3.59.123 あるアイドルの旅立ち
今回が第3章本編のラストです。
「それじゃ、セスル、元気で!」
「はい、シンも。いつか会いに来てね」
「ミュイ〜、ルミコ!またステージ見せてねっ!」
「ドリー、ルミーのウタ大好きニャミュっ♪」
事件から5日。
今朝キャーシャのルミッコたちは、本拠地のシャーキルへと帰路につこうとしていた。
バンリャガでの公演も、既に昨夜で最終日を迎えている。
あれだけボコボコになったアリーナだったが、なんとものの数十分で修復されたそうだ。
この世界には土木専門の魔法使いってのがいるらしい。
事件の2日後には予定通りキャーシャの公演が始まった。
ルミッコは事件による後遺症もなく、むしろ今まで以上に元気なパフォーマンスを見せてくれた。
そして真一たちはそんなルミッコの公演を、3日間間近で観ることができた。
ルミッコに頼まれて、キャーシャがバンリャガにいる間の護衛をすることになったからである。
ストーカー魔族は撃退したものの、他に仲間がいないとも限らないので、当然の用心であった。
真一たちに護衛を頼むことについては、キャーシャの他のメンバーやマネージャーたちも納得してくれた。
ストーカーを真一たちが撃退したことを、ルミッコが説明したからである。
事件の日にすぐに駆けつけてきたメルリルたち。
真一たちがスイーツ屋を飛び出したあと、ドリーが指差していた方へと追いかけてきていたらしい。
すると劇場から空に登っていく、赤黒い炎の柱を目撃したそうだ。
慌てて中に駆け込んだところ、談笑するルミッコと真一たちを見つけたのである。
何があったかは、ルミッコから説明してくれた。
スイーツ屋にいたときにストーカーに襲われて拉致され、劇場に連れてこられた。
そこで婚礼の誓約をさせられそうになったときに、真一たちが助けに来てくれた。
そしてストーカーはシルバー(Bランク)に近い実力者だったが、無事に討伐することができたのだと。
犯人が魔王軍の大幹部だったことを、ルミッコは隠して説明したのだ。
そんなことを明かしても、周りを不安にさせるだけだし、何よりとんでもない大騒ぎになるからだそうだ。
そして前夜の誘拐事件の真犯人のことも黙っておいてくれた。
マネージャーたちも冒険者ギルドで真一たちが姿に見合わぬ実力者らしいということは聞いていたそうだ。
シルバー(Bランク)クラスの犯人を倒したと聞いても特に疑われることもなく、護衛にピッタリだと納得してくれたのである。
ギルドを通さない個人的な依頼だったが、かなりの額の報酬を提示された。
だけど襲撃事件の罪滅ぼしもあって、最初は無料でいいと断ろうとした真一たち。
だけどそれではルミッコが納得してくれなかった。
結局は期間中の食費と滞在費を出してもらうことで折り合いをつけた。
とはいえ結局最終的には、最初の提示額に近い額を払ってもらうことになった。
ルミッコの宿泊する超高級ホテルに移動することになった上に、ドリーがホテルの高級レストランでアホほど食べたせいである。
そしてさらにエピーとドリーは、ルミッコから個人的な報酬を貰うことになった。
護衛をする4日の間、空き時間に歌のレッスンをつけてもらったのだ。
その成果としては、、、
まぁ、やはりアイドルには向いていなかったようである。
それでもドリーたちがとても嬉しそうだったので、温かい気持ちになった真一であった。
ちなみに余談ではあるが、公演の合間にマッカスが訪ねてきた。
最初にエピーたちをスカウトした、『さわやか3人組』のプロデューサーである。
自分たちの公演が終わった後も1人バンリャガに残っていたそうで、エピーたちが無事だと聞いて再びスカウトに来たのだ。
ルミッコからレッスンを受けていると聞いて、これは脈アリとテンションを上げるマッカス。
だがレッスンの様子を見て、あまりのヒドさに呆然自失状態であった。
