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アスリート

「今日は素晴らしい晴天に恵まれ、選手たちがプレーするのに最高のコンディションが整っていますね。

 ここオーストラリアのシドニーカントリークラブでは、世界中のプロゴルファーたちが憧れる最高峰の祭典が繰り広げられています。

 その選手たちのトップを突き進んでいるのが、あのタイガー・ピット選手で13アンダーの好成績です。

 そしてその後を12アンダーと直ぐ後ろから迫っている選手がいますね。

 …… しかし、今まで聞いたことのない名前の選手です。

 無名の…… 予選から上ってきた選手のようです。

 国籍は、モンゴルのようですが…… 」

「そのようですね。

 私も聞いたことの無い名前です。

 えっと、ボルグ・ハーンと言う名前の選手です」

「はい。

 しかし、凄いですよこの選手。

 予選からとはいえ、初日からずっと二位の位置をキープしたままですからね」

「あのタイガー・ピットをここまで苦しめる選手が居たのですね。

 無名の大型新人登場ってとこです。

 しかも年齢が23歳と若いですから、今後のゴルフ界でも有望な選手ですよ」

「そんなに若いのですか。

 その年齢からは信じられないほどの、落ち着いた正確なプレーをしていますよ」

 オールトラリアでは、世界中のトップゴルファーが集っての最高峰の大会が繰り広げられていた。

 優勝すれば名実共に世界一といっても過言ではない大会だ。

 そんな大会に、突如として現れた天才的な選手『ボルグ・ハーン』という選手が、トップと一打差で二位についていた。


 時を同じくして香港の九龍では、

「お父さん、お母さん。

 今まで本当に有難う御座いました」

「ジン…… ロンが私たちに、お父さんお母さんって…… 」

「ああ…… フェイ」

「僕は、あなた方のおかげでここまで成長することが出来ました。

 そして僕のわがままを聞いてくださり感謝しています。

 これからアメリカに行って夢を叶えてきます」

「そうだ。

 お前なら必ず夢を実現できる。

 しっかり頑張ってくるんだぞ」

「そうね。

 あなたの力で、大勢の人を幸せにしてあげてね」

 ジンとフェイが九龍に来て、もう二十二年の歳月が経とうとしていた。

 そして、白髪が少し目立つようになった二人の下から、一人の若者が夢を叶えるために旅立とうとしていた。

 名前をロンといい、ジンとフェイのたった一人の息子だった。

 九龍に来てからの二人は、大勢の孤児たちを引き取って世話をするようになった。

 その長男として、ロンも孤児たちも何の分け隔てなく育てていた。

 もちろん、ロンにも実の子供とは言ってはいない。

 そんなロンは、国際弁護士の資格を取るために渡米しようとしていたのだ。

「それじゃ、お父さんお母さん。

 行ってきます」

 ロンの決意に満ちた目を見て、ジンとフェイは深く頷いた。

 そして、ロンが見えなくなるまで見送っていた。


 場所は変わって、アフリカのとある町では。

「今ではアーチェリーもメジャーになってきています。

 世界各国にも、素晴らしい選手たちが続々と誕生していますね。

 そしてここでも、そんな一流の選手たちが自慢の腕を競っています」

「そうですね。

 ここまで有名な選手たちが集まった大会など、ここ数年…… いや史上初と言ってもいいですね」

「そうですよ。

 おそらくこの大会で優勝すれば、誰がなんと言おうと世界一ですよ」

「それではここで、順位を見てみたいと思います。

 只今トップに居るのが、アメリカの選手でジョージ・スピナー選手です。

 予想通りの位置に居ますよ。

 それもその筈、一昨年と前回の大会でも優勝している選手ですからね」

「今回優勝となると、三連覇ということで至上初の快挙ですよ」

「…… のようですが、次に追いかけている選手ですが…… 」

「どうかされましたか?」

「いえねぇ、聞いたことのない名前の選手が二位に居まして、他の大会でも参加選手名簿にはないのです」

「ほう、ラッキーな選手も居るもんですね」

「それがそうとも言えませんよ。

 あのジョージ・スピナー選手と一緒にプレーしているようですが、常にそのジョージ選手の後ろから一点差で付いてきていますからね」

「一体どこの国の選手ですか?」

「名簿にはモンゴルとだけしか書いていませんね」

 ここアフリカでは、アーチェリーの世界大会が行われていた。

 そしてここでも…… 無名の選手が記録を塗り替えようとしていたのだ。


 さらにアメリカでは、

「マイケルッ、マイケルッ!!

