4.32.156 召喚勇者は薄幸少女
コソフォ夫婦が保護している少女は異世界から召喚された勇者だという。
「それじゃもしかして、レアな薬草を栽培できるのって、勇者のユニークスキルなのかも!」
「植物を育てる能力の持ち主ってことか!」
マコの予想にシドローが納得の声を上げる。
確かに否定する材料は見当たらなかった。
真一が日本で見たアニメの中では、転生特典に農業スキルをもらうってパターンもあった。
確かに植物が好きな少女なら、そういうスキルを選ぶ可能性が高そうだ。
「あれっ?だけど、その子って勇者なのに死にかけてたんですか?バンリャガの街の近くで」
ふとそんな疑問が思い浮かんだ真一は、思わず後ろから声を上げる。
勇者はステータスが現地人よりも優れているはずだ。
絶命の森みたいな危険地帯ならともかく、街の近くで死にかけるというのが、真一には想像できなかった。
「それがな、、、あの子はとても優しい子なんじゃが、、、人見知りで、男性が苦手で、それに何より、、、」
「とにかく運が悪いのよ、、、薄幸体質とでも言うのかしらね」
言いにくそうに口ごもるコソフォの言葉を、キョロフが引き継ぐ。
けれども死にかけてもおかしくないほど運が悪いとは、いったいどれほどの不幸体質だというのか?
「バンリャガの街で散々な目に遭ったらしくて、飲まず食わずで逃げ出して、ひどく衰弱しとったんじゃよ」
「悪い男たちに騙されて酷いことをされたみたいなの。あの子はとんでもない美人だから、目を付けられたのね」
どうやらその女性勇者は、ものすごく可愛い容姿をしているそうだ。
そんな美少女が男たちに襲われたって、いったい何をされたのか?
マコもユキも不快そうな表情を見せる。
そんな様子を見て、コソフォが慌てて安心させるように明るい声を出す。
「大丈夫じゃ!大事にはならんかったそうだし、今はすっかり元気にぃっ、、、なっとったんじゃがのう、、、」
だがその言葉は尻つぼみに弱々しくなっていく。
「このミツ日くらいかしら?日に日に思い詰めたようになっていって、、、ぅぅっ、、、」
話しているうちに感情が大きく揺さぶられたのか、キョロフが言葉を詰まらせる。
その様子を見るに、とても夫妻の勘違いや気のせいだとは思えなかった。
本当にその少女は今まさに、死に瀕しているのだろう。
だけど真一にはその原因がさっぱり分からない。
「普通に暮らしている勇者が死にかけてるって、いったい何が、、、、っ!!!」
そう口にした瞬間、真一の脳裏に『ある閃き』が舞い降りた。
「ユキっ!ちょっと『勇者★ランキング』見せてよっ!最下位んとこ!」
「っ!ペナルティの状態異常ねっ!」
「確かにずっと農作業してたんじゃ、ペナルティを受けてもおかしくないな!」
真一の意図にすぐに気付いたようで、ユキとトモヒコが声を上げる。
昨日ユキに見せてもらった異世界スマホアプリ『勇者★ランキング』には、このミグルにいる全ての勇者の情報が載っていた。
だがそのランキングの最下位付近の4人には、何か変な状態異常が発生していたのだ。
マコの予想では勇者活動をしていないと、あの邪神からペナルティを受けるんじゃないかという話だった。
「ぺな?何なんじゃ?」
困惑するコソフォを前に、ユキがさっそくスマホを取り出す。
『勇者★ランキング』のアプリを操作するユキに代わって、マコがコソフォに聞き取りをする。
「コソフォさんっ!娘さんのお名前は?」
「ん?、、、アサカじゃが?」
すると間髪入れずにユキが声を上げた。
「あった!!結城朝霞ちゃん、、、って、マズい!あと4日で死んじゃうわよっ!!」
やはり真一の予想通り邪神のペナルティが原因だったようだが、事態は想定以上に切羽詰まっていた。
「そんなっ!」
「4日!?あとたったの4日!?」
とんでもない話を聞かされて、コソフォとキョロフが取り乱し、悲鳴をあげる。
そんななかユキが、ランキングを表示したスマホをテーブルに置く。
みんなが一斉に覗き込むが、表示が日本語なので読めるのは真一たちだけだ。
だが確かにそこには、『アサカ』と思われる名前があった。
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Rank Name Level HP Play time
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233! 関遥 1 15 433
234! 相川美智留 1 8 400
235! 結城朝霞 1 4 535
236! 木下雅夫 1 2 386
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フルネームは『結城朝霞』。
ランキング最下位の1つ上。
残りHPはたったの『4』。
通常のランキングと異なり、グレーの文字で表示されている。
この状態の人たちに発生しているペナルティは、どうも1日ごとに最大HPが『−1』されるというものみたいなのだ。
それはつまり、4日後にはHPが『0』になってゲームオーバーということである。
顔面を蒼白にさせて震えているコソフォとキョロフ。
もちろん真一たちも黙って見ていることなどできない。
「コソフォさん、今すぐアサカさんに会わせてください!今すぐになんとかしないと!」
「ぁ、あぁ、そうだな!」
「今は温室にいるわ。約束だから中には入れないけど、外から声をかけてみましょう」
「急ごう!一刻を争うからな!」
マコが会わせてくれと頼むと、コソフォもキョロフも異論なく頷いてくれる。
そうして全員でアサカのいる温室に向かうことになった。
温室は屋敷の裏手に建てられていて、20メートル四方はありそうな、割と大きい白い建物だった。
外側の壁は例の謎石でできており、中は見えなくなっていた。
天井部分は透明な素材を使っているみたいだが、壁が高いのでやはり内部の様子をうかがい知ることはできなかった。
温室から10メートルほどまで近づいたところで、コソフォが立ち止まる。
「すまんが男どもはこのへんで待っててもらえるか?あの子は極度の男性恐怖症でな。未だにウチのもんとすら顔を合わせられねぇんだ」
「近くに存在を感じるだけで、もうダメなのよ、、、」
バンリャガの街で悪い男たちに襲われたそうだし、無理もない話であった。
「それじゃ、マコとユキに任せるかな」
トモヒコの提案に、真一やシドローたちも同意する。
誰も異論はないようだった。
ただ1人、、、
「ドリーは?ドリーも女の子ニャミュっ!」
ワガママドラゴンを除いては。
また面倒なことになるのでは?と、イヤな予感がしてくる真一であった。




