第一節 アメリカの思惑
決着としては異例な同盟締結という形で終戦した日米間の戦争。
なぜこのような形で決着したのかを説明するには、日米開戦前にまで遡り、米ソ間の関係について触れる必要がある。
この時惑星には、大日本帝国、アメリカ、ソビエト連邦、イギリス、ドイツ、フランス、イタリアの七カ国が存在していた。この七カ国の中でも、米独ソの陸軍戦力は他国の追随を許さない程に強大であった。
さらに、この三国は惑星における覇権を握るべく、虎視眈々と勢力拡大の機会を窺っていたのである。
これらの情勢下でアメリカ上層部は、当面はドイツとの直接対決の可能性は低いと考え、まずは軍備拡大・領土拡大を画策するソビエトを脅威と捉え戦略を立案していた。
アメリカの掲げる対ソ連戦略は
〝ソビエトの主要管轄エリアを占領し、ソビエトの勢力圏を縮小。これをもってソビエトの軍備・領土拡大を断念せしめる。〟
というものであった。
新トップ車輌となったIPM1は、就任後間もなくして、対ソ戦略に基づき〝モズドク侵攻作戦〟を立案。
本作戦にてモズドクが選定された理由は次の通りである。
一、モズドクは、ソ連における中東、アフリカ方面侵攻の足掛かりとなる重要な軍事拠点であること。
二、モズドクが陥落すれば、スターリングラードや、クルスク周辺にまでソ連勢力圏が縮小する。
しかし、モズドク侵攻にあたり大きな障壁が存在する。
それはモズドクの防衛に当たるソビエトの主力部隊の存在である。航空戦力は〝MiG-17〟を始めとする惑星最強と評されるユニットを数多く配備し、陸上戦力には生産数が少なく貴重な〝IS-7〟をも含む重戦車群が惜しみなく投入されていた。
これに対してアメリカ陸軍上層部はモズドク侵攻作戦実行にあたり、アメリカ陸上戦力の約九割もの戦力を割り当て、空軍の主力を担う〝F-86〟や〝B-57〟等の出撃も取り付けていた。
しかしそんな中、〝エイブラムスの失踪〟と〝日本との開戦〟の知らせが舞い込む。日本との開戦は予定外であり、モズドク侵攻に充てる陸空の戦力のうち二割を日本に割り当てることを余儀なくされてしまう。
このような状況になったものの、このタイミングを逃すとソ連の軍拡を許すこととなり、さらに戦力が増強されたモズドクの侵攻は非常に困難な状況となる為、IPM1とアメリカ上層部はモズドク侵攻は予定通り実行することを決定した。
IPM1は作戦の準備を進めるにあたり他国の無線傍受を恐れ、各車輌のリーダークラスの車輌宛に
・作戦の実施概要
・必要戦力の抽出命令と弾薬・燃料の手配
・抽出後に該当車輌をアラスカに集結させる
といった内容を書面で通知した。
この命令を受け、近日中にはアラスカに百輌近い車輌が集結した。
「諸君、よくぞ集まってくれた! 私は新たにトップ車輌となったIPM1だ! 今回の作戦は愚かにも軍事力、そして領土拡大を目論むソビエトの野望を、我が偉大なるアメリカ合衆国が潰えさせ、惑星の平和を維持するために行う非常に重要な作戦である! 各員は心して任務を遂行してくれ!」
IPM1からの訓示が終わると、集結した戦車達から割れんばかりの歓声が上がった。