4.6.130 ジャーサーパイセンの冒険者指南
真一は以前からエピーたちの強さが異常過ぎないか?と思っていたのだ。
どう考えてもクロム(Aランク)どころの話ではない。
ルミッコがプラチナ(Sランク)以上だと言っていた魔王軍四天王(笑)すら、簡単に倒したのだから。
世界最強レベルなのではないか?と、うすうすとだが感じていた。
なのでこの機会に詳しく話を聞いておきたいところだ。
ジャーサーたちはクロム(Aランク)だなんて言っているが、話しぶりからするとそれですら相当にレアな様子である。
確かに冒険者の最上位であるプラチナ(Sランク)の1つ下なのだから、とんでもなく強いのは間違いないのだろう。
だけど真一にはクロム(Aランク)がそれほどのものには、全くもって思えない。
ゴブリンキングや換金に持ってきた3匹より1つランクが上なだけ。
それにキルナの話では、真一が倒したマンモスカエルだってクロム(Aランク)のはずだ。
「クロムってそんなに強いんですか?絶命の森にはクロム程度のモンスターはゴロゴロいたんですけど?」
「ゴロゴロっ!?」
「マジかよ!」
「ミュイっ、あれくらいならいくらでもいるね〜」
「クロムとか言われても、どれくらいかイマイチ分かんないニャミュ〜」
確かに真一も未だに冒険者ギルドのランク付けに実感が持てない。
ランクが1つ上がると強さが4〜5倍になるらしいのだが、正直ゴブリンキングもマンモスカエルも大差ない印象だった。
もっと明確に数値化してほしいところだ。
「そうだよなぁ。レベルとかで言ってくれればまだ分かるかもだけど、、、」
真一は気づけばふとそんな一言を呟いてしまっていた。
とはいえそれはとんだ失言なのである。
「『れべる』って何だっけ?」
「あぁ、あれだろ?異世界勇者が人間やモンスターの強さを数値化して見られるってヤツ」
「あ〜、クソ勇者どもの特殊能力かぁ。でも良くそんなの知ってたわね」
どうやらこの世界の人間は、自分のレベルを見られないみたいだ。
もしかしてレベルやステータスを確認できるのは、異世界勇者だけの特権なのだろうか。
だとしたら真一がステータスを見られるなんて言えば、勇者であることがモロバレである。
「う、うん、たまたまっ!タマタマ聞いたことがあっただけで」
冷や汗をたらしながら、慌てて誤魔化す真一であった。
「ともかく絶命の森の奥地じゃ珍しくないのかもしんないけど、クロム(Aランク)のモンスターなんてほとんど災害だからな。ここくらい大きな街なら何とかなるかもしれんが、普通の村なら一瞬で全滅だぞ!」
「だけどその上にはプラチナのモンスターもいるんですよね?そんなのに襲われたら、この街だって危ないんじゃ?」
「いや、プラチナ(Sランク)なんてまず出てこねぇよ。だけどそんときゃぁ、プラチナ(Sランク)冒険者の出番だな」
「世界に8組いるんですよね?」
冒険者の最高位であるプラチナランク。
ナミンの話では、この世界に8組しか存在しないそうだ。
「うん、そうそう。『天剣』のパーティーとか憧れるぜぇ」
その名前くらいは真一にも覚えがあった。
冒険者ギルドにはランキング表が掲示されている。
チラっと見ただけだが、確かそのランキングのいちばん上にあったのが、そんな名前だったような気がする。
今度しっかりとチェックしてみようかと考える真一であった。
「だけどドリーたちだって、すぐにプラチンになるニャミュ」
「本当にアリそうだから怖いトコだな、、、」
「まぁ8組だけとはいえプラチナ冒険者がいるんなら、まぁ安心ってことなのか、、、」
強いモンスターが人間の街まで来ることは滅多にないという話だ。
8組だけでもなんとか平和を維持することができるのかもしれない。
