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外来警備員

作者: 津辻真咲

「あーどうしよー!」

 海老原結衣えびはら ゆいは頭を抱える。

「どうしたの?」

 親友の神山一葉こうやま かずはは聞く。

「バイト、クビになった」

 結衣は涙を流しながら、答えた。

「え!? なんで!?」

 一葉は驚く。

「皿、十枚割った」

「当たり前じゃない、そんなの! もう! いつも力加減を誤るんだから!」

 しょんぼりする結衣に一葉が追い打ちをかける。

「ごめん。でも、格闘技だけが取り柄だし」

 結衣はずーんと沈んでいる。

「あ。それなら、いいバイト知ってる」

 一葉は明るく言う。

「え!? 何!?」

 結衣は食らいつく。

「隣の私立高校の生徒の家で警備員を募集しているらしいよ」

「警備員!? 出来そう! ありがとう! じゃ!」

 結衣は慌てて、走り去る

「すごい、熱心ね」

 一葉は少し、呆れながら驚いた。


 次の日

「あなたが今日から採用になった警備員の海老原さんですね?」「はい! よろしくお願いします!」

 結衣は頭を下げる。彼は、執事の大友喜一おおとも きいちだ。

「では、業務内容をお教えします」

「はい」

「任務は、匠様の周りの人物を守ることでございます」

「ん? 周り?」

 結衣はきょとんとする。

「匠様は、多重人格でございます。それにより、もともとの人格は優しいのですが、もう一つの人格が問題なのです」

――問題?

 結衣は首をかしげる。

「過去に何人もの警備員がやめていきました」

 執事の大友は少し、悲しげに言う。

「そんなに、厳しいんですか?」

 結衣は恐る恐る聞く。

「えぇ、もう一つの人格は殺人鬼なのでございます。今までの罪は、心神喪失状態により、不起訴でございます」

「!」

――殺人鬼!?

「どうか、匠様のためにも、もう一つの人格に殺人を犯させないで下さい」

 執事の大友は、頭を下げる。

「……」

――どうしよう。殺人鬼か。受けるべきなのか。

「報酬ははずみます」

「ちなみに」

 結衣はその言葉に食らいつく。

「時給一万円でございます」

「やります」

 結衣は即答した。

「ありがとうございます。では、匠様のところへ案内します」

 結衣は彼について行った。


「失礼します」

――彼が、匠様。

「今は、元の人格でございます」

 大友は説明する。

「初めまして」

 彼、西園寺匠さいおんじ たくみは微笑む。

「初めまして。今日から、警備員をやらせてもらいます、海老原結衣と申します」

 結衣は頭を下げた。

「話は聞いています。僕の周りの人たちを守ってくれるということですよね」

「はい!」

 結衣は笑顔で答えた。

「では、早速、高校へ登校してもらいます。ちなみに、海老原さんの高校には転校届を出しておきました。今日から同じ高校、同じクラスでございます」

「え!?」

「よろしくお願いします」

 匠は頭を下げた。

「……はい」


 私立高校

「おはよう」

「おはよう。昨日のテレビ見た?」

「見た見た」

――すっごく、キラキラしてる。

 結衣は唖然とする。

「よぉ! おはよう!」

 後方から来た彼は、匠の肩を叩く。

「おはようございます」

 匠は笑顔になる。

「えーっと」

「あ。紹介するね。彼は僕の親友の沖田龍治おきた りょうじ君」

「よろしく!」

 龍治は笑顔で答える。

「こちらこそ」

 結衣も笑顔で答えた。すると。

「おい、見ろよ。殺人鬼が来たぞ」

「最悪だよな」

「俺、殺されるのは勘弁だぜ」

――なにこれ。龍治君。以外、みんな敵?

「気にしないで、結衣。毎日、こうだから」

「はい」


 昼休み

「ごめんね。お昼ごはんまで、一緒にしてもらって」

「大丈夫です! 匠様のためです!」

 結衣は匠に笑顔で言う。

「ちなみに龍治君は?」

 結衣は問う。

「生徒会室です。彼は生徒会長なんです」

「へぇ。すごいんですね」

「うん。僕、自慢なんだ」

「そっか」

――午前中は、殺人鬼出てこなかったな。

――このまま、一日が終わる?


 昼下がり。

――掃除は大変だなぁ。

――まさか、私立にも掃除の時間があるとは。

「ううう」

 匠が苦しみ出す。

「匠様!? 大丈夫ですか!?」

 結衣は駆け寄る。が。

「近づいちゃだめだ!」

 龍治が声を上げる。

「え?」

 ガッ。

 結衣は首を掴まれる。

――まさか、殺人鬼!?

