1.12.12 《1人目》命の恩人、ヒーラーさん
■ここまで■
いつの間にか真一に自動回復の魔法がかけられていた。
今まで真一のステータス画面に表示されていた特記事項は『状態異常』だけだった。
こちらはゲームで言う『バッドステータス』の表示なのだろう。
だが今はそれ以外に『補助効果』という項目が増えている。
これは逆に良い効果のある『バフ』状態を表示する欄だと思われる。
いつのまにか真一にかけられたバフ効果は、『HP自動回復』。
ステータス画面を見るに、その効果は2秒ごとにHPが1回復するというもの。
真一が受けているスリップダメージが10秒で0.21なので、2秒に換算すると0.04くらいか。
つまりHP自動回復効果がスリップダメージを余裕で上回っている。
「ってかこれ、過剰回復すぎかも、、、」
と思わずツッコんだものの、素晴らしいバフ効果であった。
欲を言えば回復速度はもっとショボくていいから、その分もっと効果時間の長い自動回復魔法の方が良かった。
とはいえ命の恩人に文句を言うつもりなど毛頭ない。
謎の人物のおかげで今の真一は、時間経過でHPが減るどころか、逆にグングン回復する状態となっていた。
「きっとヒーラーさんがやってくれたんだよな?」
いつの間にか真一は、その謎の人物にかなり安直な呼び名を付けていた。
ヒーラーさんが何故真一を回復してくれたのかは分からない。
どこのパーツに回復魔法をかけてくれたのかも不明だ。
だけどきっとヒーラーさんは、真一のパーツのどれかを見つけたのだろう。
そしてそのパーツが弱って死にかけていることに気付いて、回復魔法を使ってくれたのではないだろうか?
最初にヒーラーさんは、2回も回復をしてくれた。
けれども真一は一度全快しても15分ほどでまた瀕死になってしまう。
その度に回復をかけていたのではキリがない。
だからヒーラーさんはすぐに諦めてしまうのではないかと、真一は危惧していた。
けれどもヒーラーさんは単発の回復の代わりに、HP自動回復のバフ魔法をかけてくれたようだ。
ゲームでよくある『リジェネ』というやつだ。
どうやらこの異世界にも『リジェネ』魔法があったようである。
それが『サステナヒール』。
魔法の名前と思われるものが、ステータス画面に表示されていた。
恐らく回復魔法の一種で、真一の『ミニマムヒール』の上位の魔法なのだろう。
注目すべきはその持続時間。
7157秒ということは、ほぼほぼ2時間ちょうどである。
かなり効果時間の長い魔法である。
というか、やたら中途半端な数字だ。
なんで7200秒じゃないのだろうか。
それならピッタリ2時間なのに、やけにザツな値だ。
込める魔力に応じて増減するとかなのだろうか。
いや、それよりも!?
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補助効果:
HP自動回復 【+1 / 2秒】
▶サステナヒール 【7125 / 7157秒】
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よくよくステータス画面を見てみると、サステナヒールの残り時間がほぼまるまる残っている。
それはつまりヒーラーさんがサステナヒールを使ってから、まだ30秒ほどしか経っていないということだ。
ならば今ならまだヒーラーさんは、魔法をかけたパーツを注視しているのではないだろうか?
だったら今すぐ何かアクションをすれば、、、
「ヒーラーさんが反応してくれるかもっ!!」
真一は最初、この異世界に生首だけが送られてきたと思っていた。
だから今までいろいろ足掻いていたものの、頭部以外の場所を動かそうという発想がなかった。
だけどバラバラとはいえ他のパーツもこの異世界にあると思われるのだ。
だったら他の全身どこでも自在に動かせるはずである。
だって切断された他のパーツも、謎のワープ技術で神経が繋がっているのだから。
試しに真一は全身のあちこちを動かしてみる。
すると思った通りに身体を動かすことができた。
両手足の指はニギニギと開け閉め可能。
関節も普通に曲げ伸ばしできる。
腹筋もピクピク動くし、深呼吸すれば肺も膨らむ。
もちろんちゃんと動いているかを自分の目で確かめることはできない。
それでも謎ワープにより神経が繋がっており、脳からの命令で身体が動いていることは知覚できている。
たとえば、、、
右手でグー、チョキ、パー。
うん、ちゃんと動く。
誰だって目をつぶっていても、指先が動いていることは知覚できる。
今の真一の状況は、それと似たようなものだ。
目では見えなくとも、間違いなく真一の身体は意のままに動いているはずだ。
「ヒーラーさん、気付いてっ!!」
ヒーラーさんがどのパーツを見つけたのかは分からない。
だけどもしヒーラーさんがパーツの動きに気付いてくれたら、何らかのリアクションを返してくれるかもしれない。
反応を期待して、真一は引き続き全身を動かし続ける。
すると、、、
「ぅえっ!?」
不思議な感覚が走ったのは、右手であった。
ここで言う『右手』とは、右の手首から先の部分のことだ。
その右手パーツが、手のひらの方からなんだか急に暖かくなったのだ。
ポカポカするような感じである。
ステータス画面には特に変化はない。
だけど決して気のせいではない。
きっとヒーラーさんが何かしているのだと、真一は不思議とそう確信できた。
「ヒーラーさんが持ってんの、『右手』だっ!」




