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3.53.117 奴は四天王の中で最弱

「魔王軍の大幹部!?」


 ストーカー男の正体は魔王軍の大幹部である、バーリャンザガット《8指将》とやらの1人だった。

 四天王が8人もいるのは、この世界の人たちに文字通り左右で『指が8本』あるからだろう。

 片手分で4人でも良かったんじゃないかと思わなくもないが、そこも文化の違いってヤツだろう。


「そうよっ!ニクザーリャン《右4指》のウォズニョツ。プラチナ(Sランク)冒険者ですら勝てないって言われる、魔王軍最強の8人よ!これ以上怒らせたら簡単に殺されちゃうんだからっ!」(※4指は中指)


 ルミッコがご丁寧に解説セリフっぽく説明してくれた。

 鬼気迫る表情で、本当に恐ろしい相手なんだということが伝わってくる。

 きっとただの魔族でも並の人間では太刀打ちできないほど強くて、大幹部ともなれば雲の上の存在なのだろう。

 人類の最高峰が8組のプラチナ(Sランク)パーティーだというのは、冒険者ギルドで聞いてはいる。

 そのプラチナ(Sランク)以上というのだから、本当に強いに違いない。


 けれども真一には、このストーカー魔族がそれほどの相手だとは、どうしても思えなかった。

 確かにシルバー(Bランク)だったゴブリンキングや、クロム(Aランク)と言われていたマンモスカエルよりは、強そうに見えなくもない。

 だけど正直なところ素人レベルの真一の目には、それらと大差ないようにしか見えないのだ。

 何より、、、


 明らかにラスボス(仮)モンスターより下だよな?

 初めて『龍神様』に会ったときみたいな威圧感もないし。


 真一がこの異世界で目にした『本物』たちは、一目で全身が絶望におかされるほどの、圧倒的な存在感があった。

 目の前の相手はどう見ても、至聖龍であるエピーとドリーをどうこうできるレベルには思えない。


 ストーカー魔族は恐れおののくルミッコの様子を見て、ニヤニヤと下卑げびた笑いを浮かべている。

 ウォズなんとかっていう舌を噛みそうな名前だが、覚える気にもならない。

 正直真一には三下にしか見えないので、全く危機感がわいてこないのだ。

 それよりもいきなり魔族が出てきたことについて、ツッコミたい気持ちが抑えきれなかった。


「ちょっと待って!魔王軍の幹部がどうしてルミッコを誘拐してんだよっ!」


「誘拐だと?俺とルミッコは運命で結ばれた恋人なのだ」


「なにそれ?気持ち悪いニャミュっ!」


 ドリーの容赦ないツッコミに、殺気をみなぎらせるストーカー魔族。

 それを見てルミッコが血相を変える。


「だからどうして煽ったりするのよっ!このウォズニョツはマヌングル《人間界》への侵攻のための下見に来ていて、そこで偶然わたしのステージを見たらしいの」


 これ以上会話をさせてはおけない!とばかりに、ルミッコが事細かに説明してくれる。


「それでわたしのことを運命の相手だと思ったみたいで、ずっと手紙を送り付けてきて、ついに迎えにきたのよ」


 どうやらこの魔王軍四天王(笑)は、人間界への侵略の調査に来ていたようだ。

 人間界と言われても全くわからないが、きっと人間が住んでいるここが人間界で、魔王や魔族がいるのが魔界なんだろう。

 確か昨日冒険者ギルドで、ナミンがそんな話をしていたことを思い起こす真一。

 そういえば!と今さらながらに思い出すが、異世界勇者である真一の使命は、魔王の打倒であった。

 やはり魔王は人類の敵で、人間を滅ぼしに攻めてくるパターンなのだろう。


 つまりこの魔族は、真一が倒さないといけない相手だ。

 もっとも真一からすれば魔王なんかよりも、あの邪神の方が、よっぽど恨みを感じる相手である。

 なんせ全身バラバラで異世界に送り付けられたのだから。

 目の前の魔族を倒そうというモチベーションなど、イマイチ湧いてこなかった。

 とはいえルミッコを助ける為には、対決は避けられそうにない。

 そしてルミッコは自分を犠牲にしてでも真一たちを逃がそうと、今も健気けなげに熱弁を振るっていた。


「きっと今日が本番で、昨日の誘拐は予行演習だったのね。今はここで婚礼の誓約を交わすところで、そうしたらすぐに魔界に連れて行かれるわ」


「昨日??なに?どういう??」


 ルミッコの必死の言葉に何かおかしな点を感じたのか、ストーカー魔族が頭に疑問符を浮かべる。

 何も不思議なことなんてないのに、、、


 って、そんなわけないです!!!

 このままだと、昨日の犯人がドリーだとバレてしまう!!!


 急に話の流れがマズい方向に行って、焦り出す真一。

 ルミッコを止めたいところだが、善意から必死に訴えてくれているのが分かるので口を挟みづらい。

 おかげでルミッコの話はどんどん危険な方へ向かっていく。


「もしかしたらあなたたちもカワイイから、昨日目をつけられたのかもしれないわ。これ以上バカなことをしたらあなたたちまで拐われちゃう。今ならわたし1人の犠牲で済むの!お願いだから早く逃げて!」


 ますます不思議そうな表情を浮かべるストーカー魔族が、ルミッコに何か言い返そうとする。

 それを見た瞬間、真一は咄嗟とっさに口を挟んでいた。

 これ以上余計な話をされたら、昨日の犯行がバレてしまいかねないのだ。


「大丈夫だって、ルミッコ!こんな弱そうなヤツ、俺たちが簡単にやっつけるから!」


 思いつくままに適当なことを口走ってしまった真一。

 とはいえ四天王と言われても全く怖さを感じないのも確かだ。


 これが有名な、『四天王の中で最弱』ってヤツか!


