5.15.206 光の魔法使い
「話が逸れちまったな。とにかく試したい魔法があったら、その呪文を唱えてみろ」
あまり長々と喋っているわけにもいかないようで、男が話を戻す。
説明によれば石柱の上に浮かんでいる魔法の呪文名を唱えると、それがどんな魔法なのか頭に浮かんでくるそうだ。
使い方や威力、習得に必要なリルの量、使用時のMP消費量などの情報である。
ただしMP消費量については正確な数値が分かるわけではない。
ミグル人は自分のステータスを見られないので、自分の総MPを知らないからだ。
そもそもMPをポイント管理するという概念すらなかった。
なのでここミグルではMPは、精神的な体力のようなものと認識されている。
ここで開示される『MP消費量』も、あくまでアバウトな精神力の消耗度合いだけだ。
「あとは実際に習得するならジャーダ《習得》、やめるならキーファ《中止》と唱えるだけで…
「おいコラっ!ガズホンっ!いつまでサボってナンパしてんだよっ!!」
だが男が説明している途中で、偉そうな神殿関係者が奥から怒鳴ってきた。
「悪りぃ、嬢ちゃんっ!あとは分かるだろ?」
「あっ、はい、ありがとうごさいました!」
「なんとかやってみますっ!」
怒られた男は、急ぎ足で駆け出していく。
真一たちと話し込んでいたせいなので悪いことをした。
とはいえ説明中はデレデレと幸せそうだったので、それで許してもらいたいところだ。
一通り説明は聞けたし、あとは自分たちだけでやってみることにする真一たち。
「それで、シン、どの魔法から試してみるのがいいですか?」
ずらずら〜っと天高く積み上がった魔法の一覧を眺めて、朝霞が困ったように問いかける。
表示されている魔法の数は30個ほどもあるのだ。
「エサっ!エサが出てくる魔法がいいニャミュっ!!」
「いや、そんなの無いからっ!とりあえずいちばん上の水の魔法とかでいいんじゃないか?」
「なるほど。それじゃ、『水』っ!!」
朝霞が一番最初に表示された『水』の魔法の呪文名を唱える。
すると石柱の上空、最上部に浮かんでいる、『水』という光の文字が輝きを増す。
もちろん書かれている文字は現地語なのだが、日本語で唱えても問題なかったようだ。
とはいえ真一には文字が光ったように見えただけである。
「ふぁぁぁ〜、、、」
けれとも朝霞は不思議な現象に思わず声を上げていた。
〘第2層 水属性 初級魔法『水』。水を創出する水属性の基本魔法で、、、〙
呪文を唱えた瞬間に、頭の中に『天の声』が聞こえてきたのだ。
いや、正しくは『聞こえた』というより、『脳内に声が浮かんだ』といった方が正しい。
今まで経験したことのない、不思議な感覚であった。
「『水』は水を出す魔法みたいです。初級の魔法で、習得には16リル必要、使用時の体力消費は微少だそうです」
朝霞は聞こえてきた情報を真一に伝える。
『水』は文字通り水を出すための、日常生活を便利にする程度の魔法のようだ。
手を洗ったり、飲み水にしたりと、いろいろと使えそうだ。
ちなみに『生活魔法』というファンタジー用語を朝霞は知らない。
けれども朝霞にとって魔法と言われて思い浮かぶのは、まさにこういうモノだった。
異世界バトル作品など全く見ないせいか、攻撃魔法などの方が馴染みが薄いのである。
「シン、この魔法どうしましょうか?」
全く勝手がわからない朝霞は、このまま習得に移っていいのか真一に判断を求める。
真一もそれほど自信がある訳ではないが、朝霞よりは知識があるのは確かだ。
そして朝霞の膨大な持ちリルに比べれば、16リルなどはした金にも程がある。
まずは様子見に1つは覚えてみたいところだし、水の生活魔法なら無駄にはならないだろう。
「それくらいなら、試しに取ってみてもいいんじゃない?ユアが良ければだけど」
「そうですね。じゃぁ、『ジャーダ《習得》』っ!」
男に教えられた通りの呪文を唱える朝霞。
すると空中に浮かんでいる『水』の文字がパッと輝き、弾け飛ぶようにして消滅した。
だが起きた反応はたったそれだけ。
横から見ている真一には、朝霞の身体に何かが起きたようには見えなかった。
ファンタジーものの定番なら、ここで壮大な光のエフェクトとかが出てくるパターンなのに。
「あれっ?何か変わった?」
「う〜ん、良く分からないような、、、」
だが朝霞の答えは歯切れの悪いものであった。
何か不思議な感覚はあったものの、経験したことのない、説明しづらいものだったのだ。
さっきのように声によるガイダンスが脳内に浮かんでくることもない。
石柱に置いた右手を通して、ゾクッとするような不思議な感覚が体内に入り込んできたような感じだ。
正直、成功したのかどうかさえ良く分からなかった。
とはいえ習得した『水』の使い方が、朝霞の頭に何となく浮かんでくる。
「これ、ここで試しに魔法を使ってみるのはまずいですよね、、、?」
確認するには実際に使ってみるのが早い。
とはいえ神殿の床を水浸しにすると、さすがに怒られるだろう。
「だったらステータスを出してみたら?」
「あぁ、そっか。それじゃ、『ステータス』っ!」
いいアイデアを教えてもらえたので、朝霞はさっそくコマンドを唱えてみる。
真一たちと出会って初めてステータス画面の存在を知った朝霞だったが、さすがにもう慣れたものだ。
朝霞の目の前の空中にA3サイズくらいの青白い画面が浮かび上がった。
「えーと、どこを見ればいいですか?」
とはいえズラ〜っと表示された項目を眺めて、どこを見ればいいのか良く分からない朝霞であった。
なんせ異世界ファンタジーもののお約束など、朝霞は全く知らないのだ。
実はあのあと自分でステータスを確認することすら、1度もしていない。
そもそもステータスを見るという発想が頭に浮かぶことさえなかった。
幸いだったのは、勇者同士であればステータス画面を見せられること。
朝霞に尋ねられるがままに、真一は朝霞のステータス画面を覗き込む。
成功していれば前回は無かった『魔法』の項目が、どこかに追加されているはずなのだ。
「ん〜と、、、」
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名前:結城 朝霞
種族:異世界勇者・中級
職業:なし
ステータス:
レベル:41
HP:590 / 590
MP:594 / 595
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ちゃんと『水』の魔法が習得できているかと、朝霞のステータス一覧を上からチェックしていく真一。
だがそこで突然、予想外の事態が発生する。
朝霞のステータス画面にノイズが走ったかと思うと、、、
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表示されていた文字が盛大に文字化けしてしまったのである。