4.19.143 邪神の遊戯
スマホをユキに返すと、次は真一が説明する番だった。
邪神にヒドい目に遭わされて、生首だけで送られてきたところから全て、偽りなく打ち明ける。
ただしエピーたちが至聖龍であることだけは、隠しておくことにした。
プラチナを超える幻獣種の人喰い凶悪ドラゴンを連れ歩いているとは、さすがに言いにくかったからだ。
なのでエピーたちは絶命の森で暮らしていた、すっごく強い三つ首獣人種と説明した。
最初は真一がもらったチートスキルを聞いて、ナローズの3人は羨ましそうにしていた。
だけど全身バラバラにされた話をして以降は、ドン引きするレベルの表情で、かなり同情してくれた。
ユキに至ってはちょっと涙ぐんでいるほどである。
「シンイチぃ、、、アンタ、うっ、、、良ぐ頑張っだよぅっ、、、」
「ほんと良く生きてたよなぁ。そりゃ短期間で強くなるわけだわ。俺たちなんてレベル16まで400日くらいかかったのにシンイチはスゲぇよっ!まぁ、おんなじことは、絶対やりたくねぇけどな!」
「ほんとヒドい目に遭ったわよねぇ。やっぱあの神さまって邪神っぽいよね?」
どうやらあのインチキ少年を邪神認定していたのは、真一だけではなかったようだ。
「マコもやっぱそう思う?俺の中じゃ邪神確定なんだけど」
「そりゃアタシら転生特典で騙されたからね〜。闇魔法が無いなんて、一言も言われなかったもん」
「俺も『話術』は要望通りだけど、一応お笑いやりたいって話はしたんだぜ。だけど何の注意もなかったもんな。シュウの『魅了』も同じらしいぜ」
「わたしも!わたしもっ!スマホ頼んだときに圏外だなんて、ぜんぜん教えてくれなかったのよ!」
「いや、ソコは普通、真っ先に自分から確認すべきとこじゃない?」
「あぁ、ユキだけは見え見えのトラップに自分からツッコんだ感じだよな」
「ぅぅっ、、、そりゃそうなんだけど、みんなわたしにだけ冷たくない?」
「そこはまぁ、ユキってそういうキャラだから!」
本当に仲が良いのか悪いのか、良くわからないパーティーである。
ともかく例の少年が邪神であるっぽいということは、全員の共通認識であった。
ちなみに真一はガイダンスを途中で打ち切られたが、その内容は3人から聞くことができた。
まず転生者の目的は魔王を倒すこと。
そのために希望する転生特典と、現地人より有利な勇者としてのステータスが与えられるそうだ。
さらに魔王を倒した勇者には、ある程度は好きな願いを叶えてもらえるという特典があるらしい。
ただし日本に帰ることはできない。
転生者は全員、元の世界では死んだことになっているのだ。
というよりも死ぬ直前だった人間のリビド《魂》を、このミグルに送り込んでいると言うのが正しい。
とはいえ邪神は魔王を倒すことには特にこだわってなくて、無理に急いで魔王軍と戦いに行く必要はないそうだ。
ただし何もせず無為に時間を過ごしているのはNGらしい。
というのもスローライフを送っていた転生者が、モンスターの暴走などに巻き込まれる事件が多発しているからだ。
やる気のない勇者たちに対する『お仕置き』なのでは?という説が濃厚であった。
もしかしたらランキング最下位にいた勇者たちのバッドステータスも、邪神による何らかのペナルティなのかもしれない。
とにかくまともに魔王とぶつかる必要はないが、全く戦わないのは許されない。
そこから推測するに、邪神の真の目的は魔王を倒すことではなく、転生者の巻き起こすドラマを楽しむことなのではないか?
つまりここミグル《内側》は邪神がゲームのために創った『遊び場』であり、勇者たちはそのゲームの『駒』でしかないのでは?
