザマとは!と、無能な部下を叱りつける。

 一見するとべドベダルの街が魔女から解放されたように思えるが、事はそう単純ではない。


 問題となるのは街の防衛戦力だ。

 べドベダルの街の周辺では、凶悪なモンスターが大量に発生する。

 それらの駆除をこれまで一手に引き受けてきたのがシャルラリィだ。

 その魔女がいなくなったら、この街は一気に滅亡の危機にさらされることになる。

 魔女がいなくなれば有力な兵士や冒険者たちが戻ってくるかもしれないが、それまで街が無事に存続できるとは思えなかった。


 さらには解き放たれた魔女が何をやらかすかも、頭の痛い問題である。

 もし魔女がどこかの街で虐殺でも引き起こせば、都市間での紛争にすら繋がりかねない。

 ランドットが恐ろしい魔女を、怖がりながらも閉じ込めていた理由がそれである。

 けれども魔女はいまや、ランドットの制御下を離れて飛び出してしまったのだ。

 人間の思考の及ばないあの化け物が何をしでかすかなんて、ランドットには予想などつかない。


 ランドットは夕暮れの執務室で、机に肘をついて頭を抱えていた。

 明かりを点けることすら忘れたままである。

 だがそんな薄暗い室内に、突然窓から閃光が差し込んできた。


「なんだっ!?」


 ランドットが驚いて顔を上げると、街の外の空が夜の始めとは思えないほど明るく輝いている。

 慌てて城の部屋からベランダに飛び出すランドット。

 すると❻角(※南西)の方角の空が、白や赤や黄色の光で明滅していた。

 まるでリューイン《創世神》が何か巨大な魔法でも使っているかのようである。

 城の塔から下を見下ろすと、城壁の上に大勢の兵士たちが駆けつけてきて、空を指さして慌てふためいていた。


「『けがれの残滓ざんし』の方ですね、、、」


 すると横の方から強張こわばった声が聞こえてくる。

 隣りの部屋のベランダに、ランドットの妻である霊王れいおうミシャルリィも出てきていたのだ。


「あれはなんだっ!? ミシャルリィっ!」


 苛立たしげに問いかけるランドットだったが、ミシャルリィも不安そうに首を振るだけ。

 このべドベダルの地に来てから、ランドットが意味不明な事態に直面するのは、もう何度目のことか。

 人智の及ばない怪異だらけの呪われた大地に、自らの不幸な運命を嘆くしかないランドット。

 すると❻角の方向の空にひときわ眩しい閃光がピカっと走り、、、

 そうして神々(こうごう)しい光の柱が天に昇っていく。


 まるで神話の世界の出来事のような光景である。

 どう見ても人間や並のモンスターの成せるわざではない。

 神に類する何者かの力が働いているに違いなかった。

 ミグル《内側》の終わりが来たのかとすら感じて、怯えきったランドットは身震いする。


 とはいえ不思議なことに、そこからは邪悪な気配は感じなかった。

 人の力の及ばぬ天変地異に畏ろしさは覚えるものの、『空の光』からは邪悪を浄化する神々しさが伝わってくるのだ。

 他の者たちも同じ感覚なのだろう。

 ミシャルリィも兵たちも逃げ惑う様子もなく、神の力に畏れ入るように呆然と見上げるばかりだ。


 やがで空を染め上げた光の柱は溶けるように消えていった。

 だがいつの間にかすっかり暗くなっていた夜空には、ひときわ眩い光が残ったままであった。

 神々しく輝く星のような光が、ただ1点浮かんでいるのだ。

 しかもその輝点は動いているみたいで、、、

 しばらく見つめていると、どうやらこちらへと近づいて来ているようだ。


 ランドットが、ミシャルリィが、兵士たちが、そしてべドベダルの全住人が、、、

 騒ぎ立てることすらできず、押し黙ったまま『光』の動きを見守り続ける。

 程なくして街の近くにまでやって来た『光』は、どうやら何かの生き物である様子だ。


 最初は鳥か何かに思えた。

 大きな翼を広げていたからである。

 けれどもその『光』は翼を羽ばたかせてはいない。

 しかも胴体部分は人間のような姿に見えた。

 どうやら翼を生やした人間みたいである。

 近づいてくるにつれ、誰もがその姿形すがたかたちを視認したのだろう。


「天使さま、、、?」

「神の御使みつかいさまなのか?」

「リューイン《創世神》の下僕しもべなんじゃ?」

「ありがたや~」


 それが『天使』のたぐいなのだと、多くの住民たちが感じ始めていた。

 身の危険を感じている者はおらず、誰もが有難そうに見上げている。

 中には涙を流したり、ひれ伏したり、己の身体を抱きしめたりする者が続出する有り様だ。

 やがて『天使』らしき者は、街の防壁を越え、ランドットのいる城へ向けて一直線に向かってくる。

 どうやら目的地はここのようだ。

 さすがに身の危険を感じ始めて、わずかに後ずさるランドット。

 だが、、、


「シャリィ、、、」


 隣りから妻の、身震いするような、泣き出してしまうような、呆然とした声が聞こえてくる。

 まさか!と思い目を凝らしてみると、、、

 『天使』のように見えたそれは、、、

 間違いなくランドットの娘であるシャルラリィであった。


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