4.A-16.176.異世界来たならやっぱり農業
4章パート4最終話です。
ある日朝霞は農作業で指を怪我してしまった。
それほど大きなものではないが、それでも治るにはかなり時間がかかるはずの傷だ。
だが驚きの出来事が起きたのは、そのあと朝霞が水浴びをしたときのことである。
この世界では部屋にある『ピジャン』(※スライムベッド)の魔道具で寝るだけで、身体のヨゴレはほとんど取れてしまう。
そのため風呂に入るという習慣が全く無かった。
ちなみに『ピジャン』はそこそこの高級品なので、貧しい人は『ジャンジャ』(※スライムタオル)で身体を拭くだけで済ませるらしい。
けれども日本人である朝霞にとっては、どうしても風呂に入りたい気持ちがあった。
幸いにもクッソフォ農園は川から農場まで用水路を引いているため、水が豊富にある。
朝霞はその用水路の脇に衝立てを置いて、簡単な浴場を作らせてもらっていた。
水浴びしかできないが、温暖なミグルの昼なら何も問題はない。
屋敷から遠いので毎日は通えないが、朝霞は数日おきには身体を洗いに来ていた。
指を怪我して作業を早めに切り上げた朝霞は、さっそく水浴び場にやってくる。
服を脱いで全裸になると、自動的にヒカるんが発動した。
この状態にもすっかり慣れたもので、朝霞はいつものように身体を洗う。
水が指の傷にしみるので、最初は恐る恐るだった。
だが水浴びを終えて服を着たときに、朝霞は気づく。
いつの間にか指の傷がほとんど治っていたことに。
「えっ!?なんで??」
水浴び前までは指から血が滲んでいたはずだった。
なのに今では既にかさぶたが出来ていて、かなり目立ちにくくなっている。
魔法のような回復スピードであった。
もしかしたらこの異世界に来たときに、怪我が治りやすい身体にでもなったのだろうか?
朝霞がこちらに来てから大きな怪我をしたことがなかったので、気づかなかっただけで。
とはいえ身体能力に大きな違いを感じたことなどない。
身体が強靭になったとは思えなかった。
そして魔法のような力など、朝霞は持っていない、、、
違うっ!そんなことないっ!
そのとき朝霞は閃いた。
自分は1つだけ特別な力を持っていることに。
「もしかしてこれ、ヒカるんのおかげなの?」
確かめてみようと、朝霞は服をはだけて胸を露出させてみる。
再びヒカるんが朝霞の胸に出現し、眩い光を放つ。
朝霞は指の傷をヒカるんに近づけてみた。
うっすらと残っていたかさぶたが、ヒカるんの白い光に照らし出される。
するとかさぶたが魔法のようにみるみるうちに薄くなっていく。
1分もしないうちにすっかり治りきり、どこに傷があったのかすら分からなくなってしまった。
「ヒカるん、こんなことも出来たんだ!だったら!」
そこで朝霞はあることを思い付いた。
急ぎ足で屋敷に戻り、自分の部屋に駆け込む。
向かったのは窓際に置いてある、小さな鉢植えだ。
そこには元気を無くしてしおれかけている異世界植物があった。
カッソーという名前の、シダっぽい葉の生えた低めの植物である。
数十日に1度きれいな花を咲かせてくれるのだ。
ここに来て間もない頃にキョロフからもらった、朝霞の大切な友だちだ。
けれども10回ほど花を咲かせたところで元気を無くしてしまっていた。
このままでは枯れてしまう日も遠くない。
もっともキョロフの話では、普通のカッソーは5〜6回咲くくらいのものらしい。
10回も咲いただけでも驚異的なのだという。
本来ならとっくに枯れてしまっているはずなのだ。
そうは分かってはいても、朝霞にとっては悲しくて悲しくて仕方がない。
なんとか助けてあげたいと、精いっぱい世話をしてきたのだ。
それでもここ数日で限界を迎えつつあったのだが、、、
「ヒカるん、ソーちゃんを助けて!」
祈るような気持ちで服を脱ぐ。
裸の胸を鉢植えの前にさらして、親友の『ソーちゃん』にヒカるんの光をたっぷりと浴びせる。
変化は劇的であった。
萎れていた葉っぱがみずみずしさを取り戻し、項垂れていた茎も力強さを増していく。
1時間ほどヒカるんの光を照射すると、ソーちゃんは枯れそうだった状況から完全に復活していた。
それから朝霞は毎日ソーちゃんにヒカるんの光を浴びせ続ける。
そして6日目にはついに、ソーちゃんは再び花を咲かせるまでになったのだ。
さらに朝霞は他の植物でも試してみる。
自室に鉢植えをいくつか持ち込み、こっそり裸になってヒカるんの光を照射しまくる。
するとヒカるんで育てた植物は、普通よりも遥かに早く、そして大きく育つことが分かった。
どうやらヒカるんは傷を治すだけでなく、植物の成長を促進する効果もあるみたいだった。
植物が大好きな朝霞にとっては、何よりも嬉しい能力である。
そこで朝霞はコソフォに温室を使わせてもらえないか頼み込んだ。
コソフォが若い頃に使っていた温室だったが、今では放置されたままだったのだ。
快く許可がもらえたので、朝霞はさっそく温室でいろいろな植物の栽培を始めることにした。
中では裸になるので、コソフォたちには決して入らないようにお願いをする。
温室の壁が透明でないのは本当に助かった。
最初に育ててみたのは野菜や果物だ。
どれも普通より大きく、そして何より美味しい。
コソフォとキョロフにも大好評だった。
もっと数が採れるなら、高級品としてブランド化して売り出せるのに、と残念がるコソフォ。
その話を聞いて、朝霞は思いつく。
もっとお金になる植物を育てれば、2人への恩返しになるのではないかと。
朝霞はこの農園に来てから、いろいろな文献を読んでミグルの植物について調べていた。
コソフォの『情報板』には、いろいろな植物図鑑などの『情報』が入っていたのだ。
希少な薬草や花の中には、栽培が難しくて野生でも見つかりにくいものが多い。
それらはとんでもない高額で取り引きされていた。
もしヒカるんの能力でそれらの栽培に成功すれば、大金が手に入るかもしれない。
朝霞はレア度の低い薬草などから順にトライしていく。
するとなんとほぼ全ての植物で、栽培に成功したのだ。
それらを恩返しといってコソフォに渡し、換金してもらう。
収益の一部はよりランクの高い素材の苗や種を仕入れてもらうのに使用した。
そうしてさらに高価な薬草の栽培に挑戦し、どんどんと素材のランクを上げていく。
世間でシルバー(Bランク)にランク付けされる素材くらいまでなら、ほとんど失敗することはなかった。
そうやって朝霞は次々に希少植物の栽培を成し遂げていく。
栽培は不可能とされていた、幻の薬草ですら出荷できるようになっていた。
そしてついに朝霞は、、、
とあるプラチナ(Sランク)素材の栽培に、成功しようとしていたのである。
これにて朝霞編は完結となります。
トンデモスキル少女の大冒険、いかがだったでしょうか?
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明日からのパート5で、4章は完結となります。
ヒカるんに秘められた力の正体は?
朝霞のペナルティ、聖剣と霊薬の行方はどうなるのか?
そしてバンリャガの街に迫りくる災厄級の危機とは?
クライマックスへと向かっていく物語をぜひお楽しみに。