表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チハ短編シリーズ-小説版-  作者: 唄沫りとる
第三章 モズドク占領作戦
10/13

第二節 黒海突入

 時はアラスカ決起集会から五日後未明、IPM1の姿はモズドク侵攻に向けてエーゲ海を航行するアメリカ艦隊の中にあった。


日本とソビエトとの二面戦争となったことでIPM1は一抹の不安を抱えていた。


「このタイミングで日本とも戦争ですか・・・。うまく事が運べばいいですが・・・。」

「エイブラムスの失踪が痛かったな。」

「そうですね・・・。とはいえ相手は日本ですよ。あんな突撃しか能のない奴らなら余裕でしょう。」

「いや、日本だからと言って侮ってはいけないぞ。かつて程ではないが、あの国も復興すれば脅威にもなり得るし、90式戦車をはじめとした高性能な車輌だっているんだ。」

「それはそうですが・・・。」

「ともかく、お前達は対ソビエトに集中してくれ。この後どうするか考えるのは俺の仕事だ。」

「気苦労お掛けします・・・。」


戦車揚陸艦内でパットンとIPM1が、改めて自身の国家が置かれている状況に悩まされていた。


このIPM1らを載せた艦隊は〝ワスプ〟をはじめとする航空母艦六隻、陸上戦力上陸のための戦車揚陸艦四十隻、弾薬・燃料やその他資材輸送のための輸送船十隻で構成された大艦隊であった。


我々の感覚からすれば少々無防備にも思える艦隊編成だが、この時の惑星には戦艦や空母、巡洋艦は一定数存在するものの、戦力になるほどの数は存在していなかった為、護衛にあたる艦艇がいなくても作戦行動に支障をきたすことはなかったのである。


アメリカ上層部はモズドク侵攻作戦実施にあたり、モズドクから近く、手薄なノヴォロシースク港を上陸地点に選定していた。このノヴォロシースク港へ上陸する為にはイスタンブールのボスポラス海峡を越え、黒海に入らなければならない。


しかし、この海峡はモズドクとの距離は数100kmは離れているとはいえ、主要拠点のモズドクからは他の拠点よりも近く、ソビエト側の哨戒網に掛かってしまう可能性が高かった。その場合、奇襲が成り立たないだけでなく、黒海という閉鎖された海域の為、退却困難な状況に陥る可能性もあった。


そこで、アメリカ艦隊は、ボスポラス海峡に入る前に、空母ワスプ及びエンタープライズよりSBD-3〝ドーントレス〟を五機ずつ発艦させ哨戒を行うこととした。ワスプ機は、ノヴォロシースク港の戦力偵察。エンタープライズ機は黒海周辺の偵察を行う。


この決定を受け、エンタープライズの飛行甲板上では慌ただしく発艦準備が行われていた。


「こちら隊長機だ!聞こえているか?」

「はい!無線感度は良好です!」

「よろしい。この哨戒任務は隠密性が特に重要となる! 敵に見つかってしまっては奇襲作戦が成り立たたねぇからな! いいか! くれぐれも見つかんなよ!」

「「「ラジャー!!」」」

「よし、順番に発艦して任務にあたれ! 必ず生きて帰ってこいよ!」


黒海海面がようやく陽の光に照らされ始めた頃、隊長機の合図を皮切りに、ドーントレス達が朝日を背にし続々発艦。それぞれの哨戒エリアに向け散開していった。


一方、戦車揚陸艦内では高官のパーシングとパットンが会話をしていた。


「そろそろドーントレス達が発艦する頃か。」

「ああ、これで見つかってしまうと上陸での損耗率が跳ね上がる可能性もあるからな。」

「それだけは流石にごめんだぜ。」


 今回の作戦において、モズドク到達後に先鋒となるのが彼らの率いるパットン、パーシングからなる中戦車部隊であった。モズドクでは強襲作戦になる為、ノヴォロシーク港上陸の損害の如何では、作戦の難易度が格段に上がってしまう。高官だけでなく、その他の車輌も偵察結果が報告されるまでは気が気ではなかった。


 対するソビエト側は、アメリカ艦隊がすぐそこに迫ってきている等知る由もなく、平時と変わらない範囲、スケジュールで哨戒を行なっていた。件のノヴォロシースク港の哨戒任務には〝Be-6〟が配属されており、港湾都市ということもあり、飛行艇の彼らにはまさに適所と言える配属先であった。


