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5.60.251 決戦前夜

『この戦いが終わったら交尾するんだ』


 そんなフラグにしか聞こえない約束をして、何とかエピーとドリーに今夜だけは我慢してもらうことができた真一。

 首の皮一枚でなんとか貞操を守り抜いて、朝霞はいまだドキドキする胸をおさえて放心状態である。

 『あなたたち、そういう関係だったのね』と、リカナたちには呆れ果てられまくりである。

 そして意外にもウブなカイチは、部屋の奥で真っ赤になってアワアワしていた。

 そんなこんなでエロエロタイムは保留となったわけだが、そうなると再び真一の浮気裁判が始まることになる。


「シン、エピーにちゃんとした交尾するなら、今回だけは許してあげる」


 エピーはいまだに怒りが冷めやらない様子である。


「うん、ザコのマオビトどもはさっさと片付けて、4人でコウビするニャミュ♡」


 早くも気持ちは交尾でいっぱいのドリー。

 いつの間にか魔族に『マオビト』という呼び名をつけていたようだ。

 魔王軍の『ムレビト』だから『マオビト』なのだろうか。


「よ、4人、、、ほんとにわたしもやるんだ、、、」


 完全に数に入れられていることに、取り乱すばかりの朝霞。

 もちろん心の準備など、ぜんぜん出来ているはずもない。

 追い詰められてとんでもないことを口走ってしまったと、後悔しきりであった。


「だけどエピー、まだあの女のこと、許したわけじゃないからねっ!」


「え、エピー、、、」


「そうなの?ドリー、あのガキンチョも入れて、みんなでコウビすればいいと思うニャミュっ!♪」


 チョロすぎるのか、はたまた恋愛観がオープンすぎるのか、シャリィまで交尾仲間に入れようとするドリー。


「ミュイっ(怒)!ドリーは黙っててっ!」


 そんなあまりにも軽いドリーの一言に、ガチでお怒りのエピーであった。


「ごめんニャミュぅぅ〜」


 さすがのドリーですら空気を呼んですぐさま謝罪するレベルである。


「シン、約束して。明日マオーグンをぜんぶブチ殺したら、シンの右手を回収して、あの女とは2度と会わないって」


 そんなエピーのお願いだが、実際には脅迫に近いレベルの威圧感がある。

 もしこれを断れば、今度こそ本当に世界が滅びるかもしれない。

 だとしてもここだけはどうしても、真一も引けなかった。


「ごめん、エピー。それだけは出来ないんだ」


「なんでなのっ!シンっ、やっぱりあの女の方が好きなのっ!?エピーより大事なの!だったらエピー、やっぱりシンもあの女も食べて、世界を滅ぼすしかないよっ!!」


 再びエピーの怒りのボルテージが急上昇し、ラスボスオーラを放ち始める。

 リカナやカイチたちが、部屋の隅でガタガタと震えだす有り様だ。

 それでも真一は必死で説得を続ける。


「そんなことないからっ!いちばん大事なのはもちろん、エピーとドリーだからっ!」


「だったら、あんな女なんてどうでもいいよね!」


「エピー、聞いてくれ。シャリィは俺の命の恩人なんだ」


「恩人?」


「そうだ、この世界にやって来て死にかけていた俺を助けてくれたのがシャリィなんだ」


 ここまできたらもう誤魔化していいような状況ではない。

 真一は正面から誠心誠意言葉を尽くして、エピーに訴えかけることにした。

 これまでの事情を包み隠さずぜんぶ打ち明ける。


 この異世界に来てすぐにスリップダメージで死にかけていたこと。

 それを救ってくれたのがシャリィであること。

 真一が生きていられたのはシャリィのリジェネ魔法のおかげで、今もずっと回復してくれていること。


「シャリィがいなかったら、俺はとっくに死んでた。俺はシャリィに命の借りがあるんだ。だからシャリィを助けるためならなんだってやる」


「ミュ〜、シンの気持ちは分かったけど、、、やっぱりエピー、イヤだよぅ、、、だって、、、あの女がシンと交尾したいって言ったらどうするの?」


「いや、今の俺じゃ交尾出来ないから!だいたいシャリィがそんなこと言うはずないしっ!」


「そうニャミュぅ?あのガキンチョ、シンのこと大好きだよ」


 王女様がまさか?と思いつつも、鋭い野性の感を持つドリーにそう言われると、そんな気がしてくる真一。

 これまでのシャリィの言動を考えると、あながち間違っているとは思えない。


「それでもっ!エピーとドリーだって、俺の恩人だから。裏切ったりはしないって」


 ムキになってそう言いつつも、説得力がないなと自分でも思ってしまう真一であった。

 実際にシャリィに迫られたとしたら、果たして本当に拒絶できるのかどうか。

