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4.30.154 やってきました!話題の農家

 風が吹かないと餓死とか、異世界の食用スライムがトンデモ生物すぎる。


「ともかくね、牧場は人力でバジゴリを無理やり転がしてどんどん育てていくのよ。だからこんな大きさにまで育つってわけ。最終的には直径2メートルくらいになるから、かなりの重労働なのよ。駆け出し冒険者の定番クエストね」


 そういえば昨日冒険者ギルドで、4人組のパーティーがイヤそうにしながら受注していた。

 仕事はハードだが、報酬は高めなのだそうだ。

 ちなみにこのバジゴリ、オスもメスもなくて繁殖もしないらしい。

 ある程度大きくなった個体は、自然に分裂するのである。

 牧場で育てているのは、この自然分裂をしないように品種改良をした種類だ。

 だから牧場のバジゴリは、強引に引きちぎって数を増やすのだそうだ。

 もうメチャクチャであった。


「だけど俺たち、スライムを食べてたのか、、、」


 この街の滞在中に、何度もバジゴリ料理を食べてきた真一たち。

 かなり美味しかったのだが、元はスライムだと言われると少し抵抗がある。


「そんなの今さらよ。そもそもこのミグル《内側》自体、スライム製品が無いと始まらないんだから」


「えっ!?」


「さっきの魔石牧場で育ててるモンスターって、品種改良されたスライムよ。それにベッドも掃除機もタオルも、ぜんぶスライム製品よ」


 なんと真一が街で大量に見かけた例の『クリームミスト』も、特殊なスライムを加工したものなんだそうだ。

 ホテルの風呂ベッドも、レストランの手をキレイにする魔道具も、街を走る清掃バイクも全てである。


 そんなトンデモ農場を通り過ぎて、魔動トラックはさらに天山から遠ざかる方向へと進んでいく。

 街の周囲の畑を抜けてからは、舗装など全くされていない。

 だがオフロードを全く苦にすることもなく、魔動車は時速60キロくらいのスピードで駆け抜けていく。

 トラック自体は凄まじく揺れているのだが、魔法のサスペンションと反慣性機能のおかげで揺れはほとんど感じなかった。


 ちなみに舗装はされていないが、一応は道があるようである。

 10メートルくらいの間隔で、道の両側に杭のようなものが打ち込まれているのだ。

 道の目印として立てられているのだが、モンスターけの効果もあるらしい。

 おかげで走っていてもモンスターに襲われることもなかった。


 もっとも別のモンスターによるトラブルは起きまくりである。

 ドリーが飽きた!とダダをこねたり、

 ドリーが運転したい!と騒ぎ出したり、、

 ドリーが腹が減った!と暴れ出しそうになったり、、、


 集合前に飯屋でたらふく食ったばかりでこれである。

 まだ1時間ちょいしか走ってないのに燃費悪すぎにもほどがあった。

 魔動トラックを見習って欲しいところだ。

 まぁ、この車の燃費など知らない真一なのだが。

 呆れた真一はドリーに我慢するように言いつける。

 もっとも、、、


 それがとんだ判断ミスで、、、

 後にとんでもない『大惨事』を引き起こすことを、真一はまだ知らない。


 そうして街から1時間以上もトラックを走らせたところで、、、


「見えてきたぞ。クッソフォ農園だ」


 運転席のシドローが声をあげる。

 前方を見ると何もない平原の真ん中に、広大な穀倉地帯が広がっていた。

 縦横に2〜3キロ四方はありそうな、とんでもないサイズの大農園である。

 様々な作物が、色とりどりに実っていた。


 農園の周囲には石っぽい素材で出来た簡素な柵があるだけだ。

 あんなんでモンスターに襲われないのかと疑問に思う真一だったが、大丈夫なんだそうだ。

 なんでもこの世界でメインのモンスター対策は、柵ではなく魔除けの魔道具らしい。

 柵に沿うように等間隔に、モンスターの接近を防ぐ魔道具が設置されているそうだ。

 道の両側にあった杭と同種のものだという。


 さらにはバンリャガの街の周囲の畑や、通り道にあったバジゴリ農場も同じ仕組みだったみたいである。

 カッパー(Eランク)くらいまでのモンスターは寄り付かなくなるらしい。

 それ以上の強さのモンスターはこのあたりにはいないし、そんなものに襲われたら最初からアウトである。


 そのままクッソフォ農園に近づいていくと、手前に入り口らしきものがあった。

 謎石製の柵の代わりに、幅4メートルほどの片開きの門が設けられている。

 横には詰め所のようなものもあるが、門番らしき人の姿はない。

 車を停めて降りてみるが、周りを見回しても誰もいないようだ。

 するとシドローは門を勝手に開けて、車を中に進める。

 不法侵入っぽいが、ここミグルではこれが普通なのだろうか。


 門の先は畑のない広いスペースとなっており、いくつかの建物が建っている。

 本邸っぽいのは2階建ての綺麗な屋敷であった。

 近くには作業小屋や別邸がいくつも並んでいる。

 いちばん大きな建物は3階建ての飾り気のない宿舎みたいなやつだ。

 全て例の謎石で造られているようである。

 ただしこれだけ多くの建物があるというのに、人の姿は全く見えなかった。


 屋敷の前に魔動車を停めて、全員で屋敷に向かう。

 先頭のシドローがドアの前に行くと、謎石製ドアの真ん中にある金属プレートのような部分に軽く触れた。


 ジジジジジーーーッ!!


 すると見た目からは想像もしなかった、甲高い音が鳴り響く。

 どうやら異世界インターホンにも、何か魔法が使われているようである。

 しばらくするとドアが開いて、いかにも農民といった様子の初老の男性が現れた。


「ママスミグル〜、えらい大勢やが、どちらさん?」


「ママスミグル。俺はバンリャガから来たゴールド(Cランク)冒険者パーティー『山兄弟』のシドローだ」


 ゴールドの冒険者タグを見せながら、シドローが自己紹介をする。


「ほぇ〜、ゴールドかい、、、遠くからご苦労さん。俺はこの農園の主のコソフォだ。そんで何の用かな?」


「実は希少な植物を探していて、ここなら何か情報がないかと思って訪ねてきたんだ」


「ふむふむ、なるほどなぁ。何か噂でも聞いたんやろうが、何を探しとるんよ?」


「ファニカスの花だ」


 その答えを聞いた瞬間、コソフォの表情が変わる。

 のほほんとした雰囲気は消え失せ、警戒感を強めていた。

 しばらく厳しい表情をしていたコソフォが、ようやく口を開く。


「誰か病気なのか?」


「俺の妹だ。あとシス(256)日も保たない、、、」


 コソフォは真剣そうな目でシドローを見つめながら、何やら思い悩んでいる。

 だがやがて決心したのか、ドアを大きく開けた。


「長くなりそうだ。中で話そう」


 どうやらファニカスの花について、何か心当たりがあるみたいであった。

 シドローとモドローが顔を見合わせる。

 2人の瞳には希望の光が宿りつつあった。

 そうして真一たちは屋敷へと足を踏み入れた。


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