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5.3.194 アサカの選択

「ユキさん、誘ってくれてありがとうございます。だけど、、、」


 ユキに断りを入れた朝霞は、真っ直ぐにドリーを見つめる。


「わたし、最初にお友達になってくれたドリーさんたちと行きたいです」


 確かにそれがいちばんの理由だが、男性恐怖症の朝霞にとっては、『ナローズ』も『山兄弟』も男が多すぎることも大きい。

 その点、ドリーたちなら獣人少女が1人?だけ。

 1つだけ男性の首が付いているが、身体は少女なので普通の男よりは遥かに抵抗感が少なかった。

 何よりドリーたちとは一緒に恐ろしいモンスターと戦った仲間だという、親近感を抱いていたのである。


「うん、ドリーとアシャヤは友だちっ!一緒に行くニャミュっ♡」


「はいっ♪」


 笑顔を向け合う朝霞とドリーの美少女コンビ。

 もちろん真一もエピーも大賛成である。


「そっかぁ。残念だけど、気にしないで。それにアサカちゃんはやっぱりシンイチたちに付いていった方がいいかもしれないわね。わたしたちはまだしばらくはバンリャガを拠点にするから」


「だね〜。今さらだけど、アサカちゃんがバンリャガでやって行くのは無理があると思う」


 朝霞はバンリャガの街で酷い目に遭っている。

 けれども『山兄弟』のパーティーだけでなく『ナローズ』の4人も、バンリャガから出ていくつもりはないのだ。

 ミドローはリハビリを始めたばかりで、まだまだ歩けない。

 なのでシドローたちは当然バンリャガの街に残ることになる。

 けれどもそんな彼らのパーティーは全財産を失い、冒険者としてやって行くための装備もぜんぜん足りない状況だ。

 最低でもミドローが1人で生活できるようになるまでは、ナローズの4人もサポートする予定だった。


 そんなユキたちに朝霞が付いていくとなると、当然バンリャガの街に住むことになってしまう。

 けれどもバンリャガの街は、朝霞にとってはトラウマとなっていた。

 当時はある勇者のせいで何百人も死人が出たばかりだったので、反勇者感情は今とは比較にならなかった。

 それでも繊細な朝霞がやって行くには、バンリャガの街は敵意が強すぎる。

 だがそれ以上に問題なのは、、、


「そうじゃな。この子はバンリャガの街じゃお尋ね者じゃからのぅ」


 その原因は街の権力者である、最高法政官ドブフへの傷害事件にあった。

 あの事件で日常生活に支障が出るほどの大怪我を負ったドブフは、朝霞を街中に指名手配していたのだ。

 もし朝霞がバンリャガの街に行けば、一歩足を踏み入れただけで拘束されてしまう。

 ちなみにコソフォとキョロフは、農園でも朝霞が他の従業員の人目につかないように気を使っていた。

 それには朝霞の男嫌いのせいだけでなく、そういう理由もあったのである。


「えっ!?それじゃアサカさんって、バンリャガはもちろん、他の街に行っても活動できないんじゃ?」


 全国で指名手配されているだろうことを考えると、他の国にでも逃げ出さないといけないだろう。

 けれどもこの異世界ミグルにどんな国があるのか、真一は全く知らない。

 心配する真一だったが、ユキとマコは不思議そうな表情を見せるだけであった。


「国中に指名手配されてるってことなんじゃないの?」


「あぁ〜、シンイチってこのミグルのこと、まだ良く知らないんだったね」


「このミグルには、国なんてものは無いの」


「えっ!?」


 今明かされる、衝撃の事実であった。

 ユキから話を聞いてみると、どうやらこの異世界ミグルでは、それぞれの街が独立に政治を行ってるらしい。

 つまり1つ1つの街が都市国家みたいなものなのだ。

 ミグルにおいて国というものが成立しなかったのには理由がある。


 街の外には危険なモンスターが大量にいるため、近隣の街との行き来が少ないこと。

 人間界vs魔界という構図が出来上がっているため、街同士、人間同士での争いが起きにくく、国家という集合体を作る必要性が薄いこと。

 魔族との戦いでは創世神の指令により全ての街からの参戦が求められるため、街ごとの負担に平等性があり不満が生じにくいこと。

 そのような背景もあって、地球とは違った社会が発展したのだろう。


 統治システムも街によって様々で、王制だったり議会制だったりする。

 公爵や伯爵みたいな地球ではお約束の爵位も、共通のものはなく街ごとにバラバラだ。

 ちなみにバンリャガの街は領主たる王家と、それを支える16の貴族家があり、残りは平民という構成である。