 忘れ物よっ」

「ああ、ごめん。

 それじゃ言って来るよ」

「おお、頑張ってこいよ!」

「必ず優勝してねっ!」

「任せてよ。

 二人とも僕を誰だと思っているんだい。

 前年度の優勝者だよ」

「キャサリン、マイケルも大きくなったな」

「そうね。

 私たちもそれだけ歳を取ったのよ」

 アメリカでは、あの大島警部と妻となったキャサリン警部の姿があった。

 そんな二人の間にも、十九歳になる息子が居た。

 名前はマイケルといった。

 マイケルは、マーシャルアーツ全米大会に出場していた。

「キャサリン、僕らもそろそろ会場に向かうとするか」

「はい。

 マイケルもまた優勝できるかしら」

「ああ、大丈夫だろう。

 僕たちがしっかり応援しているから」

 そんな会話をしながら、二人は会場に向かった。


 そしてここ日本では、

「本日、ここ日本武道館では世界柔道が繰り広げられています。

 やはり日本勢が多くのメダルを取るところを見たいと思います」

「そうですね。

 男子も女子も、とにかくメダルをいくつ取れるのかに注目が集まっていますからね」

「それに、今回は凄い新人選手が海外から来ているようですよ。

 それも二人だと聞いています。

 80kg級だと聞いていますが、なんでも出身はモンゴルとの事です。

 名前が『カジン・ハーン』という名前と『ニジル・ハーン』という名前の選手らしいです。

 兄弟のようですよ」

「聞いたことがないですね。

 日本選手団にもその情報が入ってはいますが、どの選手も首を傾げていましたよ」

「そしてその無名の選手なんですが、かなり強いらしく」

「のようですね。

 準決勝まで上り詰めているようですね」

「そうです。

 それも全て一本勝ちですよ。

 日本勢にも頑張ってもらいたいですね」

 ここ日本でも、記録を塗り替える新人の姿があった。



そして…… 。

「さあ、全米マーシャルアーツ大会も大詰めになってきました。

 決勝には、前年度優勝者の大島・マイケル・メリスン選手が圧倒的な強さで上ってきました。

 対するは…… 誰でしょうねこの選手は?

 『メリル・ハーン』と名簿には書いていますが、モンゴル出身とだけで後のデータはありません」

 解説の声を横に、リングサイドからマイケルが入ってきた。

 両手を挙げてアピールするマイケルの姿を見て、

「マイケルッ、頑張ってねっ!!」

 とキャサリンが両手を振りながら叫んでいた。

 その横では大島警部が拍手を送っていた。

 リングの中央で二人の選手にルールの説明をしているレフェリー。

「マイケルの対戦相手の選手は、少し小柄ね」

「そうだな。

 しかしアメリカ人にしては妙な名前だな」

「このプログラムにはモンゴル出身だって書いてるわよ。

 どうりで歴史上の人物みたいな名前をしてるんだわ」

「どれどれ『メリル・ハーン』というのか」

 二人が会話をしていると、試合開始のゴングが会場内に響いた。

 両方の選手が勢いよく中央に飛び出したが、その動きは同時に止まった。

 お互いが睨み合う形になっていた。

 なぜなら、双方共に攻撃を与えることが出来なかったのだ。

 とにかく一歩も動けないほど全く隙がない二人だったのである。

 じわりじわりと双方睨み合いながらリング中央を回っていた。

「何やってるのっ!

 手を出すのよマイケルッ!!」

 キャサリンがそう叫んだ瞬間、いきなりメリル・ハーンが動いた。

 左右から繰り出す蹴りの連続。

 それは韓国のテコンドーのようだった。

 回し蹴りを見せたかと思えば、反転して二段蹴りを繰り出す。

 マイケルにとっては、今までに見たことのないスピードのキックだった。

 それは、左右に身体を振りながら後ろにさがるマイケルの動きで解かった。

 マイケルの武術は、あの『ブルース・リー』を祖とする『ジークンドー』だった。

 中国の武術とダンスのような動き、そしてボクシングの持つパンチの破壊力。

 相手の動きを蝶のように舞って交わす。

 まさに『ブルース・リー』が目の前にいるような動きだった。

 双方の攻撃は、無駄がなく正確な動きだった。

 しかし、双方共に間一髪のところで交わしていた。

 そして、その動きは止まるところがなく、一歩も引かない攻撃だった。

 (なんてスピードだ。

 交わすのがやっとで自分の攻撃に集中できない)

 そう考えているマイケルの額には、少しずつ汗がにじんでいた。

 野生の鷹が獲物を狙っている時のような鋭い目つきで睨み付けるメリル・ハーン。

 その視線は常にマイケルの目を見ている。

 眼球が動かないことで、メリルの攻撃の矛先がどこなのか全く見当が付かないのだ。

「マイケルは大丈夫かしら」

「ああ、あんな攻撃をする選手は、今まで見たことがないからな。

 マイケルの表情から焦りが見え始めたな」

 大島警部もキャサリンも、メリルの動きを見てマイケルを心配していた。

 そして、その心配が現実となった。

 メリルの素早い蹴りが、マイケルの頬を掠めた。

 次の瞬間、マイケルの頬に赤いものが滲んできたのだ。

 かみそりで切ったような傷口だった。

 それを見たレフェリーが試合を止めた。

「ストップ!!