 すると、結衣は首を掴んでいる手の方の手首を持つと、そのまま、首から放し、くるりと回転し、地面に制圧した。

 ドサッ。

「きゃぁあ!」

 女子たちが叫ぶ。

「落ち着いて! もう大丈夫だから!」

 結衣は叫んだ。

「君たち、向こうへ」

「はい」

 龍治は女子たちを誘導する。

「海老原さん! 大丈夫ですか?」

 龍治が駆け寄って来る。

「えぇ、格闘技だけが取り柄なので」

「そうか、ありがとう」

 龍治は少し、ほっとしていた。

「くそっ! 放せ」

「放してみて。もう大丈夫。周りにもう人はいない」

「そうね」

 結衣は手を放す。

「くそっ! きつくしやがって! 手いて」

 もう一人の匠は、悪態をつく。

「自分が悪いんでしょ! 殺人鬼になるまで人を殺すから」

「うるせー」

 匠はそっぽを向く。そして、問う。

「なんで、手を放したんだよ。殺人鬼なのに」

「あぁ、だって、信じてるから」

 結衣は笑顔で言う。

「何をだよ」

 匠は怪訝そうに聞く。

「君が」

「俺が?」

「私より、弱いって!」

 結衣は笑顔で言い放つ。

「なんだと!」

 匠は苛立つ。が、龍治が仲介してくる。

「どうやら、仲良くなったようだね。安心した」

「おめーも、俺といるといつか死ぬぞ」

「俺は、多様性を進めたいだけだよ。じゃ」

 龍治はそう言うと、立ち去っていった。

「いい人だね」

 結衣は龍治の後ろ姿を見て、言った。

「そうか? どうせ、保身だろう」

「それでもいいじゃん」

「けっ」

 匠は顔をそらした。


 放課後

「まだ、殺人鬼のままなの?」

 結衣はきょとんと聞いてみる。

「わりーかよ」

 匠はそっぽを向いている。

「いや、少し気になっただけ」

「あー。はいはい。そうですか」

 匠は機嫌悪そうに答えた。すると、後方から女性の叫び声が聞こえて来た。

「キャー」

「何!?」

――誰の叫び声!?

「おい、あいつら!」

 匠は指さす。

「誘拐!?」

 結衣は驚く。

「大変! 警察に!」

 結衣は携帯を取り出すが。

「間に合わねぇよ! 俺が行く!」

 匠は走り出す。

「ちょっと! 待ちなさい!」

 匠は結衣の制止を気にせず、走り出す車のボンネットに飛び乗る。そして、フロントガラスを叩き割った。

「ちょっと!」

 結衣は慌てる。しかし、匠は犯人を引きずり出して、首を折った。

「こら! 何してる!」

 警察官が駆けつけた。結衣が通報していたのだ。しかし。

「殺人の容疑で、緊急逮捕だ」

 警察官は誘拐犯ではなく、匠に手錠をかけた。

――そんな。


 屋敷

「誠に申し訳ございません」

 結衣は頭を下げる。

「今回の件は、再び、不起訴だそうです」

 執事の大友は淡々と話す。

「そうですか」

 結衣はしょんぼりしている。

「今回の失態で、父親の和信様はご立腹です。すぐに解雇しろと」

「分かっております」

「労働してもらった、時間の給料は払うそうなので、安心して下さい」

「失礼します」

 結衣は立ち去った。


 授業中

 結衣は窓の外を見る。青空だった。

――もう、匠には会えないね。

――本当は、被害者の女性を救いたかっただけだよね。

――私はそう信じてる。


「どうしたの?」

「え?」

 親友の一葉は結衣に話しかける。結衣はそれに振り返る。

「最近、バイトバイト言わず、ぼーっとしてる」

「そうかな」

 結衣は元気ない。

「もしかして、恋?」

 一葉はにやりと笑う。しかし、結衣は慌てて否定する。

「何言ってるの!」

「いいのよ? 信じたいものを見続けても」

「え」

 結衣は一瞬、戸惑う。そして。

「知ってるの! あの事件」

「彼の言い分は新聞で読んだわ。さぁ、行ってこい」

 一葉は笑顔で送り出す。

「ありがとう」

 結衣は走り出した。


「そうよね。過去の事件だって、きっと!」

 結衣は彼を信じた。

「恋は盲目ね」

 一葉は校舎の窓から外を見て、微笑んだ。


「匠君!」

「お前! 何やって」

 匠は驚き、振り返る。

「やっぱり、匠君の方ね」

「うるせー、わりーかよ」

 匠はそっぽを向く。

「私、匠君の言い分、信じてる」

「あ?」

 匠は怪訝そうにする。

「私、匠君のこと、信頼してる」

 結衣は気持ちを伝える。

「けっ。信頼。俺の一番嫌いな言葉だ」

 匠は不機嫌になる。

「どうして?」

「どうせ、この世に正義はない」

――まさか、心神喪失状態での不起訴?

――そうか、遺族の気持ちを理解しているんだ。

 結衣はそう考えた。

「正義はあると思います。紙幣は社会的信用があって初めて価値を持つ。なのに、法律に出来ないはずはない。この世界は信頼で回っている。だから、正義はあります!」

 結衣は笑顔で答えた。

「だから、なんだ! 俺の罪はきえねぇ!」

 匠は叫ぶ。

「過去の自分より、これから、自分がどうするのかでしょ?」

 結衣は匠の手を取る。

「お前は、未来に希望があると?」

「うん」

 結衣は笑顔で頷く。

「だから、匠君の罪ごと、引き受けたい」

 匠は涙を流した。

――誰にでも、未来への期待はあるはず。

――だから、一緒に未来を見たい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです! 匠君の方もそこまで悪い人格じゃなくて安心しました
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