4.42.182 龍神vsラスボス
農園から離れるように高速で、ダクザギャッデスに向かって飛行する真一たち。
真一は急いでエピーに作戦を伝える。
「エピー、俺の顔を盾にして戦ってくれ!俺ならどんな攻撃でも耐えられるからっ!」
「シンを盾に?」
「ああ。エピーも俺の左の首を動かせるだろ?ヤバい攻撃が来たら左の首を動かして、俺の頭でガードするんだ!」
真一の反射神経では、幻獣種のスピードに対応できるとは思えない。
なので真一は盾になりきり、防御行動はエピーに任せるのがいちばんである。
三つ首少女の姿をしている真一たち。
中高生くらいの少女の身体に、首が3つ生えている。
真ん中がエピーで、左が真一で右がドリー。
身体の形状は翼と尻尾がある以外は普通の人と変わらないが、首は一般人より長くて20センチほどある。
だがそれでも咄嗟にガードするには短すぎるだろう。
けれどもカミュリャム《至聖龍》には都合のいいスキルがあるのだ。
「ガードしにくいなら、首をちょうどいい長さにしておくといいっ!」
「分かったっ!ミョルニャンミャミュ《変態》っ!!」
エピーが『変態』のスキルを発動すると、真一の頭のある左の首だけが、腕と同じくらいの長さに伸びた。
試しにエピーがブンブンと振り回してみるが、思った通りに動かせるようで何の問題もない。
真一の目が回ったこと以外は、、、
「ミュイっ、これならイケそうっ!」
「ぅぅっ、良かった、、、」
少し気持ち悪くなりながら答える真一。
「ドリーは?ドリーは何するニャミュ?」
「いつも通りでいいぞ。エピーが俺の頭でガードする以外は、全て普段の戦い方でいい」
「ニャミュっ!!」
そうこうするうちにラスボス幻獣種の姿が大きくなってきた。
その身体はエピーたちの元の至聖龍より遥かに大きい。
全長30メートルほどもありそうな、見上げるほどの巨体である。
胴体はライオンが後ろ脚2本で立ち上がっているようなフォルムだ。
フサフサと生えた『たてがみ』もライオンっぽい。
ただしその巨体の大部分は、ドラゴンのような頑強な鱗に覆われている。
猛々しい翼や、先端が二股に分かれた長い尻尾なども、龍っぽい印象を与える。
ただし手足の先端には鋭く長い爪が伸びており、そこだけを見るとワシのような猛禽類をイメージさせる。
何より獰猛そうな顔には巨大な口ばしがついていた。
「グギャァァァーーっ!!」
ダクザギャッデスはそんな口ばしを大きく広げ、威嚇するように恐ろしい叫び声を上げる。
その口ばしの中には、ドラゴンのような巨大な牙が何本も生えている。
ただしそのうちの半分ほどは、折れてボロボロになっていた。
やっぱり間違いないっ!
真一は相手が前に自分の頭に噛みついてきた個体だと確信する。
もっともこんなユニークモンスターの化け物が、そうそう何匹もいてたまるか!という話であった。
そしてお互いにはっきり視認できる距離まで来たことで、真一はダクザギャッデスの視線が自分に向かっているのを感じた。
これだけ姿形が変わっているのに、自分の牙を折った相手だと見抜かれているような気配がする。
呪い殺さんばかりの怒りを込めて睨みつけてくるダクザギャッデス。
激突までもう時間はない。
お互いの距離は僅か50メートルほど。
農園からは2〜300メートルほど離れることができた。
この状況ならもちろん、大人しく襲われるまで待つ必要はない。
「エピー、先制攻撃だっ!ブレスをお見舞いしてやれっ!」
「ミュイっ!みゃぁァァァっ!」
可愛らしい掛け声とともに、エピーが炎熱ブレスを放つ。
凄まじい熱気を放ち、どんなものだろうが消し炭に変えそうなエネルギーを秘めたドラゴンブレス。
高速で突っ込んできていたダクザギャッデスには、回避など不可能であった。
命中したドラゴンブレスが大爆発を起こす。
「グギャァァっ!!!」
ダクザギャッデスの悲鳴がこだまする。
やったか!?とフラグのようなことを考える真一。
だがもちろんこの程度で何とかなる相手ではない。
爆炎を切り裂くように凶悪な青紫色の極太のビームが飛んできた。
それはどうやら魔法的な何かのようで、光のように一瞬で届くようなスピードではない。
それでも真一では反応すらできない速さだった。
だが反撃を予測していたエピーにとっては、それほど対処の難しいものではない。
エピーは冷静に左の首を瞬時に動かし、胴体の中心に向かって飛んできたビームを着実に受け止める。
真一の顔面で、、、
「ぎゃぁぁっ!目がぁ!目がぁっ!」
直径20センチほどもあった極太のビームは、真一の両目を覆うように直撃した。
本来なら一撃で蒸発するところだが、チートスキルのおかげで受けるダメージはわずかに1。
感じる痛みも100分の1である。
それでも目を焼き切られるような感覚に、たまらず悲鳴を上げる真一だった。
とはいえ大げさに騒いでいるだけで、実際のところ真一にとっては大した痛手ではない。
ずっと一緒にいるエピーは、真一本人よりもそのことを冷静に見極めていた。
問題なく受け止められると判断したエピーは、次々と飛んでくるビームを真一の顔面で防いでいく。
エピーも必死に避けてはいるのだが、ビームの本数があまりにも多くて、半分ほどはガードするしかなかったのだ。
だがとめどなかったビームの連射が突然に終わる。
これではキリがないと、ダクザギャッデスも判断したようだ。
とはいえダクザギャッデスの方にもダメージは全くない。
あれほどのドラゴンブレスを受けても、濃紺色の鱗には火傷の痕すら見られなかった。
そのダクザギャッデスの背後には、青紫色で円形の魔法陣のようなものが、いくつも空中に浮かんでいる。
あそこから先ほどのビームを発射したのだろう。
だが向こうの攻撃も真一たちにはさしたるダメージを与えていない。
わずかに減った真一のHPも、、、
「ミニマムヒール!」
ようやく落ち着いた真一の回復魔法で全快であった。
それを見て忌々しげに唸り声を上げるダクザギャッデス。
小手調べの前哨戦はお互いに無傷であった。
とはいえ真一たちにとって、完全に何の問題もなかったわけではない。
エピーの避けたビームの何本かが農園の手前に着弾し、荒野に直径30メートルほどのクレーターを作っていたのである。