そんなマッカスに真一はアイドルになる気はないと断りを入れ、、、
ついでに『とあるアドバイス』を送ったのだった。
そうして5日目の朝。
ホテルのロビーで、真一たちはバンリャガを旅立つルミッコたちを見送っていた。
今ではキャーシャの残り3人、メルリル、ナンミャ(※オレンジちゃん)、ミミス(※黒髪ちゃん)とも、すっかり仲良くなっている。
特にドリーは誰とでも仲良くなれる特技でもあるのか、すっかり可愛いがられてしまっていた。
凶悪人喰いドラゴンではあるが、根は素直で友だち思いな、とても良い子なのである。
たぶん、、、
「ドリーちゃん、本当について来てくれてもいいのよ」
「なんだったらキャーシャの新メンバーになったりだって、、、」
「うん、歌さえ頑張ってレッスンすれば、いつかは、きっと、、、」
「みんな、もうっ!これ以上シンたちを困らせちゃダメでしょ」
物分かり良さそうにそう言うルミッコだったが、本音は誰よりも付いてきて欲しそうである。
嬉しいお誘いではあるのだが、そういう訳にもいかない。
真一には使命があるのだ。
魔王を倒す、、、は、どうでもいいが、早く残りの身体のパーツを探し出さないといけない。
1秒でも早く、エピーたちと交尾をするために。
これから世界中を巡る旅に出る異世界勇者の真一たちと、超人気アイドルのルミッコ。
所詮、一緒にはいられない運命であった。
「一緒には行けないけど、助けが必要ならいつでもメッセージを送ってくれ!」
「ミュイ〜、すぐにルミコのこと、助けに行くからねっ♪」
真一はルミッコたちと、謎石タブレット『情報板』で連絡先の登録を行っていた。
これでお互いに、好きなときにメッセージを送れるようになったのだ。
「本当にありがとう。今わたしがここにいられるのは、ぜんぶシンたちのおかげ。絶対にこの恩は忘れない。次に会うときは、もっとすごいアイドルになってるからっ!」
「あぁ、セスル、楽しみにしてる!」
「もっとすごいルミーのウタ、楽しみニャミュ♪」
「えぇ、期待していて!」
こうしてミグルNo.1アイドルのルミッコは、バンリャガから旅立っていった。
とある決意を胸に秘めた、それは、新たなるルミッコとしての旅立ちであった。
ーーーーー
マッカスにとってそれは、運命の出会いとしか思えなかった。
あれ程の才能の原石など、この世界には他に存在するわけがないと、そう思っていた。
だからこそ今回のスカウトの失敗は、人生が終わったかのような喪失感であった。
そう簡単に諦めきれるものではなかった。
だからだろう、、、
そのスカウト相手に告げられた話を聞いて。
そんな与太話など少したりとも信じられなくて。
それでも一縷の望みをかけて旅に出たのだ。
明確な目的地などない、天空に浮かぶリィリュウ《聖廟》に手を伸ばすような漠然とした旅だった。
そして未開に近い辺境の地を彷徨うこと数ミツ日、、、
マッカスはとある村にたどり着いた。
そこは出来てまだ間もない村であった。
とある人物のために作られたという村である。
そしてマッカスはその村の中心人物への、お目通りを許されることになった。
「この御方こそが、龍巫女ミコミ様にあらせられます」
「っ!!」
マッカスの目の前には、いつぞやの天才アイドルの原石と瓜二つの美少女がいた。
その瞬間にマッカスは納得した。
『だったら、エピーたちにそっくりで、俺たちなんかよりもずっと、アイドルの才能がある子がいるから』
その言葉に嘘は無かったのだと。
だから、、、
マッカスは反射的に口を開いていた。
「龍巫女ミコミ様。巫女アイドルになりませんかっ!ミグルでいちばんの天才アイドルに!」
数日後。
辺境のとある村から、1人の少女が親友のピュンパ(※ヤギもどき)とともに旅立つこととなった。
遠くない日にミグル中をその輝きで照らし出すことになる、とあるアイドルの旅立ちであった。
明日のエピローグで第3章は完結となります。