5.6.197 アサカ、初めての♡
「これがわたしの加護の効果なんです、、、」
エピーに助け出された朝霞は、地面にへたりこんで息も絶え絶えであった。
実際に真一は朝霞の加護の猛威を、思い知らされたばかりだった。
というのも朝霞を助けるときにもまた、さらにひと悶着があったからである。
木に吊るされた朝霞を助けようとして飛んで行ったエピーが、いきなり肩ぐるまをしたのだ。
しかも正面から向かい合わせで。
あまりにも素早い動きで、真一が何か言うヒマなどなかった。
さて胸から下が裸のノーパン美少女を、三ツ首人間が肩車したらどうなるでしょうか?
もちろん答えは大惨事である。
3つの首にある2つの谷間に、朝霞の両足がスッポリ収まるので、完全なドッキング状態となる。
そのホールド感は並の肩ぐるまの比ではない。
だけど今回重要なポイントは、もちろんそんなことではない。
美少女のノーパン生足が真一の顔に押し付けられたことだ。
チェリー真一は瞬時に極限エモーション状態である。
視線を右に向ければ、朝霞の際どいところが目の前に見える。
賢いエピーはヒカるんに触れたら危険だと分かっているので、朝霞の局部から僅かにスペースを空けて肩ぐるましているからだ。
おかげで真一には朝霞の『極秘♡ゾーン』がピカピカ光っているのがはっきりと見えた。
もちろんヒカるんに隠された場所は眩しくて見えないのだが、真一の妄想は膨らむばかりだ。
さらには何やら香しい匂いまで漂ってくるような気がする。
DTボーイの鼻息が荒くなるのは、致し方ないところかもしれない。
だがこの状況で堪らないのは朝霞である。
裸を見られるだけならまだ慣れているが、生の太ももに男性の顔が押し付けられているとなると話が違う。
剥き出しの『大事な♡ところ』に真一の荒い息づかいまで感じて、朝霞は悲鳴を上げて狂ったように足をバタつかせた。
結果頭を蹴られまくった真一だったが、美少女の太ももの感触を顔面で味わえたのだから文句はないに違いない。
そして朝霞が暴れて危ないと思ったのか、エピーが親切にも朝霞の足をガッチリとホールドしてあげる。
エピーの怪力に抗えずに為すすべもなく、朝霞の狂乱状態は地面に下ろしてもらうまで続いた。
旅立ってから僅か小一時間でこれだけのラッキースケベを味わったのだ。
朝霞の加護の恐ろしさを、真一も嫌というほど実感できたのであった。
だが朝霞はこれからの旅路に対して、真一よりも遥かに大きな危機感を覚えていた。
「今までは特定の男性と行動を共にすることなんてなかったんです。だけどこれからはきっとシンイチさんに変なところを見られまくる羽目になると思います」
ちなみに朝霞と長い時間を過ごしていた男性は2人いる。
父親とコソフォである。
ただし朝霞の加護はその2人には効果がなかった。
年齢が離れているせいか、それとも既婚者だったからか。
ともかく恋愛対象と見なされないような相手には、疫病神の加護は発動しないのだ。
そんな朝霞の真一へのお願いは、あまりにも残念すぎるものであった。
「だからシンイチさん、これから変な『事故』が起きても、出来るだけ見なかったことにしてください」
「う、うん、がんばります、、、」
真一としては、そうとしか答えようがなかった。
もちろん朝霞も無理を言っているのは分かっていて、別にそれくらいの返事で問題はない。
だというのに、煮えきらない真一の反応に不満を感じている人物がいた。
「シン、何でアシャキャの裸なんて興味無いってはっきり答えないの?シンにはエピーがいるでしょっ!」
「ぁあ、うん、そうだね、エピーちゃん」
「だったらそうだっ!シンがアシャキャの裸を見てたら、エピーがシンの目玉をくり抜くよっ♪」
「それじゃ、ドリーは取った目玉食べていいニャミュ?」
「いいわけないだろっ!」
エピーの嫉妬深さとドリーの食欲がサイコホラー過ぎる。
これにはさすがに朝霞ですらドン引きであった。
「そこまではしなくていいですっ!ヒカるんで隠してて、見られたりしないんで大丈夫ですっ!!!」
自分の余計な一言のせいでとんでもない修羅場になりそうだと、慌てて止める朝霞であった。
真一も自分の防御力ならエピーの攻撃すら通さないと分かってはいる。
