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4.49.189 災厄の元凶

 ミドローの治療のあと、真一たちはしばらくバンリャガに滞在していた。

 薬を投薬したことで、ミドローをむしばんでいた病は完全に駆逐できたらしい。

 だからといって、もちろんすぐに動き回れるわけではない。

 まだまだ寝たきり生活であることは変わらなかった。

 それでもミドローは日に日に元気を取り戻していく。

 真一たちもナローズの4人も、ミドローの様子を見に毎日のように通って行た。


「こんにちは、みなさんっ!」


「おいっ、ミドっ!寝てなきゃダメだっ!」


 数日経った頃に真一たちが訪れると、ミドローはスライムベッドから起き出そうとするほど回復していた。

 今までの分まで家事を頑張るんだっ!と、まだ立てもしないのに無茶をしようとするミドロー。

 そんな妹を兄弟が何とか抑えている状態である。

 体調に関してならミドローはもうすっかり良くなったように見えた。


 そこで真一たちはミドローを連れ、再びクッソフォ農園を訪れる。

 まだ歩けないミドローには、魔石で動かす車椅子のような魔道具を借りた。

 ミドローにとって街の外に出るのは病気で倒れてから初めてのことだったが、病気が治ったお祝いも兼ねてである。

 どこまでも広がる大自然の景色に、弾けるような笑顔を見せるミドローだった。


 そうして数日ぶりに訪れたクッソフォ農園。

 すっかり元気になっていたのは朝霞も同じである。

 今の朝霞には初めて会ったときのような暗い影はなく、自信に裏打ちされた芯の強さを見せ始めていた。

 ミドローと共に改めて感謝を伝えるシドローたち。

 車椅子の少女からのとびっきりの笑顔を受けて、本当に嬉しそうにする朝霞だった。


 しかもその時には新たに2次栽培したファニカスの胞子も、既に最初の1つが芽吹き始めていた。

 再び農園に滞在してから数日すると、他の胞子も次々と芽を出し、花を咲かせ、毎朝さらなる胞子を飛ばし始める。

 これで何度でもファニカスの花を量産できるようになった。

 とはいえそのためには苗床として真一のパーツを貸し続ける必要がある。

 さすがにそういう訳にはいかないので、6つの花は全て収穫してしまって薬の材料にすることにした。


 ただしそうすると胞子が入手できなくなってしまう。

 もし再度栽培を始めたいとなっても不可能になるのだ。

 真一の苗床と朝霞の光、そして生きている胞子が揃って初めて栽培が可能になるのである。

 この問題は保存の魔道具を使って胞子を生きたまま保管することで解決した。

 目の玉が飛び出るくらい高価な魔道具だったが、プラチナ素材であるファニカスの花を1つ売るだけで、5つも入手することができた。


 こうして胞子を飛散したての状態で保存し、ファニカスの花の栽培はいったん打ち切ることにする。

 苗床として使う必要もなくなり、真一は無事に右腕と左足のパーツを2つとも回収できた。

 シドローも妹の病気を治すことができたので、何の不満もなく返却に応じてくれたのである。

 2つのパーツはバンリャガで買った防水バッグに入れ、エピーに溜め袋に仕舞ってもらう。

 ドリーに喰われないように、作業は迅速に行った。

 こうして真一のパーツ問題は円満に決着したのである。


 ちなみに武器を失ってしまったシドローだったが、そこはナローズの4人が動いてくれた。

 今までシドローたちのために貯めていたお金で、こっそり買った新しい武器をプレゼントしたのである。

 最初はシドローも受け取ろうとしなかった。

 けれども4人が今までのお礼だと言い張るのに根負けし、最後は嬉しそうに礼を言うのであった。


 こうして真一のパーツ回収と、ミドローの病気については、全てが丸く収まった。

 さらにはエピーとドリーが絶命の森を逃げ出すことになった原因である、謎のモンスターの問題も解消である。

 相手の正体はこのミグルに9匹存在する、幻獣種ユニークモンスターの1体、ダクザギャッデス《街を消し去る者》。