そう考えた真一だったが、ジャーサーによるとそんなことはないらしい。
「いやいや、ミグル《内側》にはまだまだ上がいるからなぁ」
「えっ!?プラチナが最高位なんじゃ?」
「冒険者はな。だけど魔王軍の大幹部クラスは、プラチナ(Sランク)以上らしいぜ!」
「えぇ、もちろん魔王が最強なんだけど、その下のバーリャンザガット《8指将》ってのもヤバいのよ。プラチナ冒険者でも勝てないとんでもないのが、8人もいるらしいわ」
あ、うん、、、
そのうちの1人は、ついこないだブチ殺したとこです、、、
やはり魔王軍四天王はプラチナ(Sランク)以上の強さらしい。
確かにあのストーカー魔族は、エピーの攻撃を食らっても簡単には倒れなかった。
森ではシルバー(Bランク)やクロム(Aランク)のモンスターをワンパンで倒していたのに。
そう考えるとプラチナ(Sランク)以上という話も納得なのだが、、、
じゃあ、そのプラチナ以上の魔族を簡単に倒したエピーは何なんだ?ってことになってくる。
そんな真一の疑問の答えは、すぐにジャーサーたちが明らかにしてくれた。
「魔王軍だけじゃねぇぞ。モンスターにもプラチナ(Sランク)以上がいんだよ」
「えぇ、幻獣種がね」
それはミコミちゃんの村でも何度か耳にしたことのある言葉であった。
この世界に8組しかいない、最高峰のプラチナ冒険者。
その彼らでさえ、プラチナ(Sランク)のモンスターの討伐は容易ではない。
だというのにこの異世界には、プラチナ(Sランク)を超えるとんでもないモンスターがいるそうだ。
それこそが『幻獣種』。
名前の通り幻や伝説になるほど希少なモンスターで、人前に現れることはまずないという。
それらはみな人類にはどうにもできない力を持っており、もはや計測したりランク分けしたりできる範疇にはない。
プラチナまではランクが1つ上がるごとに、強さがだいたい4〜5倍になっていく。
だけどその上に関しては、まさに天井知らずの未知の領域なのだ。
そんなランク分けの枠内に収まらないモンスターを、全てひっくるめて幻獣種と呼んでいるそうだ。
「いいか、現時点で確認されている幻獣種は⓭種いる。って言っても⓭匹じゃねぇぞ。あくまで種類が⓭ってことだ。内訳としてはまず、ユニークモンスターが❾匹だな」
ジャーサーが詳しく説明してくれる。
それら9匹のユニークモンスターは、もともとはプラチナ以下の種族らしい。
だがその中の特殊個体が突然変異で強大な力を持ち、プラチナを大きく超えるまでに至ったのである。
9匹全てが名前持ちモンスターで、世界中に悪名が恐怖とともに轟いているそうだ。
「そして種族としてプラチナ(Sランク)を超えているのが❹種。当然だがこの❹種はほとんどの個体がプラチナ(Sランク)超えだ。だから実際の幻獣種の数は⓭どころじゃねぇってわけだ。まぁ、幸いなのはこの❹種のどれも、個体数が少ねぇらしいってことだな」
「なるほど。それで幻獣種ってどんなのがいるんです?もしかしてドラゴンとか?」
「いいえ、大抵のドラゴンはクロム(Aランク)よ。亜種はシルバー(Bランク)止まりだったり、上位種のいくつかはプラチナ(Sランク)だけどね。あとユニークの幻獣種❾匹のうちの❶匹はドラゴンよ」
「あぁ、『賢龍ナガミュゥリュ』だな。何千年も生きてる『白銀龍』らしいぜ。ちなみに白銀龍は種族としてはプラチナ(Sランク)だ。で、種族自体が幻獣種になってるドラゴンも❷種類あんぞ」
「そぅそぅ、幻獣❹種族はフェンリルとマギナザク。それに伝説のドラゴンの『至聖龍』と『深淵龍』ね」
「ブッ!!」
ノランのビックリ発言に、思わず吹き出してむせてしまう真一。
なのに当の『至聖龍』であるエピーとドリーは、つまらなそうに話を聞いているだけであった。