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5.54.245 魔女との面会

 真一は魔女姫に勝手に親近感を抱いていた。

 けれどもその一方で、どこか不気味な印象を覚えたことも確かだ。

 魂を奪う魔眼と言われて、根拠のないホラ話だと頭から否定することはできなかった。


「そうなんですか?確かに物凄く不思議な感じの眼でしたけど、わたし、さっき目を合わせて普通に話したんですよ、、、」


「アサカ殿はたまたま抵抗できたのかもしれんな。実際に現場にいた兵士たちには、いまだ発狂状態の者が何人も出ている」


 そう言われてくると、少しだけ怖くなってくる真一。

 状況証拠だけから見れば、やはりべドベダルの魔女はかなりの危険人物なのかもしれない。

 それでも魔女姫は味方だと、心の奥の何かが訴えてくるのだ。

 そんななか一行は、いよいよ魔女姫の部屋へとたどり着く。


 ドンっドドンっドドンっ!


 その扉をリズミカルに叩くナパウド将軍。


「失礼します、べドベダル姫殿下。ナパウドです。少しお時間をよろしいでしょうか?」


 さっきまでの暴言の数々が嘘みたいな、呆れるほどの変わり身の早さである。

 するとドアが開いて、貴族の従者らしき人物が出てきた。


「将軍閣下、ご足労いただき恐縮です。それでどのようなご用件でしょうか?」


「明日の作戦で姫殿下に同行する者を紹介したいのだが、取り次いでもらえるか?」


「承知いたしました。姫様に伺って参りますので、今しばらくお待ちいただけますか?」


 部屋に戻って行ったのは、魔女姫と一緒にべドベダルからやって来た従者らしい。

 何でも従者、メイド、兵士など合わせて30人ほどの一行で、下のアッシュム城まで来ているそうだ。

 そこで魔女姫は連合軍の最高責任者や冒険者ギルドの支部長から歓待を受けている最中だったらしい。

 だがそこで突然魔女姫が気まぐれを起こし、たった1人でこの最前線まで駆け付けてきたという。

 さっきの男はお目付け役の従者で、数名だけで最前線の砦まで急ぎ後を追ってきたそうだ。


「彼がべドベダル王の指示書を届けてくれてな。最初はどうなるかと思っておったが、姫殿下は全面的にこちらの作戦に協力してくれるそうなのだ」


 小声で真一たちに裏事情を教えてくれるナパウド将軍。

 朝霞は戦場でのナパウド将軍が、魔女姫を前にして取り乱しまくっているのを目撃している。

 そのためあれほど魔女姫を怖がっていた将軍が、こんな捨て駒作戦を強要しようとしていることを疑問に感じていた。

 けれどもナパウド将軍の強気の要因は、どうやらその『指示書』とやらのおかげみたいである。

 きっとろくでもない内容が書かれていたのだろうと、見なくても予想がついた。

 そうこうするうちに、従者の男が再びドアを開く。


「姫殿下がお会いになられるそうです。どうぞお入りください」


 男がドアを大きく開いて、真一たちを中に招く。

 ナパウド将軍の背中越しに、室内の様子を覗う真一。

 そこは家具のほとんど置かれていない質素な部屋であった。

 戦場の最前線の砦なのだから、王族に用意した部屋とはいえ、これが準備できる精一杯なのだろう。

 そんな一室の奥には2人のメイドと護衛らしき男も控えていたのだが、真一は気づいてすらいなかった。

 部屋の主の存在感が凄まじすぎたからである。


 うわぁっ、すっげぇ美人っ!!


 これほど近くで魔女姫を目にすると、頭に衝撃を受けそうなほどの圧倒的なオーラがあった。

 エピーたちや朝霞、ルミッコで美少女にもかなり慣れてきた真一。

 けれども本物の王女様である魔女姫は、物腰というか気品が一般人とは一線を画している。

 豪華な椅子に優雅に腰掛けていた魔女姫から、目が離せなくなってしまう。

 その純白のドレス姿は、本当に芸術作品のように美しい。

 けれども真一が何より気になるのは、、、


 やっぱりどこかで会ったことがある?


 魔女姫が何故だか親しい人間に思えて仕方ないのだ。

 初めて会う相手なのは間違いない。

 こんな美少女の顔を忘れることなどあり得ないはずだ。

 だけど同時に真一は、魔女姫の顔を良く知っている気がしてならなかった。


 ナパウド将軍に続いて、室内に足を踏み入れるエピー。

 真一は奇妙な既視感きしかんの手がかりを探すように、近づいてくる少女の姿をじっくりと観察する。


 まず目に付くのはクリスタルのような透明感のある髪と瞳。

 氷の彫刻のように温度を感じさせない綺麗な顔は、無表情だが気高くて神々しい。

 透き通った瞳に、見ているだけで吸い込まれそうになる。

 魔女の魔眼を見るなという忠告も忘れて、取り憑かれたように惹き込まれる真一。

 すると魔女姫も真一の視線に気が付いて、目と目が合って、、、


「ひゅっっ!」


 だが気品に満ちたその表情が、突然大きく歪む。

 真一と目が合った瞬間に、魔女姫は小さく悲鳴を上げ、驚きに目を見開いたのである。

 さらには何故だか分からないが、目に見えて取り乱し始めた。

 そうして、、、


「やっぱり会いたくありませんっ!!すぐに出て行ってくださいっ!」


 まるで恐ろしい『肉食獣』にでも睨まれたかのように、そう叫ぶのだった。


 あれっ!?

 またウチのドリーが何かやっちゃいました???


 理由わけもわからず部屋を追い出されてしまった真一たち。

 魔女姫とは初対面だというのに、何がお気に召さなかったのだろう?

 ナパウド将軍と朝霞は既に面識があるので、問題があるとしたら真一たちの方だ。


 だとしたらきっと、問題児ドラゴン娘のドリーのせいだよな、、、?


 と勝手に決めつける真一。

 自分と目が合った瞬間に魔女姫の態度が豹変したことをあっさりと棚にあげていた。

 だが魔女姫の不興を買ったという事実は、真一が考えているほど軽い事態ではないのだ。

 部屋の外に追い出されるなり、ナパウド将軍が激怒したのである。


「キサマっ!!いったい姫殿下に何をしたのだっ!!!」


「いや、俺にもさっぱり、、、?」


「分かっているのかっ!!!このままだとここにいる全員が魔女の怒りで焼き殺されるんだぞっ!!!」


 いや、そんなこと大声で言ったら、そっちの方が怒らせると思うんだけど!?


 と、部屋の中にも聞こえそうな大声で喚き散らすナパウド将軍に、心の中でツッコミを入れる真一。

 だが将軍の取り乱し様は、真一の想像を遥かに超えていた。

 なんと腰に差していた剣をいきなり抜き払ったのである。


「かくなる上はキサマの首を差し出して、魔女姫に赦しを乞うしかあるまいっ!さぁっ、大人しく首を出せっ!」


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