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チハ短編シリーズ-小説版-  作者: 唄沫りとる
第三章 モズドク占領作戦
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第四節 欺瞞作戦

「こちらモズドクのT-64Bだ。MiG-17、聞こえるか?」

「はい、聞こえています。」

「悪い知らせだ…。ノヴォロシースクが陥落した…直ちに帰投してくれ…。」

「そんな…!まだ敵は残ってます!今のうちに削っておかないと…!」

「無闇に損害を増やす必要は無い。直ちに帰投しろ。」

「俺達がみすみすやられると言いたいんですか!?同志の仇討ちをさせてください!」

「くどい!帰投だ!俺だって本当はそうしたいんだ。でも悪戯に戦力を削る真似は指揮官としてできない。」

「…分かりました。帰投します。」


 アメリカの急なノヴォロシースク港への侵攻・占領に対して、ソビエト側はひどく焦燥しており、上層部では今後の対応については意見が大きく割れていた。


一つは、アメリカは単独でモズドクまで侵攻してくるだろうというもの。

もう一つはアメリカとドイツの共同作戦が展開されるというものだった。


前者は、先にも述べた通りモズドクはソビエトの主要拠点であり、政治的重要性が高い為、ノヴォロシースク港上陸の勢いをもってモズドクへの侵攻を行うだろうというものだった。


後者はというと、『ソビエト管轄エリアの中でも屈指の地上車輌、航空機が配備されているモズドクにわざわざ単独で攻めはしないだろう。』という考えを論拠に、アメリカはドイツと合流しクルスクを侵攻、アメリカ単体でモズドクへの侵攻という二面作戦を展開、ソビエトの戦力を分散させ、両地点を占領後スターリングラードまで攻め込むというものであった。


前者の場合であってもアメリカ側にのみ戦力を割けば対独防衛も成り立たなくなるため、ソビエト上層部は非常に頭を悩ませていた。


そして、もう一つ彼らの頭を悩ませている種がアメリカ空母の存在である。偵察を行い彼らの行動を掴もうとしていたが、偵察機はことごとくアメリカ航空隊に撃ち落とされてしまっていた。


「偵察機からの報告はどうなっている!」

「駄目です! またもアメリカ空母の航空隊に撃墜された模様です!」

「くそ! こっちもある程度の練度の機体を派遣してるんだ。相手はエース部隊なのか?!」

「分かりませんが、クルスク、モズドク方面いずれにおいても偵察機の被害が膨らみ続けています・・・。」

「両方面でだと!?」

「特にモズドク方面では機体数も多く主力部隊が控えていると予想されます。あと、良くない知らせなのですが・・・。」

「何だ! もったいぶらず早く言え!」

「実は、クルスク方面を担当していた偵察機が基地に帰投した際に、『クルスク方面でアメリカ機とともに行動するBf-109を目撃した。』との証言がありました・・・。」

「何だと!?ドイツの参戦はほぼ確定的じゃないか・・・。」


彼らは「アメリカはクルスク、モズドクに戦力を二分し、クルスクでドイツ軍と合流。

後に共同作戦を展開する」と断定し、防衛方針を固めた。


「T-64Bさん・・・いかが致しますか?」

「クルスクにも駐留部隊はいるんだったな?」

「はい、モズドクほどの車輌数ではありませんが輌数、性能ともにある程度の戦力が配備されています。」

「では、モズドク守備隊の約三分の一をクルスクに向け出発するようIS-7に連絡をしてくれ。」

「しかし! それではモズドクの守りは手薄になってしまいます!」

「アメリカ側も本土からかなり離れているんだ。増援を送るにも時間が掛かる。そして、クルスクとモズドクの二か所に戦力を分散している。加えてこちらは防衛側だ。守りに徹すればモズドクは守り抜けるだろう。それよりもクルスクの方がまずい。」

「・・・ドイツですか。」

「そうだ。 奴らの陸軍と空軍は非常に強力だからな。お前の意見も分かるがこれが最善の布陣だろう。」


 T-64Bの指示で、翌日にはIS-7率いる守備隊の一部がクルスクへと向け移動を開始した。アメリカ側の仕掛けた壮大な欺瞞作戦だと気付かずに。


一方のアメリカはソビエト側の動きを完全に捕捉していた。


「IPM1さん、航空部隊からの報告です。『ソビエト陸軍に動きあり。モズドク守備隊の一部車両がクルスク方面に向けて移動を開始。また、偵察機と接敵することはあるものの、我が方の被害は軽微』とのことです。」