 ここマヌングル《人間界》に棲むモンスターの中で最強と言われる存在である。

 同じ幻獣種であるエピーたちを遥かに上回る力を持つ強敵だったが、朝霞と真一のチートスキルにより討伐できたのだ。

 ただしこちらの問題は完全解決とは言い難い。


「そもそもなんでエピーとドリーが狙われてたのかなんだよな」


 そのあたりが謎なため、真一はマコたちに相談してみた。

 エピーたちの正体が幻獣種の龍神であることは隠したまま、ボカして説明する。

 絶命の森に住んでいたときから狙われていて、どうやらここまで追いかけられていたみたいだと。


「ダクザギャッデスは歴史上2回ほど街を襲ったことがあるけど、両方とも先に人間が手を出したらしいの。本来なら自分から襲い掛かってくることなんてないはずなのよね」


 そのあたりが幻獣種の脅威があまり問題にならない理由だそうだ。

 人間が手出しさえしなければ、総じて比較的温厚な相手だとされているのだ。

 もちろんエピーたちは自分からダクザギャッデスにちょっかいをかけてなどいない。

 そんな幻獣種が何故?という話だが、ユキには心当たりがあるようだった。


「ただ絶命の森と聞いて、気にかかることがあるわ。バンリャガに異変を引き起こした傷だらけの勇者の女。ソイツが絶命の森に行ったあと、今度はそっちでも異変が起きたって話なのよ」


「あぁ、ギルドの話ではモンスターの生態が激変したらしい。その勇者の女がモンスターを操るような能力を持ってんじゃねぇかって話だ」


 シドローは街一番の高位冒険者なこともあって、ギルドからある程度情報を得ていたそうだ。

 どうやらその女勇者が訪れた先々で、モンスターが考えられない動きをしているのだという。

 だとすると龍神を狙っていたのはダクザギャッデスではなく、その傷だらけの女だという可能性も考えられる。

 そしてその場合、今後も同じようにヤバいモンスターを差し向けられる恐れは否定できない。


「だけどダクザギャッデスって人間界で一番ヤバいヤツなんだろ?万が一また同じようなことがあっても、今回も乗り切れたんだし大丈夫だよな?」


「確かにマヌングル《人間界》の中じゃ最強って言われてるけど、実際のステータスがどうかなんて分かんないわよ。マヌングルには幻獣種があと1匹は確実にいるから注意しといた方がいいかもね」


「ガラムナーリャだな。バカでかい空飛ぶヘビだ。それとこれは噂だが、絶命の森にいる龍神ってドラゴンも幻獣種レベルかもって話だ」


「それってドリぃ…

「はいっ、黙ってようね、ドリーちゃんっ!」


「それにヴォイグル《未踏領域》にはもっと強いのがいくらでもいるって話よ。まぁさすがに天断山脈を越えてやってくることはないと思うけどね」


「またユキがフラグ立ててるよ〜」


 人間界に残る幻獣種はあと1匹。

 9匹、いや、今はもう8匹いる幻獣種ユニークモンスターの1匹だ。

 残り7匹のユニーク幻獣種は、天断山脈の向こうの未踏領域に生息しているらしい。


 さらには至聖龍を始めとする、4種類の幻獣種種族も全て山脈の向こう側である。

 エピーとドリーが追い出された至聖龍の群れも、未踏領域にあるのだろう。

 ただしそれはあくまで人類が知り得た範囲内での話。

 人の知らないヤバいモンスターが、未踏領域には他にもいくらでもいてもおかしくないそうだ。


 ともかく当面の危機は去ったものの油断はできない。

 この人間界エリアで最強の幻獣種を倒したからといっても、もっとヤバい相手に襲われる可能性がある。

 いつかはその女勇者と対峙する日が来るのかもしれない。

 もっとも本当にその女が元凶だとは、まだ決まったわけではない。

 真一としてもわざわざ自分から対決しにいくつもりはなかった。

 当面は引き続きパーツ探しが優先で、女勇者については静観の構えをとることとした。


明日でいよいよ4章の本編最終話となります。

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