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4.4.128 ホッス渓谷の調査依頼

「推奨ランク、シルバー(Bランク)からクロム(Aランク)って書いてるよね!これはねっ、ゴールド(Cランク)でも死ぬような危険な依頼なのっ!レッド(Gランク)の新人が受けられる依頼じゃないのよっ!!しかもあなたたち普段着で、武器も防具もないじゃないっ!!!」


 冒険者ギルド中にショーミの怒鳴り声が響き渡る。

 隣の窓口にいる4人組が、ビックリして何事かと見つめてきた。


「ミュイ〜?自由依頼ならランクに関係なく受けられるんでしょ?」


 そんなショーミを前にして、呑気そうに問いかけるエピー。

 どうやら何故ショーミが取り乱しているのか、全く理解できていないようだ。

 ショーミはますます顔を真っ赤にさせて、声を上げようとする。

 だがその前に割り込んで来たのは、隣の窓口にいたナミンだった。


「あ、ショーミ、この人たちは特別なの。というか、わたしが対応するわ」


 真一が何か言う前にナミンがフォローしてくれた。

 どうやら4人組の対応は終わっていて、世間話をしていただけのようだ。

 4人はチラチラと覗き見をしながらも依頼へと出発していき、ナミンが真一たちの対応をしてくれることになった。

 依頼を任せていいか判断するため、ナミンが聞き取りを始める。

 ショーミは何事かと興味深そうに、隣の窓口から聞き耳を立てていた。


「それで改めて確認なんですが、以前納品されたシルバー(Bランク)のモンスター3匹は、全てみなさんが討伐されたものなんですよね?」


「はい、もちろん!」


「簡単だったニャミュ!」


「だったらみなさんはシルバー(Bランク)のモンスターでも何の問題もなく対処できるということですね?」


 ナミンは真一たちが本当にシルバーのモンスターを狩れるほど強いのか、念を押して確認したいようだ。


「はい、あのくらいなら簡単です」


「ですがそのシルバー(Bランク)モンスターが群れていたらどうですか?」


「ミュイ〜、あんなの何匹いても変わんないよ」


「手間が増えるだけニャミュ〜」


「そうですか。でしたら問題ないでしょう。もともとこの街では誰も対応できない依頼でしたし、みなさんは空を飛べるというお話でしたからピッタリです。ぜひお任せしたいと思います」


 どうやらすんなりと依頼を受けさせてくれるようだ。


「スゴいアッサリですね?」


「はい、ランク制限のない自由依頼ですし、もし嘘の申告でも困るのはご自身だけです。それで亡くなられても自己責任ですから」


「あ、はい、、、」


 そういえばこの世界は人の生き死ににかなりドライなんだった。

 無理して依頼を受けた冒険者が死んでも、何とも思わない感じである。

 真一たちが戻って来なくても、救助が送られることはない。

 ギルドは依頼が失敗したと見なすだけで、次の冒険者が受注するまで放置だ。


「それでは詳しい内容を説明しますね。みなさんはホッス渓谷というダンジョンについてはご存知ですか?」


「いえ、ぜんぜん」


「ですよね〜。ホッス渓谷というのはここから左に❹ミック(1 / 16) リィグほどの距離にある中級者向けのダンジョンです」


 位置の説明が意味不明ではあるものの、ナミンが詳細を語ってくれた。

 この世界のダンジョンとは、魔力の流れが何やら作用してモンスターが生まれやすい場所のことなんだそうだ。

 洞窟だったり、森だったりと、バリエーションもいろいろあるらしい。

 今回のホッス渓谷というのは、文字通り渓谷タイプのダンジョンである。

 バンリャガから徒歩で丸一日ほど離れた場所に、大地が隆起・陥没して迷路状の渓谷になっている場所があるらしい。


 渓谷の中にはアイアン(Fランク)〜カッパー(Eランク)のモンスターが大量に湧いている。

 なので冒険者の推奨ランクはニッケル(Dランク)〜ゴールド(Cランク)。

 レベル的にはこの街のベテラン冒険者にはピッタリの狩り場だったそうだ。

 そのためバンリャガで最も高ランクなゴールドの『山兄弟』も、そこを日常的に出入りしていたらしい。

 名前通り兄弟である2人の前衛に、後衛として魔術師を2人加えた4人組のパーティーだ。


 だがつい先日その『山兄弟』が、ホッス渓谷で全滅しかけたのだ。

 なんでも『結晶トカゲ』に襲われたそうだ。

 『結晶トカゲ』と翻訳されると間抜けに聞こえるが、意味的には『クリスタルリザード』である。

 硬い結晶に守られた巨大モンスターと考えれば、確かに手強そうだ。

 それもそのはずで結晶トカゲはシルバー(Bランク)のモンスターであり、通常ならホッス渓谷に現れるなどあり得ない。


 ダンジョンで休憩中にいきなり結晶トカゲに襲われた山兄弟だったが、そこは運悪く渓谷の行き止まりだった。

 周囲は登ることなど不可能な絶壁で、唯一の出口を結晶トカゲに抑えられてしまった。

 本来なら相手にできるはずのない格上のモンスターだが、戦うしか道はない。

 けれども硬いクリスタルの外殻の前に、魔法も通じず、剣も折られてしまった。

 全滅の危機にあった山兄弟だったが、そこで運良くダンジョンドロップの武器を入手できたらしい。

 それで辛くも結晶トカゲを討伐できたそうだ。


 だがそれで無事に生還という訳にはいかなかった。

 何とか袋小路から逃げ出すことはできたものの、渓谷の中には他にも結晶トカゲが何匹もうろついていたらしい。

 来たときには異変の気配など皆無だったのに、いつの間にかホッス渓谷は結晶トカゲだらけになっていたのだ。


 ゴールド(Cランク)の冒険者であっても、1匹を無事に倒せたのは奇跡的な幸運のおかげ。

 それが群れているなど、相手にできるはずもない。

 山兄弟の4人は震えながら息を潜め、命からがら何とか逃げ出すのが精一杯だったらしい。

 もちろんそれ以降、ホッス渓谷への冒険者の立ち入りは禁止されている。

 そして調査にも入れない状態で今に至っているそうだ。


 ギルド側としても今回の偵察&討伐依頼を発行はしたものの、もちろんこの街には対応できる冒険者などいない。

 どこかの街から高ランクの冒険者が来てくれるまでは、放置されてもやむなしという状況だった。

 街にも兵士などが存在しているものの、戦力的にはカッパー(Eランク)が数百人に加えて、ニッケル(Dランク)が多少いるくらい。

 ゴールド(Cランク)レベルの精鋭など、ほとんどいないという。


 なのでダンジョンからモンスターが湧き出す事態になれば、街の安全だって心もとない。

 ギルドとしても強権を発動すれば、他所よそから高位冒険者を呼び寄せることも可能ではある。

 とはいえそこまでするか判断に悩むところで、しばらく様子を見ていたそうだ。


 そんななか街にやって来た良く分かんないけど強いらしい獣人少女が、その高難度依頼を受けたいと言い出したのだ。

 ギルドとしては反対する理由など何もないというわけである。

 ナミンは口にこそ出さなかったが、それで真一たちが死んだとしても痛くも痒くもないって様子であった。


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