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4.20.144 ご存知!バンリャガの街の大物冒険者!

「恩人?」


 真一が尋ねてみると、ユキは自分たちの境遇を詳しく話してくれた。

 実はナローズの4人が最初に降り立ったのは、ここバンリャガではなかったらしい。


「ウチらってもともとズッホーって街にいたんだ〜。ソコはここほど勇者に悪感情はないトコだったんだけど、ダンジョンのレベルがかなり高かったんだよね」


「それなのに俺ら、この世界のことナメてて、対した能力もないのにイキっててさ、それで危うく全滅しかけたんだ」


「そこをあるパーティーに助けてもらったんだよね。『山兄弟』って人たちなんだけど」


 その名前には、真一も聞き覚えがあった。


「あぁ!この街で唯一のゴールドランクなんだろ?」


「そうそうっ!特にアニキには世話になってな!冒険者としての心構えとか、戦闘訓練とか、いろんなノウハウとか、いっぱい教えてもらったんだよ!」


「今ではわたしたちの方がステータスは高いんだけど、それでも頭は上がらないわね」


 この街の最高ランク冒険者であるゴールド(Cランク)の『山兄弟』よりも、ナローズの4人の方が強いそうだ。

 ちなみにレベル自体は山兄弟の方が高いらしい。

 なんでも同じレベルなら、勇者の方がミグル人より遥かにステータスが上なのだそうだ。

 なので強さは4人の方が上なのだが、未だにカッパー(Eランク)止まり。

 どうも勇者というのはどこの街の冒険者ギルドでも、かなり不利な扱いをされるらしい。

 特に勇者嫌いなここバンリャガでは、それが顕著けんちょなのだ。


「そういや、そのパーティーってホッス渓谷で死にかけたんだろ?」


「そうなんだよ!みんなヒドい怪我をして、この街じゃ治せないから、治癒院のあるミョッコって街に行ってんだよ」


「治癒院?」


「治癒魔法が使える人がいる、病院みたいな場所よ。ここみたいな大都市よりも、ダンジョンの側の街の方が高レベルなんだよね」


「そうそう。あと武器屋とか鍛冶屋なんかもそうだな。アニキもホッス渓谷でなんかスゴい素材を見つけたらしくてさ、、ついでに鍛冶屋にも寄って来るんだって。なんか伝説の聖剣を錬成してくるって、嬉しそうにしてたんだよっ!」


「それでね、怪我も心配だからアタシらも同行するって言ったんだけど、付いて来んな!って言われちゃってさぁ〜」


「んで、だったらアニキたちの代わりに俺らが結晶トカゲを殲滅せんめつしてやろう!って思ったんだけどよぉ、ギルドが受注させてくんねぇんだよ!」


 どうやらそれでさっき冒険者ギルドの受付でナミンと揉めていたようだ。


「それって勇者が嫌われてるから?」


「うん、勇者への嫌がらせなんだけど、今回はそれだけじゃないの。そもそもホッス渓谷の異変も勇者のせいなんじゃないかって疑われてるみたいなのよね」


「どういうこと?」


「最近この街の周辺とか、あと絶命の森の方とかで、モンスターの動きがおかしいのよ」


 それってもしかして俺たちのせいなんじゃ?


 絶命の森という言葉を聞いて、嫌な予感を覚える真一。

 だがどうやらそういう訳ではないようだった。


「いちばん疑われてんのが、先日この街に立ち寄った怪しい女。わたしらは見てないんだけど、なんかヒドい怪我してて、とにかく不気味だったらしくて、、、ただね、それが勇者だったみたいなのよ」


「ソイツが来てからココの近くで強いモンスターが目撃されるようになっててさ。そんでソイツがホッス渓谷に立ち寄った後に異変が起きたんだよ。な、怪しいだろ?」


「まぁ、その人もすぐにこの街から出て行って、絶命の森に向かったらしいのよ。ただ今度はソッチの方まで様子がおかしいらしくてね。で、何か変な勇者スキルを持ってんじゃないかってわけ」


