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5.46.237 魔王軍の狙い

「アレはわたしが相手します。魔術師ならレベル差があっても戦えますから。ただ余力はなくなるので、戦況を見ての撤退の判断はお任せします」


 新たに登場した女魔術師の四天王を睨みながら、センゼン中将に宣言するリカナ。

 ステータスでは大きく劣っていても、魔法の撃ち合いだけなら『魔導の導き』のチートスキルの効果で十分に渡り合える計算なのだ。


「承知したっ!任せたぞ、リカナ殿」


 本来であれば2人目の8指将が出て来た時点で撤退という作戦だった。

 だが戦いはまだまだ序盤。

 せっかく防衛した砦をあっさり放棄するには早すぎる。

 今はほとんど被害なく敵の精鋭を削っていけており、もう少し戦果を上げておきたいところである。

 確かに魔王軍が予想よりもずっと早く、最高戦力を投入してきた。

 けれども2人目の8指将をリカナが抑えられれば、連合軍側が優勢を維持できるはずなのだ。


「シンイチくんっ、ユヅキとサツキをお願いっ!あと、いざと言うときは、、、」


「あぁ、任せといてくれっ!」


 真一の言葉に安心した表情を見せると、リカナは魔法の風をまとって城壁から飛び降りていく。

 そうして四天王女魔術師ミョフツァと激しい魔法の撃ち合いを始めた。

 戦場の両端から炎と光の魔法が飛び交い、空中で数えきれないほどの爆発を起こす。


 見たところ両者の実力は互角であった。

 お互いに向けて撃ち込まれた魔法は、近づく間もなくすぐに迎撃される。

 さらに2人は、相手本人以外に向けても魔法を放っていた。

 ミョフツァは砦やプラチナ冒険者に、リカナは魔王軍の隊列に。

 だがそれらも全て目標に届くことなく撃墜されていた。

 魔法の威力、手数、命中精度、全てにおいて実力は伯仲しているようだ。


 とはいえこれなら真一がサポートに入る必要すらない。

 2人目の8指将が出てきたものの、戦局は膠着こうちゃくしたままだ。


「この様子ならまだ撤退するまでもないか」


「えぇ、もうしばらくは様子見でいいでしょう」


 ナパウド将軍とセンゼン中将がそんな会話を交わす。

 だがそれは新たなるフラグでしかなかった。


 突如として戦場にいる全ての冒険者たちが、背筋の凍るような絶望的な気配を感じとる。

 それは城壁の上の将軍たちや勇者たちも同じだ。

 ダグザギャッデスを知る真一と朝霞にはそこまでの衝撃はないものの、それでも軽く戦慄を覚える程度の威圧感があった。


 誰もがその気配の先に視線を送る。

 大きく開いた魔界の扉。

 そこには禍々しい大剣を持った、巨体の魔族がいた。

 明らかに今出ている2人の四天王よりも、遥かに強い相手だ。


「右1指のアグノニャイツっ!」


「魔王軍最強の大将軍たぞ!まさかこんな段階で出てくるなんてっ!」


 ナパウド将軍とセンゼン中将が悲鳴混じりに叫ぶ。

 しかもアグノニャイツの右後ろには、四天王らしき魔法使いがもう1人立っていた。


「左2指のメガニョイッツまでいるぞっ!」


「こんなもの相手に出来るかっ!すぐに撤退の合図を送れ!」


 ナパウド将軍の命を受けて、伝令兵が即座に『撤退』のサインの光魔法を打ち上げる。

 続けてアッシュム城の本部へと報告を始めた。

 上空で赤く輝く光魔法を見て、プラチナ冒険者たちもすぐに撤退を始めようとする。

 既に敵軍の色付きの半数近くは討ち取っていて多少は余裕があるので、本来なら簡単に後退出来るはずだった。

 だがそんな冒険者たちに向けて、超高速の魔法が大量に撃ち込まれてきた。


 左2指のメガニョイッツと呼ばれた魔術師の仕業だ。

 女幹部の魔術師と必死の戦いを繰り広げているリカナには、とても援護する余裕などない。

 さすがに『天剣』クラスは武器や防具で難なく捌いているが、防御の劣る冒険者たちは苦戦しているようだ。

 例えばチャラ男4人組『ギュビッツ』は全員が前衛攻撃職の『攻撃が最大の防御』というパーティーだが、守勢に回ると脆い。

 大量の魔法攻撃を避けきれずに2人が負傷し、撤退すらままならなくなっていた。


「ヤツら、まさかこの場でプラチナ冒険者たちを壊滅させるつもりなのか!」


 あまりにも急に激しくなった魔王軍の猛攻に、戦慄を覚えるセンゼン中将。

 ここに来て初めて、相手の狙いに気づいたのである。

 赤鎧や青鎧が次々と討ち取られても、手をこまねいているだけに見えた魔王軍。

 だがそれはプラチナ冒険者たちを引き付けておくためのエサだったのだ。


 右8指のミョフツァだけを増援に出したのも、人類側の余剰戦力を見極めるため。

 そして相手にこれ以上の余裕は一切無いと判断した瞬間、、、

 最強将軍ともう1人の四天王を一気に投入してきたのだ。

 全ては『対魔族結界』のないこの場所で、人類側の最高戦力であるプラチナ冒険者たちを全滅させるための作戦だったのだろう。


「ハメられたのか、、、」


 ナパウド将軍が苦々しげに呟く。

 もはや全員が無事に撤退するのはどう考えても不可能。

 最後の切り札の自爆装置も、この状況ではとても使えない。

 最悪の場合はプラチナ冒険者たち全員を失った上に、8指将たちはギリギリ生き残るなんて事態になりかねないからだ。

 だがそのときアッシュム城の本部に撤退の方針を伝えていた伝令兵が叫び声をあげる。


「将軍っ!本部から通信ですっ!こちらに援軍が向かっているとのことです!」


「馬鹿かっ!援軍だとっ!?誰が対抗できるというのだ、あの化けも…


 ナパウド将軍は最後まで言いきることは出来なかった。

 魔王軍最強の大将軍を指差そうとして、その相手が消え失せていることに気づいたからである。

 魔界の門の前に立っていたはずの右1指のアグノニャイツは、いつの間にかそこからいなくなっていた。

 とはいえ城壁の上の将軍たちは誰も、相手の姿を見失ったわけではない。

 何故なら、、、


「死ねえぇぇっ!!!」


 アグノニャイツは一瞬にして城壁の目の前の空中に現れていたからである。

 3メートルほどもある極太の大剣を振り上げ、上空から砦に叩き込もうとしていた。

 何かの魔法で強化された大剣は、禍々しく膨大なオーラを放っている。

 こんな砦など一撃で崩壊することは、誰の目にも明らかであった。


 しかも狙われている先は城壁の上の本陣。

 ナパウド将軍、まさにその人である。

 プラチナ冒険者たちが撤退する拠点を先回りして潰し、なおかつ指揮官を討ち取ってしまう。

 人類の最高戦力たちをここで確実に根絶やしにしておこうという、魔王軍の恐るべき狙いであった。


 この場にいる首脳陣、ナパウド将軍もセンゼン中将も、決して役職だけのお偉いさんではない。

 2人ともクロム(Aランク)近い実力を持つ歴戦の武人である。

 それでもプラチナを遥かに超える一撃の前には、そこらの雑兵と何ら変わりはなかった。

 死を覚悟して避けることすら諦めたナパウドたち。

 だがその前に割って入ったのは、、、


「ぁってえぇぇ〜〜〜っ!!」


 三つ首獣人少女と、大剣を顔面で受け止めた真一であった。


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