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チハ短編シリーズ-小説版-  作者: 唄沫りとる
第一章 追いかけっこのその先に
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第二節 マジノ事変

 つい小一時間前までの平和な空気とは打って変わって、緊迫した空気がマジノ線に流れていた。突如現れた他国車輌に警戒するチハを他所に、エイブラムスはチハを見るなり開口一番(ののし)る。


「何だ?このチビ戦車は?」


普通の神経をしていれば、初対面の戦車を罵る等という傍若無人(ぼうじゃくぶじん)な振る舞いはしないが、日本管轄エリア境界線というロケーションが、エイブラムスの正常な判断能力を奪う。対するチハもこの言葉に返す刀で言い返す。


「訂正しろ!おれはチビじゃねぇ!」


エイブラムスは、砲身を上下左右に(あお)るように振りながらチハを罵り続け、次第にチハとの口論が始まる。


「いや、チビじゃねぇか。鏡見て来いよ。」

「見た上で言っている‼」

「ハハハ、目が(にご)ってんじゃねぇのか?」

「貴様ァアアアアア!」


短気なチハの怒りは遂に頂点に達し、砲声がマジノ線に響き渡る。

それでもエイブラムスの"口撃(こうげき)"は止まらない。


「効かんわ、そんな豆鉄砲。いいか?俺たち第三世代MBTの砲は、お前たちの豆鉄砲とは弾からして違うんだよ。よく見ておくんだな!」


対するエイブラムスも発砲。


「ヒィ!」


チハの足元にエイブラムスの砲弾が着弾する。自分の砲とは口径・威力ともに数段違う砲声に思わずたじろぐ。


「どうした!()じ気づいたのか?このチビが!」

「べべべ別に?こここ怖くねぇし?」

「声が震えまくりだなぁおい笑 分かったならおチビちゃんはとっととおうちに帰りな。」

「嫌だね!むしろアメリカ管轄エリアに乗り込んでやるよ!」


エイブラムスはこの発言をただの煽り文句としか捉えず口撃を続けた。


「やれるもんならやってみろ。こっちも容赦しないぞ。その時は日本管轄エリア破壊しまくってやる。」


そうエイブラムスが言い返した瞬間、チハは勢いよくエンジンを吹かし、境界線を越えエイブラムスに体当たりをした。


「え?嘘だろ!?マジで来るのかよ!」


 当然ながら、この惑星においても領土侵犯は争いの火種となる。このエイブラムスとチハの小競り合いによって、日米は交戦状態となった。勢いよくエイブラムスに体当たりしたものの、1対1になれば勝ち目がないことは、チハであってもよく理解していた。マジノ線には集落だけでなく、少し規模の大きな街があることを思い出し、チハは草原から市街地へと戦場を移す。


「土地に慣れたチハたんに追いつこうなど無謀(むぼう)だな。エイブラムス君とやら。」

「こっちの最高速度は70km/h以上だぞゴルァ。」


チハは器用に家屋の間をすり抜けていく。土地勘がある故にチハに()があるかと思われたが、エイブラムスもその高い走行性能を活かし追っていく。


そこに、一本の無線がチハに舞い込む。


「こちらチハ・チハ改分隊だ。お前がデカ物に追い回されているとホロから連絡があってな。市街地を抜けた先の丘に大量のチハとチハ改を配備しておいた。何とかしてやるから頑張ってこっちまで抜けて来い!」


この日非番だったチハ達が、追われているチハの為に駆け付けたのだ。チハは作戦を悟られないよう、エイブラムスを誘導するように逃げていく。


「カーブ気を付けてねぇ~。」

「余計なお世話だ。よし!この直線で追いつけるぞ!」

「残念。この後カーブなんだよな。」

「畜生が!」


長らく市街地を全速力で蛇行していたこともあり、エンジンと履帯が悲鳴を上げ始めた。


「ふぅ、疲れてきたな・・・。」

「戦車が疲れる訳ないだろ笑」

「じょ、冗談だし・・・」

「大和魂はどうしたよ笑」


チハはかながら市街地を抜け、マジノ線の平野が見える場所まで誘導した。その瞬間、エイブラムスに多数の砲弾が浴びせられた。


「うぐっ! 何だ?誰が撃ちやがった!」


エイブラムスは主砲を砲撃のあった方向へ指向する。


「我が兄弟をいじめるとはいい度胸だな。」


視線の先の丘には十輌程のチハとチハ改が並んでいた。


「愚かなる鬼畜米に鉄槌を御見舞いする!」

「喰らええええええええ!」


二輌の掛け声により、丘から一斉に砲声が鳴り響いた。


「装填完了!」

「装填急げ!間髪入れず撃ち込めぇ!」


絶え間なく撃ち込まれる砲撃により、エイブラムスの周りには砂埃(すなぼこり)が舞う。

圧倒的な砲撃に勝ちを確信したチハは、無線で感謝を伝え、エイブラムスの様子を見ていた。


「ありがてぇ。助かるぜ兄弟!」

「お安い御用よ、任せときな!」


しかしその安堵(あんど)(つか)の間。砂埃の中から砲声と共にエイブラムスの小馬鹿にしたような声が響く。


「クソッ、チビ共が群がりやがって。そんなくたびれた豆鉄砲で複合装甲が貫けるか笑」


まさかの状況に一輌のチハが動揺しつつも、さらなる砲撃を指示する。


「やってみなくちゃ分からんだろうが!撃ちまくれ!砲撃の手を緩めるな!」


この間チハ達から撃ち込まれた砲弾の数は百五十発余り。

その一方でエイブラムスは確実に一輌ずつチハを仕留めていく。


「チョロ過ぎるぜ笑 あんな骨董(こっとう)戦車に砲弾を使うのがもったいないわ笑 次々と黒煙を上げていく姿、ストレス発散には丁度いいな!」


戦闘時間は約五分程であったにも関わらず、エイブラムスはチハ・チハ改分隊の全車輌を撃破して見せた。エイブラムスの損害はと言えば当然ながら軽微(けいび)であった。


「嘘だろ・・・我が兄弟達よ・・・。」

「すまない・・・。消火できそうにない・・・。これこそ完全燃焼ってね。」

「笑えねぇよ・・・。だが、お前達のお陰で奴に軽微ながらも損害を与えることができた。本当にありがとう。」


 これを好機と見たチハは一度体勢を整えるべく、しばらく修理で動けないであろうエイブラムスを引き離し、主力部隊の配備されているエル・アラメインへの避難を決意する。

一方のエイブラムスは敵地の真ん中での修理となるため、大きくタイムロスをしてしまう。


「あのチビどこ行きやがった。隠れてやり過ごす気か・・・? いや、近場で日本が管轄しているエル・アラメインに修理ついでに支援を求めに行く方が有り得そうだな。」


ほぼ()けではあったが、エイブラムスはエル・アラメインへチハが向かうと予想し、修理を終えた車体をエル・アラメイン方面に向けエンジンを吹かす。


チハに遅れること約二時間半、エイブラムスはマジノ線を後にする。


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