 なるほどそれだけ聞くと、その怪我した女勇者が異変の元凶で間違いなさそうだ。

 真一が思い出したのは、ホッス渓谷で見かけた怪しい黒いモヤである。

 地面に何かの術が仕掛けられていたみたいで、そこから禍々しい瘴気のようなものが漂っていたのだ。

 結晶トカゲたちは、その黒いモヤに引き寄せられていたように見えた。

 その怪しい女勇者が何か良からぬ術を施したと考えるのが自然だ。


 さらにミコミちゃんの村のあたりでもモンスターの動きがおかしくなっていた。

 マンモスカエルもカラフル大蛇もゴブリンキングも、本来なら龍神のナワバリに近寄るはずがなかったのだ。

 さらにはラスボス(仮)モンスターがやって来て、エピーたちが棲家から逃げ出すことにまでなった。

 時期的にはその女がやって来た頃と一致している。

 何か裏でとんでもないことが起きている気がして、背筋にゾクっとしたものを感じる真一であった。


「ともかく、そんなこんなで俺らまで怪しいって思われてて、最近さらに風当たりが冷たいんだよ」


「そんなに居心地悪いんなら、なんでまたこんな街に来たんだ?」


「このバンリャガがアニキたちの出身地なんだよ。ズッホーに出稼ぎに来てたんだけど、なんかどうしても戻らなきゃいけなくなったらしくてさ」


「そんでアタシらも無理言ってついて来たんだ〜。恩を返すまでは、どんなに居づらくても離れるつもりはないのよね」


「なるほど。だけど恩を返すってどうするつもりなんだ?」


「それがアニキって何やらスッゲェ大金が必要らしくてさ。それで4人で相談して、俺らでこっそり貯めてんだよ。だけど絶対受け取ってもらえねぇだろうから、無理やり押し付けて出て行くつもりなんだ!」


「それがわたしたちの命の恩返しってわけ♪」


 少し照れくさそうにそう話すユキであった。



ーーーーー



「消えた、、?」


 森の中を歩いていた傷だらけの女は、『因果』が断ち切られたのを感じて足を止める。

 彼女のユニークスキルによって、この世界に生じたいくつもの『因果』。

 彼女はそれらとの繋がりを常に感じているのだ。

 だがたった今そのうちの1つが、急に消失したのである。

 感覚を辿れば、消えた『因果』がどの方向にあったものかはすぐに分かる。


「ホッス渓谷ね」


 そしてその方向に該当するのは、数十日前に訪れたダンジョンのものだけである。


「この程度の傷の因果じゃ、消えてもおかしくないでしょうけど、、、」


 真新しいまま腕に残る痛々しい傷痕を見つめながら、彼女は独り言を続ける。


「シルバー(Bランク)クラスの因果を断ち切ったとなると、、、」


 あそこに仕掛けた『因果』の強さなら、シルバーのモンスターの群れが出来上がっていたはずだ。

 手頃な獲物を集めておいて、後でレベリングに使うつもりだったのに、その前に誰かに処分されてしまったようだ。

 ホッス渓谷の最寄りのバンリャガ近辺には、それに対処できるような冒険者がいないのは確認済みである。

 だとすればホッス渓谷の『因果』を断ち切ったのは、、、


「例のトカゲかもしれないわね」


 ようやく目当ての相手の足取りが掴めた。

 森を出ていったという『龍神』が、ホッス渓谷に現れたとしても、方角的には不思議ではない。

 ならばすぐにホッス渓谷へ向かえば、『龍神』を仕留められるかもしれない。

 とはいえここからではどれだけ急いでも明日の到着になってしまう。

 それまで『龍神』がホッス渓谷で呑気に待っていてくれる可能性は、高くないように思えた。


「先にバンリャガに向かう方がいいかしら?」


 『龍神』ほどのモンスターがホッス渓谷に現れれば、大騒ぎになっていてもおかしくない。

 だとすれば最寄りの街であるバンリャガなら、目撃情報が得られる可能性が高い。

 それにホッス渓谷とバンリャガの間くらいの距離であれば、ギリギリ『因果』が届くかもしれない。

 だったら上空の『アイツ』が『因果』を辿って『龍神』の居場所を直接見つけることも不可能ではない。


 問題は今の彼女がバンリャガに行けば、たくさんの人がいる街に『アイツ』を連れて行く羽目になってしまう、ということである。

 下手したらその場で『アイツ』と『龍神』のバトルが始まるということだ。

 あの程度の街など、簡単に消し飛ぶことになりかねない。

 だというのに、、、


「どうでもいいわね、、、」


 そう吐き捨てると、『絶命の森』で1つの村を滅ぼした女は、バンリャガへと足を向ける。


 そんな傷だらけの女の上空には、、、


 不気味で巨大な影が空を舞っていた。


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