5.71.283 女の戦い
シャリィはやっぱり俺のことを、、、
エピーたちに対するライバル宣言という形ではあったが、シャリィの真一への好意はもはや疑いようがなかった。
その言葉に込められた想いの大きさは、繋いだままの右手からヒシヒシと伝わってくる。
とはいえ真一には既に大切な恋人がいるのだ。
2人も。
しかも文字通り一心同体の恋人たちである。
どう考えてもシャリィの告白を受け入れることはできない。
けれども命を救われたという恩義が、、、
シャリィの事情を聞かされて感じた同情が、、、
そして今まで『身体』を重ねてきた経験が、、、
真一が口を開こうとするのをためらわせる。
シャリィの好意をすぐに断ることができない。
そんななか、、、
「どういうことニャミュ?」
シャリィの宣戦布告の意味が良く分からなかったのか、ポカンとした表情を浮かべるドリー。
もちろんそんなお馬鹿っ子と違って、エピーは一気に全面対決モードである。
大気が震えるほどの怒りのオーラを発して、シャリィをキツく睨みつける。
「シャリィ、、、やる気なの?エピー、絶対に許さないよ?」
だが荒れ狂うエピーとは対照的に、シャリィは落ち着き払った様子で穏やかな表情を浮かべたままだ。
「はぁ、そうですか。大人しく譲ってくだされば面倒にはならなかったのですが、、、わたしのシンはわたしだけのものです」
とはいえ柔らかい口調ではあるものの、シャリィからも絶対に譲らないという強い意思が明確に感じられた。
相手を射殺さんばかりの殺気の込められたエピーの視線。
涼しい顔をしながらも、何処までも揺るがないシャリィの視線。
2人の女の熱い視線がぶつかり合い、空中に火花を散らす。
そしてその2人の女はどちらも、世界を滅ぼすことすら可能なほどの超越的な力を秘めているのだ。
大気がバチバチと音を立てて震え出し、衝撃波となって乱れ飛ぶ。
世界の終焉を引き起こしかねないほどの修羅場の始まりであった。
いきなり勃発した世界滅亡危機に、真一と朝霞はアワアワと狼狽えるばかりだ。
そんななか決して引くことのない2人の女のバトルは、真一へと飛び火し始めた。
「シンはエピーのだもんっ!!」
「それはあなたが勝手に決めることではないでしょう。大事なのはシンの気持ちです」
「シンはエピーのこと大好きなんだよっ!そう言ってくれたんだからっ!」
そして真一が何か言うヒマはなかった。
真一の気持ちなどお構いなしに、シャリィとエピーの恋愛バトルが繰り広げられていく。
もっともここで『どちらを選ぶのか?』なんて聞かれていたら、真一は大いに困る羽目になっただろう。
もちろん『わたしのために争わないでっ!』なんてお約束のセリフを言える雰囲気ではない。
恋人と命の恩人の間で板挟みとなり、2人の怒りを余計に燃え上がらせるだけになった可能性が高かった。
命拾いしている真一の目の前で、女のバトルはヒートアップしていく。
「確かに今はまだ好きが上回っているかもしれません。ですが人の気持ちは変わるものなのです」
「ミュイっ!?どういうこと?」
「エピーさんとドリーさんでしたっけ。ドリーさんはともかくエピーさん、あなたはどうも独占欲が強過ぎて恋人を束縛しすぎるタイプのようですね」
「それの何が悪いのっ!エピーとシンはお互いに大好きなんだから当たり前でしょ!」
「そう思っているのなら、エピーさんは恋人として失格でしょう。相手の気持ちをちゃんと気遣えてこそ、真の恋人と呼べるのです。自分のことばかり考えているようでは、まだまだですね」
「そんなことっ!!ないよね、、、?」
咄嗟にそう反論するエピーだったが、その声には先ほどまでの勢いがない。
シャリィの鋭い指摘に対して、自信を持って言い返せないのだ。
なんせエピーは初めて恋人が出来たばかりの恋愛初心者なのだから。
断定口調でそう言われれば、自分でもその通りだと思ってしまう気持ちを否定できなかった。
ちなみにこの場にいるのは全員がまともに恋愛経験のない素人ばかりである。
シャリィの恋愛講座にふむふむと納得させられてしまう出来の悪い生徒たちであった。
そんなチョロい4人は、シャリィ先生も恋愛経験ゼロの生娘であることには気付いていない。
「そうですか?既にシンを独占しようとしてとんでもない失敗をやらかしているのでは?」
シャリィの勘の良すぎるツッコミを受けて、真一たち4人全員の脳裏に、昨日の暴走エピーの姿が思い浮かぶ。
真一のリモート浮気がバレて、怒りのあまりにとばっちりで全人類を滅ぼそうとしたエピーの錯乱ぶりが、である。
そして今もまた世界危機を引き起こしかけているのだ。
気まずそうに目を泳がせるエピー。
そして何も言えずに顔を見合わせる真一と朝霞。
能天気なドリーでさえ、さすがに昨日のエピーはヒドすぎたと思ったのか、言葉に詰まる有り様であった。
そんな4人の姿が、シャリィの指摘に対する何よりの答えであった。
いつの間にかエピーの視線に込められていた殺気は薄くなり、つぶらな瞳は迷子のように弱々しく潤んでいた。
「心当たりがあるみたいですね。この様子ではシンに愛想を尽かされる日も遠くないでしょう。いざそうなってシンに捨てられ傷つく前に、自分からシンを手放してくれた方が傷も浅くて済むと思いますよ」
「ミュミュっ!そんなことないよね!シン、エピー、迷惑なんかじゃないよね?嫌いになんかならないよね?」
「も、もちろん、嫌いになるわけないよ!」
涙目で必死に訴えるエピーに、即答する真一。
当然ながら真一もエピーを嫌いになるなんて考えられない。
だというのに真一の答えはどこか歯切れが悪かった。
何故なら『迷惑じゃないよね?』という部分に対して、完全に違うとは言い切れなかったからだ。
エピーの凄まじい嫉妬深さにより、何度も人類滅亡の危機に追い込まれているとあっては、、、
だが真一のそんな反応に、エピーはどうしても不安を感じてしまう。
そして弱ったエピーをさらに追い詰めるように、シャリィが追撃を畳み込む。
「どうやら既に迷惑に思われてるみたいですね。エピーさんがとんでもない問題を起こして破局を迎えるのは避けられそうにないでしょう。ここでキレイな思い出のままお別れしてはいかがですか?」
「ミュミュぅぅ、、、」
完全に劣勢へと追い込まれてしまったエピーであった。