 そんなしょうもないことを考えたせいか、それとも話題を無理やり変えようと焦ったせいか。

 真一は知らず知らずのうちに、さらなる『口撃』を放っていた。


「下見ってなんだか下っ端みたいな仕事だな。アンタもしかして、その魔王軍の幹部の中で最弱だったりすんの?」


「誰が最弱じゃっ!!普通に強ぇよ!潜入工作が得意だから来てんだよっ!!」


「おいおい、潜入してんのに、なんでアイドルを誘拐とか目立つことやってんだよ!」


「うるさいうるさいっ!」


 気づけば真一は、ドリーなんかよりもよっぽどヒドい煽りを放っていた。

 紫っぽい肌を赤くさせて怒り狂うストーカー魔族。

 今にも飛び掛からんばかりの勢いだ。


「待って!約束でしょ!お願いだからこの子にヒドいことしないで!」


 白目を剝いてアワアワと真一の暴言を聞いていたルミッコだったが、さすがにマズいと叫び声を上げる。

 そして今度は真一たちの方に向き直って訴えかける。


「お願いだから逃げて。これ以上わたしのせいで誰かが傷つくのは耐えられないの」


 とはいえ逃げろと言われて逃げるわけにもいかない真一である。


「それでルミッコはどうするつもりなんだ?」


「このウォズニョツに付いてウズングル《魔界》に行くわ。わたしがこの人のモノになれば、みんな助かるから」


「どういうこと?」


「わたしが逆らったりすれば、この街の人たちが皆殺しにされるの。それにキャーシャのみんなが、、、」


「あぁ、お前が俺に永遠の愛を誓うまで、仲間を1人ずつ目の前でむごたらしく殺してやる。生きたまま手足を1本ずつ引き抜いてな!」


「愛しますっ!一生愛しますからぁっ!だからみんなにヒドいことしないでっ!」


 ストーカー魔族のおぞましい恐喝きょうかつに、ルミッコがブロンドの髪を振り乱し、涙ながらに懇願こんがんする。

 つまりルミッコはメルリルたちの命を盾にとられて、みんなを守るために自分が犠牲になることを選んだのだ。

 震えの止まらないルミッコのか細い肩を見れば、それがどれほど怖くて悔しくて辛いことかが、痛いほど伝わってくる。

 16〜7くらいの少女が、必死に努力して掴んだ地位も大切な人々も捨てて、ストーカー男に愛を誓う決断をしたのだ。


「あぁ、お前が俺を愛していることは良く分かっているとも!こんな小娘はもうどうでもいい。いますぐ城に連れていってやる」


 だというのにストーカー魔族はルミッコの愛の誓いに気を良くして上機嫌で喋り出す。


「安心しろ。ウズングル《魔界》の瘴気しょうきに人間は耐えられないが、ちゃんとお前が生きていける部屋は用意してやった」


 それは本当におぞましい話だった。

 どうやら人間は魔界では瘴気のせいで生きていけないようだ。

 つまりルミッコはこれから一生、この魔族の部屋の中でしか生きていけないということだ。

 カゴの中の鳥なんていう、生易しい話ではない。

 そんな生活に年端も行かない少女が、何年も耐えられるとは思えなかった。


「俺の部屋で一生可愛がってやる。人間とじゃ子どもが作れねぇことだけは残念だが、その分、死ぬまでたっぷり愛してやるからな」


「はい、、、」


 ストーカー魔族の吐き気を催すような言葉に、ルミッコが涙を流して頷く。

 もはや真一は1秒足りとも耐えられなかった。

 湧き上がる怒りを込めて怒鳴りつける。


「クズ野郎がっ!それのどこが愛なんだよ!」


「キモいっ!ドリー、コイツほんとにキライニャミュっ!」


 ドリーも真一と同じ気持ちのようだった。


「もう見てらんない。ねぇ、ルミコ〜、このガキンチョ、ブチ殺しても大丈夫だよね?」


 比較的温厚なエピーですら、ストーカー魔族に殺意を感じ始めているようだ。


「何バカなこと言ってるのっ!そんなの誰にもできっこない。大人しく従うしかないのよ、、、」


「じゃあ出来るんだったらブチ殺していいんだ〜♪」


「いい加減にしろっ!ブチ殺されるのはお前の方だっ!!」


 喧嘩っ早いドリーたちよりもさらに短気だったのはストーカー魔族の方だった。

 言い終わらないうちに超スピードで襲いかかってくる。

 真一の動体視力では動きを捉えることすらできなかった。

 気がついたときには目の前に禍々しいナイフの刃が迫っていたのだ。

 そのナイフの向こうには、残虐な笑みを浮かべる魔族の顔。


 だが次の瞬間、そんなストーカー魔族の顔に少女のか細い拳がめり込み、、、


 ウォズなんとかという魔族は、顔をグチャグチャに歪ませ、血を吐き出しながら吹き飛んでいった。


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