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4.A-6.166 命名!『ヒカるん』

 隠れるように森を歩いているうちに、全身の痛みは少しだけマシになってきた。

 最初は身体がバラバラになるかのような激痛に思えていたが、いまは地面に叩きつけられたときの痛みが残っているくらいである。

 全身が血まみれになったせいで、朝霞は冷静さを失い勘違いしていた。

 だけどパニックが収まり落ち着いてきたところで、朝霞もようやく気付く。

 頭からかぶったこの真っ赤な血は、朝霞のものではないと。


 何故なら朝霞の身体には、打ち身以外の怪我がどこにもなかったからだ。

 巨大トラの爪で刺し貫かれたはずの胸にも、かすり傷すらついていなかった。

 こんなこと普通ではあり得ないが、考えられるとすれば、、、


「やっぱりあの『不思議な光』のおかげだよね??」


 朝霞の指が何の抵抗もなくすり抜けたあの光。

 その『謎の光』が盾となって、朝霞の胸を巨大トラの爪から守ってくれたのではないか?

 冷静になって考えると、そうとしか思えなかった。


 ただし傷はなかったものの、あのとき朝霞は何メートルも跳ね飛ばされてしまった。

 きっと巨大トラの腕の衝撃までは、光では受け止められなかったのだろう。

 もっともそれではあの大量の血しぶきの理由が分からない。

 もしかしたら別のモンスターが乱入していて、どちらかが盛大に出血したのかもしれない。

 そして同時に森の木々を切り裂いた、とかではないだろうか?

 とはいえ今さら考えてみても意味のないことである。


「ここまで来ればいいかな?」


 20分ほど歩いてある程度現場から離れたところで、朝霞は立ち止まる。

 ここまで逃げてくれば、もう襲われる心配はないだろう。

 それに胸を手で隠しながら道なき森を歩くのは想像以上に大変で、何度も転びそうになったのだ。

 一度態勢を整える時間が必要だった。


 というのも朝霞の制服のシャツは、完全に切り裂かれて修復不可能だったのである。

 巨大トラの爪によって15センチほどの部分がごっそり切り落とされ、完全になくなっていた。

 ブラジャーに至っては、走っている間に落としてしまったようだ。


 これではどれだけ服を前側に寄せても、胸を隠すことなどできない。

 仕方なく朝霞はずっと手で隠しながら歩いていたのだ。

 けれどもここまで歩いてみて、こんな体勢で森を進み続けるのは、さすがに無理があることがわかった。

 そこで朝霞はさっきの光を使って胸を隠そうと考える。


「休憩したかったとこだし、『不思議な力』のこと調べてみようかな」


 神さまからもらった、『誰にも裸を見られない』という朝霞だけの不思議な能力。

 少年は『ユニークスキル』と言っていたが、朝霞はその単語自体を知らなかった。

 ゲームにもアニメにも全く興味がなかったからである。

 だからこういう力のことを何と呼べばいいかすら分からない。


「名前も分からないし、何か考えなきゃ」


 ステータス画面を出せば、自分のユニークスキルの名前を調べることができる。

 けれども朝霞はそんな異世界モノのお約束など、知るよしもなかった。

 呼び名が無いのは不便なので、朝霞は自分で『不思議な光』に名前をつけることにする。


「ヒカリちゃん。

 いや、ヒカルくん?。

 ライトさん?、、はピンと来ないし、

 ヒカルさんだと長すぎかぁ、、、

 だったらヒカルんとか、、、

 ヒカるん?

 ヒカるん!

 うん、『ヒカるん』にしようっ!」


 カワイイ名前を思い付いたと、満足の朝霞であった。


 とはいえステータス画面の存在すら知らない朝霞では、ヒカるんの詳細が分からない。

 何度も試してみて、使い方に慣れていくしかなかった。

 まず朝霞は自分で意識的にヒカるんを出せるのか、試してみることにする。


 とはいえ頭でいくら『出て!』と考えてみても、出てくることはなかった。

 やはりヒカるんはあくまで、『裸を見られない』力なのだ。

 となれば、朝霞がやるべきことは1つである。

 朝霞は恥ずかしさを堪えて、むき出しの胸を隠していた腕を、恐る恐るどけてみる。


「ぅわっ、また光ったっ!」


 すると再び真っ白な直線光、『ヒカるん』が現れた。

 先ほどと同じく、朝霞の左右の胸の頂点を結ぶように延びている。

 長さも同じく10メートルくらいだ。

 これでは長すぎて左右が見にくい。

 周りからも目立つし、森の中を歩くにははっきり言って邪魔である。


「もっと短くならないかなぁ、、、ぇっ!?」


 朝霞がそんなことを考えた瞬間のこと。

 あんなに長かったヒカるんが、一瞬にして30センチくらいにまで縮んだのだ。

 まるで朝霞の思考が読み取られて、即座に反映されたようである。


「これなら大丈夫そう。ヒカるんって、考えた通りにコントロールできるのかな?」


 そう思った朝霞は、ヒカるんの形を変えたいと念じてみる。

 すると長くしたり、暗くしたり、薄くしたり、四角くしたり、色を変えたりと、自由自在であった。

 しばらくあれこれやってみたところ、制服の白シャツの切られた部分を埋めるように変形させることができた。

 これなら破られる心配もないし、光っている以外は見た目も変じゃない。

 嬉しくなった朝霞は、その勢いで移動を再開する。


 しかしそれも長くは続かなかった。

 10分もしないうちに疲労がたまって、ヒカるんを出せなくなってしまったのである。

 ただしそれは肉体的な疲労ではなく、精神的なものだ。

 酷い頭痛とともに立ちくらみがして、まともに動けなくなってしまったのだ。

 それとともにヒカるんが消え失せ、朝霞の胸が露わになる。


「精神のエネルギーみたいなのを使ってるのかな、、、?」


 たまらずその場にへたり込んだ朝霞は、横になって手で胸を隠す。

 そのまま1時間ほど休んでいると、ようやく頭の痛みは収まってくれた。

 再び移動を開始したいところだが、胸を露出させたまま歩くのには抵抗がある。

 休憩中はずっと手で胸を隠していた朝霞だったが、恐る恐る手を離してみる。

 すると再びヒカるんを出すことができた。

 どうやら『精神エネルギー』的な何かは、無事に回復してくれたみたいである。


 今度はヒカるんを最初と同じ直線光のままにしてみる。

 ただし長さは30センチほどに縮めてみた。

 その状態で座り込みながら、これでどうなるかとヒカるんを出し続けておく。

 すると制服の形にしたときと違って、10分以上出していても全く疲れてこない。

 さっきは精神的な疲労がどんどん溜まってくるような感覚があったが、今回は明らかにそこまでの負担はない。

 どうやら精神エネルギーの消費量は、ヒカるんの形によって変わるみたいであった。


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