 ドクター、ドクター、この傷を診て下さい」

 レフェリーの言葉に、リングサイドから走ってくるドクター。

「傷は浅いようだが、出血が多い気がするな」

 傷口にガーゼを当てながらそういうドクターに

「だ、大丈夫ですよこんな傷。

 まだやれます」

 そう叫ぶマイケルだった。

 それを聞いたドクターは、

「ふむ…… 。 

 まあ、出血はかろうじて止まったようだが、また出血をしだしたらストップするよ」

 そういいながら立ち上がると、リングから降りていった。

 そして試合が再開された。

 ゴングと共に、メリルが攻撃を仕掛けた。

 (しつこいな。

 次はそうはさせないからな)

 そう考えたマイケルは、一瞬の隙を付いてローキックをメリルに決めた。

 その蹴りでほんの僅かだがバランスを崩したメリル。

 その動きを見逃さなかったマイケルは、更に身体を反転させて回し蹴りをはなった。

 するとメリルの身体が回転しながらリング上を転がった。

 レフェリーがカウントを始めようと右手を上げる。

 それを見てマイケルがコーナーの方に下がっていった。

 カウントを数えながらメリルを見るレフェリー。

 だが、いきなりメリルの方に駆け寄ったレフェリーが、リングサイドのほうに向かって両手を降り始めたのだ。

 それを見たマイケルは、心配そうにリング中央に歩み寄った。

 再びドクターがリングに上がると、次はメリルの身体を診ていた。

 そして、レフェリーにマイクが渡された。

「皆様、誠に申し訳御座いません。

 今回のこの決勝戦は、無効試合となりました。

 したがって、優勝者はここにいる大島・マイケル・メリスン選手に決定しました」

 レフェリーがそう叫ぶと、大島警部とキャサリンの方を見たマイケルは、飛び上がって喜んだ。

 大島警部とキャサリンも、一斉に立ち上がって拍手して喜んでいた。

 セコンド陣と喜んでいたマイケルは、ゆっくりとメリルの倒れている方に歩み寄った。

 そして状況をたずねた。

「相手の選手の容態は、大丈夫なんでしょうか?」

「ああ、メリル選手はちょっと脳震盪を起こしているようで朦朧としている。

 だが心配はないようです。

 ただ、他の原因でこの試合は無効にしました」

 話の途中で申し訳なさそうに下を向いたレフェリーは

「君には本当に申し訳ないが、相手のメリル選手は女性のようだ。

 全く解からなかった。

 これはこちらの不手際です。

 どうしてこの様なことになったのかは解かりませんが、メリル選手は女性という申請をせずに男子の部に申し込んでいたらしく、こちらとしても何がなんだか解からずにいます。

 本当に申し訳ない」

 何度も頭を下げるレフェリーに、心配そうにメリルの方を見るマイケルだった。

 そのことを審査員のところで説明を受けていた大島警部とキャサリンは、

「マイケル、優勝できたな」

 そう言ってマイケルの健闘を称えていた。

「ありがとう。

 でも相手の選手は大丈夫かな」

 メリルを心配するマイケルだった。

 試合を終えて控え室に向かうマイケルを見て、安心した大島警部は

「それじゃ、僕は仕事に向かうよ」

 とキャサリンに言った。

「そうね。

 私もマイケルの方が落ち着いたら直ぐに追いかけるから」

 キャサリンも大島警部にそう伝えた。

 そして大島警部は会場から出て行った。

 その様子を見たマイケルは、

「お母さんも仕事に行っていいよ。

 あとは僕一人で大丈夫だからさ」

 とキャサリンの背中を押していた。

 するとキャサリンは、

「そう。

 それじゃ、私もいくね」

 と言って会場を後にした。

 そして大島警部の後を追ったキャサリンだった。

 体育館を出て長い廊下に差し掛かったころで、キャサリンが立ち止まった。

 目の前に人が倒れていたのだ。

「だ、大丈夫ですか」

 そう叫びながら倒れた人の方に走るキャサリン。

 そして再び立ち止まると、なぜか身体を震わせていた。

「あ、あなた……

 あなたなのっ!」

 そう叫んだキャサリンは、急いで倒れている人のところに駆け寄って抱き起こした。

「キャ…… キャサリン……」

 そこで倒れていたのは、大島警部だった。

「一体どうしたのよっ!

 何があったの?」

 大声で問いかけるキャサリンに

「そ、それが……

 いきなりあのメリル・ハーンと言う選手が現れて、僕に向かってきたんだ。

 そ…… そして……」

 そう言いながら腹部を見せると、そこにはナイフが根元まで刺さっていた。

 それを見たキャサリンは、周りに向かって叫んだ。

「だ、誰かぁっ!!

 誰か来てっ!!

 救急車を、救急車を呼んでちょうだいっ!」

 その声に駆けつけたマイケルは、

「ど、どうしたんだよ。

 母さん、何があったんだっ!」

 目の前の惨劇を見て叫んでいた。


 そして大島警部は、病院に向かう救急車の中で息を引き取った。

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