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5.42.233 痺れる男カイチ

 水島みずしま海地かいちはとにかくおにぎりが大好きである。

 子どもの頃から1日5食、毎回おにぎりを食べている。

 そして食後のカイチは、人並み外れた筋力を発揮していた。

 それは『おにぎりの祝福』の加護によるものである。

 おにぎり1個で20分ほどの間、50%程度のステータスアップ効果を得られるのだ。


 とはいえ日本にいた頃は、『食後は調子がいいな〜』くらいにしか思っていなかった。

 普通の地球人の腕力が数割アップしたところで、劇的な違いなど感じ取れないだろう。

 だがそんな効果もこの異世界で勇者となり、ステータスを上げていけば、目に見える変化となる。


 それに初めて気づいたのは、モンスターに襲われていたユータをカイチが助けたときのこと。

 お礼に『コンビニ』のスキルを見せたユータにカイチがリクエストしたのは、もちろんおにぎりであった。

 米の存在しないここミグル《内側》で数年ぶりにおにぎりを味わったカイチ。

 そこで目に見えるオーラを放つほどのパワーアップを果たしたのである。

 それ以来、カイチとユータは行動を共にするようになっていた。


「カイっチ〜って、ほ〜んとガキだよね〜」


 おにぎりを食べてはしゃぐカイチに、サツキがヤレヤレとツッコミを入れる。

 そんなふざけたことを勇者たちがしているうちに、魔王軍の方にも動きがあった。

 様子を見ていた『天剣』のパーティーの魔術師の女が声を上げる。


「見て!8指将のお出ましみたいよっ!」


 魔界の門の前には、既に数百人の魔族が出てきて隊列を組んでいる。

 魔王軍は門の前で左右に分かれており、兵たちが直立して道を作っていた。

 そんななかを驚くべきほどに巨大な魔族が、悠々と花道を歩いて出てきたのである。


「あれは右2指のニャグメッツだな」


 その正体を口にしたのは、ビドヌウズ《対魔族》砦の指揮官であるセンゼン中将である。

 城壁の上にはプラチナ冒険者たち、異世界勇者たちと並んで、連合軍の首脳陣も既に集まっていたのだ。


「ニャグメッツは見ての通りの肉弾戦タイプだ。毎回真っ先にこの砦に攻め寄せてくるお馴染みの8指将だ」


 センゼンが魔王軍四天王について解説を入れる。

 それは身長が軽く2メートル以上はある、岩のような巨体の魔族だった。

 上半身は鎧も付けずに裸だが、その鋼鉄のような筋肉があれば、そこらの防具など意味がないのだろう。


 センゼンの話によると魔王軍の本格的な侵攻は10年ぶりくらいだが、小競り合いレベルのものは日常的にあるらしい。

 魔王軍の嫌がらせのようなものである。

 大掛かりな防衛設備を設置できないように、この砦を定期的に破壊しておくという意味もあるそうだ。

 アッシュム城にあるような対魔族結界の魔道具を設置されると、魔族としても困るからである。

 この砦は何度も破壊されては建て直しを繰り返している、一時的な拠点なのだ。


 そしてそういった小競り合いでは魔王軍もそれほど戦力を投入してくるわけではない。

 向こうも被害を出したくないのか、魔法の撃ち合いくらいで終わることが多いのだ。

 そんななかで最も厄介なのが、ごく稀にある魔王軍の最高戦力による単騎の突撃である。

 こればかりは、前線の時間稼ぎ要員の兵たちではどうにもならない。

 幸いにも砦をある程度破壊したら、自爆装置を使われる前にすぐに撤退していくのだが、毎回それを仕掛けてくるのがこのニャグメッツなんだそうだ。


「ヤツの拳は一撃で城壁をも砕く。直撃したらプラチナ(Sランク)の諸君でも即死だと思ってくれ」


 センゼンの言葉に表情を引き締める冒険者一同。

 世界最強の『天剣』率いる『天の武勇』の4人がかりであっても、勝てる可能性は極めて低い相手である。

 今いる5組全員で戦えばさすがに勝てるだろうが、少なくない死傷者が出るはずだ。

 だというのに余裕を見せている人物が、凶悪ドラゴン娘たち以外にも1人だけいた。


「へぇ〜、力自慢ってわけか。だったら俺様にピッタリの相手だな。リカナ、俺にやらせろよ」


 もちろん、脳筋勇者カイチである。

 いきなり無茶なことを言いだした。

 誰もがリカナがあっさり却下するだろうと思ったのだが、、、


「そうね、水島さんに任せるわ」


 予想外のリカナの答えに、驚きの表情を見せる天剣たち。

 だがカイチの力を知るリカナは、四天王1人の足止めぐらいは出来ると判断したのである。


「後はどこかのパーティーに補佐に付いてもらって、、、」


「ふざけんなっ!タイマンでやるに決まってんだろっ!誰も手出しすんじゃねぇ!」


 だというのにさらに無茶なことを言い出す脳筋カイチ。


「さすがに死ぬわよ?」


「俺サマが負けるとでも言ってんのか?」


「えぇ、一対一だと勝ち目はないと思うわ」


「バカめ。この俺サマがお前らにできないことを平然とやってのけてやっから、おめぇは黙ってソコでシビれてろっ!!」


 リカナが止めるのも聞かず、どうしてもタイマンにこだわるカイチ。

 もちろんそんな脳筋に誰一人として、痺れも憧れもしない。


「はぁ、、、覚悟が出来てるのよね。死にそうになっても助けは期待しないでよ。それでもいいって言うなら止めないけど」


「上等だぜ!それじゃユータ、言ってくるわ」


 それだけ言うなり、カイチはさっさと城壁から飛び降りてしまった。


「あぁっ、カイチっ!まためちゃくちゃやって!死んじゃダメだからねぇーっ!」


 慌てて声をかけるユータだが、全く緊張感が無いあたり、よほどカイチのことを信頼しているのだろう。

 ユータの声援に振り返ることなく右腕を上げてサムズアップすると、カイチはそのまま魔王軍へ向けて歩き出していく。


 一方の魔王軍も隊列準備が完了したようで、右2指のニャグメッツを先頭に進軍を開始していた。

 ちょうどカイチとニャグメッツが向かい合う格好である。

 お互いに既に相手を視認しており、一騎打ちの様相を呈していた。


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