「そうか。」

「にしても、彼らはなぜクルスクに車輌を向かわせたんでしょうか。航空戦力は多少クルスク側に配備してますが、地上戦力は送ってもいなければ、彼らは満足に偵察すら出来ていませんよね?」

「いや、想定通りの動きだ。彼らはこちらの陽動にまんまと引っ掛かってくれたんだよ。クルスク方面に〝あいつら〟を投入しておいたのは正解だったな。」

「〝あいつら〟と言いますと?」

「そろそろお前にも話すか。アメリカ空軍所属の〝Bf-109 メッサーシュミット F-4〟だ。」

「そんなものを隠し持っていたんですか!?」

「あぁ。ま、実を言うと俺もつい最近知ったんだがな。以前ドイツと技術交流をした際に、双方10機ずつ戦闘機を譲りあったという資料を見つけてな。

実際調べて見たら、ドイツからはBf-109 F-4 10機。こちらからはP-47D 10機を派遣していたそうだ。

その運用についても、特段制約は無いようだったし、もし彼らがまだ現役ならこれは使えると思ってな。」

「へぇ。昔はそんなこともしてたんですね。」

「理由や背景までは分からんがそうみたいだな。で、彼らの所在を調べたらアラスカの空軍基地でアグレッサー部隊として配備されていたから、空軍に頼んで手配したって訳だ。」

「本人達も含めて、よくOKが出ましたね...。」

「まさに諸葛孔明を口説き落とす劉備のように基地に通い詰めたからな。」

「『三顧の礼』でしたっけ?あの時期外出が多かったのはそういう...」

「ま、経緯はどうあれ、近付きもしない限りラウンデルなんかは見えないだろうからな。ある程度の露払いはアメリカ機にさせつつメッサーを目撃した偵察機をあえて帰投させるよう指示を出していたんだ。」

「ソビエトにドイツ参戦の意識を植え付けたわけですか。」

「その通りだ。その情報を知った彼らはきっとこう思う。『アメリカは戦力を二分し、モズドクにはアメリカ単独で、クルスクにはドイツと共同で侵攻してくるだろう。クルスク側にも戦力を割かねば』とな。」

「まさしく予想通りの展開という訳ですか。さすがIPM1さんですね。」

「よせ、まだ戦いに勝ったわけではないんだ。だがこの機を逃すわけにはいかない。付近に配備済みのモズドク侵攻部隊の全てにに作戦開始の命令を出す!」


一方その頃、モズドク周辺の前進基地では、〝M3 スチュアート〟らが呑気な会話をしていた。


「モズドクって思ったよりあったかいんだな。」

「ソビエトだからもっと寒いと思ってたよ。」


ここまでアメリカ陸軍はソビエトの攻撃を受けることなく進軍し、

無事前進基地の設営が完了していた。


これは先にも述べた通り、アメリカ空軍の活躍によるものであった。


「お、コルセアさんだ。」

「逆がるよく?だったか?他のユニットに比べて断トツにかっこいいよな。」

「おい、スチュアート。ここまで何事も無かったとはいえ、いつ作戦決行になるか分からないんだから気を引き締めてくれよ?」

「パーシングさんじゃないですか、ここで何してるんです?」

「一緒に攻め入る奴、ましてや部隊長に『何してるんですか?』は無いだろ…。

ん゛ん゛っ!ま、まぁいい。今回の作戦は我々の攪乱に勝敗がかかっていると言っても過言ではないんだ。それは分かっているだろ?」

「分かってますって。走りまくって逃げまくればいいんですよね?」

「まぁ端的に言えばそうだが...」


ここでIPM1からの指令が、部隊長を務めるパーシングのもとに舞い込む。


「...はい。了解しました。」

「パーシングさん、どうかしましたか?」

「作戦決行だ。」


ここに第一次モズドクの戦い、アメリカ呼称「モズドク侵攻作戦」の火蓋が切って落とされた。

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