 そもそもシンシンちゃんとの『裏切り』についてはまだ隠しているあたり、後ろめたさが半端ない。

 そこで真一は別のアプローチで説得することにした。


「それにシャリィは2人にとっても恩人だと思う」


「どういうこと?」


「シャリィが俺を助けてくれてなかったら、俺は2人に会う前に死んでいた。そしたら融合だって出来なかっただろ?2人が至聖龍になれたのは、シャリィのおかげなんだ」


「そっかぁ!だったらドリー、シャリィのこと大好きっ!一緒にコウビするニャミュっ♡」


 チョロゴンちゃんはその一言だけで納得のご様子だ。

 それどころか一方的にシャリィを気に入って、交尾仲間に入れる気まんまんである。

 相手は1つの街のお姫さまだというのに。

 そして問題のエピーの方は、、、


「恩と恨みは絶対に忘れるなって教わったから、、、」


 至聖龍の群れを追い出される前に、母ドラゴンにでも言い聞かせられていたのだろうか。

 しぶしぶながらも受け入れてくれたようである。


「ミュイ〜、分かったよ、シン。明日あの女が危なくなったら、エピーもちゃんと恩は返す。それからのことはあの女としっかり話をしてからかな」


「ありがとう、エピー。俺も絶対にこんなとこでシャリィを死なせたくないんだ。だから2人にはどうか助けてほしい」


「任せるニャミュっ♪」


「ミュぅ〜、シンの恩人だからね」


「わたしも頑張りますっ!」


「みんな、本当にありがとう」


 こうして真一たちは明日の魔女投下作戦に向かうことになった。

 ちなみに作戦内容は事前に詳しく説明されている。

 プラチナ冒険者部隊の出撃と同時に、真一たちがシャリィを抱えて砦から飛び立つ。

 そして壁を飛び越えたところで、シャリィを『投下』するのだ。

 上空からの落下ダメージなど問題にならないことは魔女姫に確認済みだと、ナパウド将軍からは聞いている。

 後は壁の向こうの魔王軍全てを、シャリィが1人で相手するのだ。


 本来なら前面から攻める連合軍部隊の対応で、魔王軍側も戦力を割く必要があるはずだ。

 けれども真一にはナパウド将軍が本気で攻撃に出るつもりだとは、とても思えなかった。

 せいぜい砦の外で騒ぎ立てて敵の気を引くくらいしかするつもりはないだろう。

 つまり魔王軍のほぼ全てと、シャリィはたった1人で戦う羽目になりかねない。

 だというのに本人はそれを分かった上で前線に立つつもりなのだ。


「エピー、シャリィは大丈夫かな?」


「ミュイ〜、かなりマズいと思うよ」


「っ!!」


 予想外の答えに息を呑む真一。

 シャリィの実力は魔王軍四天王よりずっと上だと言っていたのに。

 真一はそれほどのピンチにはならないと思い込んでいたが、実際には見通しはかなり悪いようだ。


「今日エピーが戦ってたガキンチョ、あれはけっこう強いの。あの女でもそれなりに手間取ると思う」


 どうやら魔王軍最強と呼ばれていた右1指のアグノニャイツは、シャリィでも簡単に倒すのは難しいくらいの力があるようだ。


「1対1なら余裕でも、他の『8ガキ』が何人もいたら、さすがに死んじゃうだろうね」


「それは、、、絶対に助けないとな」


「はいっ、わたしも守ります。だけど魔女姫さん、相手の戦力は分かってるんでしょうか?自信ありそうな様子でしたけど」


「ミュイ〜、ユア、違うよ。あれは自信じゃなくて、投げやりなだけ。もうどうなってもいいっていうね」


 真一の印象も、エピーが感じたものに近い。

 実際に言葉を交わして真一がシャリィの魔眼の中に見たのは、深い後悔と人生への諦めだ。

 明日死ぬことになっても仕方がないと、受け入れてしまっているようにさえ見えた。

 お姫様に生まれたまだ年若い少女が、何故それほどの絶望を抱えているのだろう。

 真一の頭の中をさまざまな疑問がぐるぐると駆け巡る。


 どうしてシャリィは『魔女』なんて呼ばれるようになったのか?

 こんな扱いをされて悲しくないのか?

 真一にして欲しいことはないのか?


 そもそも、、、



 シャリィはいったい何者なのか?



 恩人のことが気になって気になって仕方がない真一。

 せめて決戦の前にもっとちゃんと話がしたかった。


 そのあと夕食をとり、真一たちは明日に備えて早めに休む。

 勇者部屋の照明が落とされ、みなが床に就いたあと、、、

 真一はいつものように『右手』を動かして、シャリィへの筆談を試みる。


 けれどもその夜、、、


 シャリィからの反応はなかった。


本編はここでいったん休憩。

明日からしばらくはシャリィ編となります。


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