それでもここまで猟奇的なお仕置きが待っているとあっては、さすがに平常心ではいられない。
浮気はダメだと、改めて自分に言い聞かせるのであった。
「ミュイ〜、まぁアシャキャがそう言うならいいんだけど、、、」
「はい、大丈夫なんですっ!」
しぶしぶながらも、何とか矛を収めてくれたエピー。
大問題にならずにすんで、朝霞もほっと胸をなでおろす。
そして朝霞には、ずっと引っかかっていることがあった。
「それよりエピーさん、わたしの名前、アサカって言いにくいですか?」
そう、せっかくお友達になったエピーとドリーだが、未だに朝霞の名前をちゃんと呼んでくれないのだ。
もっとも2人とも自分では、ちゃんと発音できているつもりであった。
「ミュイ、アシャキャでしょ?」
「ちゃんとアシャヤって言ってるニャミュっ!」
「いや、どっちもちゃんと言えてないからっ!」
「ミュイぃ、そうなの、シン?」
「ニャミュっ!?」
正しく発音できていないことに真一のツッコミでようやく気づいたエピーとドリーであった。
一方で朝霞も、そういえば2人は『シンイチ』と呼んでいないことに気がつく。
「あぁ〜、シンイチさんもそれでシンなんですね。だったらわたしの名前も略していいですよ」
そう提案する朝霞だったが、エピーとドリーはポカンとした表情を浮かべるだけだ。
その様子を見て、真一は2人に名前を付けてくれと言われたときのことを思い出す。
エピーたちは名前を考えるのを苦手としているのかもしれない。
であればここは自分が考えるべきだろうと、真一はパッと思いついた愛称を口にする。
「それじゃ、アサとかは?」
「アシャ?」
「アシャニャミュ?」
「やっぱり言えてねぇよっ!」
2人にとってどんな名前が呼びやすいものなのか、さっぱり分からない真一であった。
一方で朝霞も申し訳なさそうに真一に告げる。
「わたしも『アサちゃん』はちょっとイヤかもです」
その呼び方は朝霞にとってトラウマだったからだ。
何故なら、、、
『アーサちゃん、そろそろ勇者してくんないと、ヒドいことになるよ〜♪』
毎晩続いた悪夢の中で、あの神さまが朝霞をそう呼んでいたからである。
あのときの死の恐怖を思い出して、身震いする朝霞。
真一はそんな様子を見て、慌てて別の名前を考える。
「だったら、ユウキ・アサカだから、、、え〜っと、、、ユアとかはどうかな?」
「ユアっ♪ユアっ♪」
「ユアはユアニャミュっ♡」
今度は2人でもちゃんと発音できるようであった。
ユアユアとはしゃぎまわるエピーとドリー。
「ユア、、ユア、、、うん、ユア、、、」
ドラゴン少女たちの愛らしい様子を眺めながら、朝霞も何度かその愛称を静かに口ずさむ。
こんな呼び方をされたことは今までなかったが、不思議と胸にしっくりとくる気がした。
「ユア、、、とっても、ステキです」
朝霞は自分でもびっくりするくらい幸せな気持ちを感じていた。
何故ならば、、、そう。
朝霞にとってこれが、生まれて初めて友だちに愛称を付けてもらった瞬間だったからである。
それがこれほど心がフワフワすることなんだというのを、この歳になって初めて知った。
「可愛いあだ名を、ありがとうございます、シンイチさん」
「うん、どういたしまして、ユア。それより、もう仲間なんだし、俺もシンでいいよ」
「エピーはエピーだよっ♪」
「ドリーはドリーニャミュっ♡」
「はい、改めてよろしくお願いしますね、エピー、ドリー、、、ぅんっ、シンっ!」
朝霞も誰かを呼び捨てにするのは初めてだったが、エピーとドリーの名前は自然と口にできた。
けれども真一の名前を呼ぶときだけは、何故か一瞬戸惑ってしまった。
だって、男の子を愛称で呼ぶのなんて、初めてなんだもんっ!
ただそれだけの理由なんだと、自分を納得させる朝霞。
同じ年頃の男子を、下の名前で、しかも愛称で呼び捨てにするのは、確かに生まれて初めてのことである。
けれども、、、
共に命懸けの戦いを乗り越えた、頼れる仲間で、、、
しかも人生初の素敵なあだ名を付けてもらって、、、
さらにそのあだ名で自分のことを呼び捨てにされた直後で、、、
朝霞は胸の奥底で、未だかつて経験のないジクジクする感情が渦巻き始めたのを感じる。
まだ名前も分からぬそんな気持ちを、今はただ不思議に思うだけであった。