 ドブフ家はその16の貴族家の1つなんだそうだ。


「アサカちゃんはバンリャガの街から睨まれてるだけ。他のとこなら何の問題もないわ」


「だけど冒険者ギルドで登録するときに問題になったりしない?」


 真一が心配したのは、異世界ファンタジーあるあるの『犯罪者チェックシステム』である。

 水晶とかに手をかざして、犯罪者かどうかを判断できるアレだ。

 謎のネットワークによって、どの街でも情報が共有されているパターンもあるんじゃないか?と思ったのである。

 そして実際にこのミグルにおいても、冒険者ギルドは支部間で犯罪レッド冒険者の情報を共有しているそうだ。

 とはいえそれはあくまで冒険者ギルドが犯罪者と認めた者に対してのみである


「冒険者ギルドはどの街とも独立した組織だから大丈夫よ。個々の街の犯罪なんて、よっぽど悪質なの以外は関与しないの」


「まぁ、ギルドに被害を与えた場合は別だけど、今回みたいなのは問題にならないわ。1つの街の悪徳貴族が勝手に言ってるだけだからね」


 冒険者ギルドはミグル全体を横断する組織で、どこかの街の意向に左右されるようなことはないそうだ。

 ただし冒険者ギルド自体に目をつけられた場合は、どこの支部に行ってもペナルティがある。

 他の冒険者や市民を襲ったことが判明して、レッド冒険者認定をされた場合とかだ。

 このあたりは魔法ギルドとか商業ギルドとか、組織によっていろいろ違うらしい。

 とはいえバンリャガを出てしまえば、他の街で問題になることはまず無いそうだ。

 勇者の場合は特に。


「そもそもどこの組織も勇者に対して敵対行動に出ることはまずあり得ないの。冒険者ギルドは特にそうね」


「なんせバンリャガで数百人も殺した犯人ですら野放しなんだもん」


 ユキが言及したのは、朝霞がバンリャガにやって来る少し前に、ある勇者が巻き起こした事件のことである。

 街中で戦闘行為を行い、その余波で数百名もの住人が犠牲になったのだ。

 その事件が起きたのは、ユキたちがやって来る前のことだった。

 一方でシドローたちは直接の被害はなかったものの、影響を受けた住人の1人であった。


「あれだけの事を起こしたってのに、街は黙認しやがった。犯人が勇者で、被害者がみんな平民だったせいだ」


 忌々しげに、当時のことを語るシドロー。


「アサカが手配されてしもうたのは、権力者が相手だったからじゃろうな」


 そう語るコソフォだったが、完全に朝霞の肩を持っている。

 朝霞を大事な娘だと考えていることもあるが、元からドブフの横暴ぶりに腹を立てていたことも大きい。

 バンリャガの街の法を取り仕切る権力者なのだが、それを笠に着てやりたい放題していたそうだ。

 市民や冒険者ギルドから相当に嫌われていたらしい。


「ともかくこのミグルでは勇者を敵に回す行為は恐れられてるの。なんせアタシらは創生神の使徒だからね」


 真一たちが邪神扱いしている例の少年ではあるが、この異世界ミグルにとっては本当に創造主なのである。

 その創世神が作った結界の中でしか生きられないこのミグル《内側》の人々にとって、創造主に逆らうなど自殺行為である。

 そしてその創世神の使徒である異世界勇者も、このミグルの住人からすれば逆らってはいけない相手なのだ。

 そしてそれをいいことに好き勝手する勇者も少なくはないそうだ。

 だがそれでも創世神に逆らえないため、そして何より勇者自体が強いため、泣き寝入りをする羽目になることがほとんどなのである。


 というのも昔のことだが、勇者に手を出してはいけないと知らしめる事件が起きたのだ。

 ある勇者の傍若無人ぶりに業を煮やし、その勇者を処刑した街があったらしい。

 領主の娘らを暴行し、その従者たちを惨殺した罪でだ。

 犯人を処刑するだけでは収まらず、領主は全ての勇者の街への入場を禁止したのである。

 そんな街に創世神が下した制裁は、神殿機能の停止であった。


 神殿はパスモ《強化成長》や魔法の習得、そして何よりパスリル《生存税》の納付を行う場所である。

 そこが使えなくなったのだから、生存税の納付期限の残り時間が短かった住人からバタバタと死んでいく。

 余裕のある者はすぐに他の街へと逃げ出したが、それができない住人も多い。

 結果的に住民の反乱が起き、街は荒れに荒れた。

 そして最後は他の街から来た一団に制圧され、領主の座を取って代わられたのだ。

 この事件の話が広まって以降、勇者に表立って敵対するような街はなくなったという。


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