「哨戒から戻ったぞ〜。ほんと平和なもんだ。何の異常もなかったわ。」

「ほんとその通りだな。俺なんか暇すぎて空でうたた寝しそうになってたからな。」

「おいおい笑 それで速度不足でスピンとか洒落にならねぇぞ笑」

「ならねぇよ笑 んじゃ、次の哨戒行ってくるわ〜。」


アメリカ哨戒機が発艦する約十五分前、一機のBe-6はノヴォロシースク港から離水していた。


 ここノヴォロシースク港では、一機で沿岸部からエリア境界線までの広大な範囲を周回するような哨戒体制が取られており、まさに〝ざる〟同然の哨戒だった。あくまで結果論に過ぎないが、アメリカ側は過剰に警戒していたことになる。


 アメリカ側の哨戒機が発進してから、三十分程経った頃、エンタープライズより発艦した一機のドーントレスの無線により戦場が動く。


「こちらエンタープライズ偵察部隊三番機のドーントレスだ。艦隊本部応答せよ。」

「こちら艦隊本部だ。感度良好、しっかり聞こえているぞ。」

「クリム半島より南東に2km、高度4,500mの海上を飛行中、高度1,500〜2,000mに哨戒中と思われるソビエト空軍の大型飛行艇を発見した。」

「でかした! 相手からは見つかってはいないだろうな?」

「はい、雲に隠れつつ追尾していますがこのまま継続しますか?」

「よし、そのまま追尾してくれ。」


 艦隊本部は偵察機補足の連絡を受け、安堵の空気が広がったが、まだ上陸は決行せず、他の偵察機からの定時連絡を待ち、突入の判断を行うこととした。


更に時刻は進み、エンタープライズ機からの定時連絡が続々入電する。三番機以外は偵察機発見の報告等はなく、艦隊本部は敵の哨戒網はかなり薄いだろうと判断したが、他の四機にも哨戒を継続するよう命じた。


続いて、ワスプ機の定時連絡でノヴォロシースク港の戦力に関する情報が入る。


「こちらワスプ偵察部隊一番機のドーントレスだ。定時連絡を行う。艦隊本部応答せよ。」

「こちら艦隊本部だ。偵察ご苦労。報告を頼んだ。」

「偵察結果を総合して伝えると、事前情報通りノヴォロシースク港の防衛はかなり手薄のようでした。配備車輌はわずか十輌ほど。型式までは分かりませんが、〝T-34〟が八輌、〝IS系統〟が二輌でした。まだ隠れている可能性はありますが・・・。」

「了解した。 引き続き敵にはバレないよう行動してくれ。 偵察ご苦労だった。」


「さて、あとはエンタープライズ機からの追加情報を待つのみか。」

徐々に近づく作戦開始の時に、IPM1の緊張が高まる。


「IPM1さん、エンタープライズ機からの追加打電です!」

「どんな内容だ。」

「全ての哨戒機の情報を総合すると、『本空域に他の哨戒機は見えず。上陸作戦を開始しても問題ないだろう。』とのことです!」

「よし分かった。全部隊に出撃の準備を整えるよう指示を出せ! Be-6を追尾中の三番機にはBe-6がノヴォロシースク港より最も離れたタイミングで合図を送るよう指示を。艦隊はこれよりボスポラス海峡へ突入、三番機の合図をもって上陸作戦を実行する!」


それからしばらくして、ボスポラス海峡を越え黒海南部で待機していたアメリカ艦隊に無線が入る。


「こちらエンタープライズ三番機、間も無く敵偵察機から港湾部が見えなくなる。」

「こちら艦隊本部、了解した。三番機は直ちに現場を離脱しエンタープライズまで帰投してくれ。他の機は既に帰投を命じてある。偵察ご苦労であった。」


日も昇り波の穏やかな黒海を進むアメリカ艦隊は、遂にノヴォロシースク港まで約30kmにまで迫っていた。


「総員聞こえているか! 改めてノヴォロシースク港制圧作戦の概要を伝える!」


IPM1が全体に向けて無線で作戦の概要を説明。ここに、モズドク侵攻作戦の初段となる、ノヴォロシースク港制圧作戦の火ぶたが切って落とされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