そんな話が勇者たちの間では噂されているそうだ。
「だから誰かが魔王を倒しても、きっとそれで終わりじゃないって、みんな思ってるのよ」
「もっと強いラスボスか出てきたり、シーズン2が始まったりとかね。下手したら勇者同士でデスゲーム開始!とかまでありそうで、ちょっと怖いんだ〜」
「それは最悪だな、、、」
ユキが恐ろしい予測を口にする。
そんなこんなもあって、実はまともに魔王と戦おうとしている勇者は、それほど多くはないそうだ。
「ちなみに魔王って倒せるもんなの?」
「いや、ムリムリムリ。魔王軍には四天王じゃなくて『8指将』ってのがいるんだけど、全員レベル150クラスなのよ」
「正直今のトップランカー全員でかかっても、8指将の1人にだってやられかねないわ。しかも魔王は200超えてんじゃないかって話よ」
「今のトップランカーがレベル100超えるまでに1000日くらいかかってんだが、計算だと200まで行くにはさらにあと2000日くらいはかかりそうって話らしいぜ」
「ぁ、ぅん、それは無理そうだね、、、」
冷や汗を流しながら、そう相槌をうつ真一。
なんせ隣にはレベル200超えの化け物がいるのだから。
しかもその勇者全員でも勝てない8指将の1人を、つい先日ブチのめしたばかりである。
「まぁ、心配しなくても魔王と戦う機会なんてそうそう来ないわよ」
全く心配していない真一に、ユキが気遣うように声をかける。
「マヌングル《人間界》にいる限り、魔族と遭遇することなんてないからねっ!」
つい先日、四天王(笑)と遭遇したばかりなんですが、と心の中で苦笑する真一であった。
「もしあるとしたら、グランドクエストくらいだけど、過去に2回しかなかったらしいし、そうそう起きたりしないわよ」
「ユキ、今のはフラグにしかなってないって思うなぁ〜」
「グランドクエストって?」
「勇者全員が強制参加のクエストよ」
「魔王軍が侵攻してきたときに発令されるの。それに勇者全員で対抗する強制クエストね」
前回の侵攻は10シス日以上前のことだったらしい。
地球時間なら10年前といったところだ。
当然ユキたちがミグルに来る前の話である。
魔王軍が侵攻してきた際に、全ての勇者の頭の中に、突然あの邪神の声が響きわたったそうだ。
それは全員参加のグランドクエストの発動を告げるもので、参加を受諾すると最前線に転送されるのだ。
もちろんそこでは異世界の人間たちも大軍を集めている。
勇者たちはその人類連合軍と並んで前線に出ることになるというわけだ。
10年前は大勢の犠牲を出しつつも、なんとか魔王軍を撃退することができた。
とはいえ参加した勇者の半数は命を落としたという。
そして参加を拒否した勇者は、全員ペナルティで『ゲームオーバー』になったそうだ。
「大丈夫、魔王軍もそのときに大打撃を受けたらしいし、再侵攻できるようになるには、まだまだ時間がかかるはずよ」
「相変わらずユキがフラグっぽいこと言ってっけど、ともかく今は魔族と戦う必要なんて、ぜんぜんねぇってことだ」
「だからアタシらは気長に冒険者してレベルアップしてんの〜。こうやってる分には邪神も文句ないみたいだしね」
「何ならシンイチもうちのパーティー入る?おんなじような境遇だし、歓迎するわよ」
ユキが笑顔で真一のことを誘ってくれた。
マコもトモヒコも歓迎ムードである。
とはいえエピーたちの正体を知られる訳にはいかないので、真一は他の誰とも組むつもりはなかった。
「有り難いお誘いだけど、俺たちの目的はパーツ探しだから」
「あ〜、そっかぁ。そだよねぇ〜」
「うん、そうなると、アタシらはこのバンリャガを離れられないからねぇ〜」
パーツ探しを口実に断った真一だったが、ナローズのみんなはこの街に何かこだわりがあるみたいだ。
これだけ街中から嫌われているのに、不思議な話である。
「あのさ、この街の人たちって勇者を嫌ってるよな?それなのにここを拠点にするのって辛くないの?」
「まぁ、そう思うよな。実際俺らもイヤな目に合ってるし、ギルドからも嫌がらせとかされてんだけどな、、、」
「それでもさ、、、恩返ししたい人がいるのよね、、、」