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4.40.180 災禍の凶相

 植物の世話は一通り終わっているらしく、温室でやるべきことはない。

 勇者同士の秘密の話も済んだので、真一たちと朝霞は外に出る。


「大丈夫だったの、アサカ?」


「えらい長いこと話してたみたいじゃのう」


 すぐ外で待機していたキョロフとコソフォが真っ先に声をかけてきた。

 シドローたちもソワソワとした様子でずっと待っていたようだ。


「はい。一度みんなで相談しようということになりました」


 じっくりと腰を据えて話し合うため、全員で屋敷へと歩き出す。


「アサカちゃんだっけ?俺はシュウって…

「はい、シュウは黙ってようね!」

「アサカちゃんが怖がってるでしょ。トモヒコ、シュウを押さえといて!」


 超絶美少女である朝霞の姿を目にして、目の色を変えたシュウがさっそくナンパを始める。

 だがユキとマコに容赦なくブロックされるのであった。

 そんな2人の様子には鬼気迫るものがある。


 実は2人ともイケメンのシュウのことが気になっていて、、、


 なんてことは無さそうである。

 外見は良くても中身はアレだから、近くにいるパーティーメンバーほど余計に欠点が目につくのだろう。

 とはいえ2年近くも一緒に行動しているのだから、パーティー内で恋愛に発展してもおかしく無さそうなものだ。


 そんな人間模様を横目で観察しながら、微笑ましくも少し羨ましく思う真一。

 けれども自分にはステキな恋人が2人もいるんだから!と、気を取り直す。

 だがそんな『ステキ恋人』は、とんだトラブルメイカーでもあるのだ。

 少なくとも片方は、、、


「ニャニャニャっ!!!?」


 そしてその問題児が突然凄まじい大声で叫び出す。

 どこか愛嬌のあるドリーの叫び声に、またかよ!?と呑気そうに振り向く一同。

 昨日会ったばかりだというのに、すっかりドリーに毒されていた。

 ドリーのことを良く知らない朝霞たちだけが、何事かと困惑している。


 だが真一は他のみんなとは違って、少し嫌な予感を抱いていた。

 ドリーの間の抜けた鳴き声の中に、いつもと違う不穏な響きを感じ取ったからだ。

 そしてエピーは1人だけ、目に見えて警戒態勢に入っていた。

 真一が今まで見たことのないレベルの緊張の仕方である。


「ミュイっ、エピーも気づいたっ!シン、今すぐ逃げるよっ!!」


 エピーが背中の羽をピンと大きく広げながら、切羽詰まった声で叫ぶ。

 ただならぬ様子を感じる真一。


「どうしたんだ?」


「なんかヤバいのが来るニャミュっ!」


「きっと森でエピーたちんとこに来たヤツだと思う」


 それってもしかして、ラスボス(仮)モンスターのことなんじゃ?


 真一が思い出したのは、この異世界ミグル《内側》に来て最初、鳥モンスターに拉致されてたときに、上空で襲いかかってきたアイツだ。(※16話)

 ドラゴンとライオンとワシを混ぜ合わせたような、超巨大モンスターだった記憶がある。

 しかもソイツは最強種族で幻獣種のエピーたちが棲家から逃げ出すほどの相手だ。

 きっと幻獣種の中でもさらに上位の力を持っているのだろう。


 ドリーたちの言葉に間違いはないようで、空の彼方には確かに、少しずつ近づいてくる影が見えつつあった。

 まだ小さくてはっきりとは分からないが、あのときのラスボス(仮)モンスターにシルエットが似ている気がする。

 前に真一が遭遇したとき、アイツは何かを探すように絶命の森の上空を飛び回っていた。

 そのターゲットは、やはり『龍神様』だったようだ。

 あの森からここまでエピーたちを追いかけて、やって来てしまったのだろう。


 エピーたちですら勝ち目がないと逃げ出す程の相手。

 確かに今すぐ逃げた方がいいのは間違いない。

 だけど、、、


「逃げるったって、他のみんなはどうするんだよっ!」


「無理だよ。どうせみんな殺されちゃうニャミュぅ、、、」


 ドリーの考え方はあまりにもドライであった。


「シン、連れて行けるとしても両腕使って抱えても4人だけだよ。誰を助ける?」


 早くも翼を広げて上空に少し浮き上がりながら問いかけるエピー。

 全員は助けられないことを、当然の如く考えている様子だ。


「っ!!!」


 他の面々もようやく絶望的な状況に気づいたのか、血の気の引いた表情を浮かべて息を呑む。

 困惑する真一だったが、決してエピーとドリーが冷たいわけではない。

 生死をかけたサバイバル生活をずっと続けてきた2人にとって、死とはいつもすぐ隣にあるものなのだ。

 精いっぱい生きた結果の死は、自分のものも他人のものも、ありのまま受け入れているのである。


「2人をっ!コソフォさんとキョロフさんを助けてっ!」


 そんななか、真っ先に声を上げたのは朝霞であった。

 必死の表情で頼み込む朝霞に、エピーが真一にどうする?と視線で問いかける。


「何をバカなことを言っておるんじゃ!俺らはいいからアサカが逃げなさいっ」

「俺たちはいいからあんたらが逃げろっ!」

「アサカちゃん、ファニカスの花を持って逃げて!それでミドローちゃんを助けてあげて!」


 コソフォやユキたちが口々に叫び出すが、真一は逃げるという決断ができずにいた。

 何故ならアイツは真一たちを追いかけてここまで来た可能性が高いからだ。

 それなのに自分たちだけ逃げて他のみんなを見殺しにするなど、出来るはずがなかった。

 それにドラゴン形態に戻れば、全員を背中に乗せて逃げられるかもしれない。

 最悪、溜め袋に入れてしまうという手もあるが、、、


「そもそもエピー、逃げ切れるのか?」


「ミュイ〜、たぶん無理だと思う。あっちの方が速いし、これだけ見晴らしがいいと隠れる場所がないミャぁ、、、」


 エピーの悲痛な声に、全員が言葉を失う。

 絶命の森ではエピーたちは、森の中に隠れて気配を消したおかげでなんとか逃げきれたのだ。

 だが今回は既に相手に見つかっている。

 空の影は真っ直ぐ一直線にこちらへ向かってきているのだ。

 これで向こうの方が速いとあっては、逃げ切れる可能性はゼロに近い。

 確かに凄まじいスピードのようで、いつの間にか凶暴な輪郭がはっきり見えるまでになっていた。

 その形状からしてやはり、以前真一が遭遇したラスボス(仮)モンスターである。


「まさか、、、ダグザギャッデス!?」


 最初にその正体を見抜いたのはシドローであった。

 悲鳴のような叫び声に、『山兄弟』の残り3人が一斉に絶望の表情を浮かべる。


「幻獣種だとっ!?」

「なんでこんな、、、」

「ぁ、ぁにきぃぃ、、、」

「ウソでしょっ!?」


 どうやらラスボス(仮)モンスターは、現地人には良く知られている怪物のようだ。

 その名は『ダクザギャッデス』。

 ネームドモンスターであり、、、

 エピーたちと同じく、プラチナ(Sランク)を上回る強さを持つ幻獣種であった。


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