第9話 ウッヒョイ、アヒョアヒョ
とりあえず題名テキトーに付けました。許してください。
突然だが、俺は今、留置所にいる。
……………ネタ切れじゃないぞ? 断じて違うからな?
時は遡る。
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「はぁぁ〜〜〜〜………前はこんなお店じゃなかったのになぁ〜………」
眉頭を下げ、レオナがどこか不満げな顔をして、愚痴を垂らしている。
「元から兆候はあったんじゃないの? 気づいてなかっただけで……」
「いやいや、それはないんじゃね? あのおねぇさんも言ってただろ? なんか新しい店長がどうのこうの〜、とか」
「それにしても突然すぎるよお〜〜………だって、モンスター料理消えてないんだよ? ってことはマスターが突然いなくなったってわけでもなさそうなんだけど…」
そう言って、彼女は延々と新しい店長に対する批判を垂れ流し続ける。俺はそれを半ば聞き流しながら、周りの客がどう言った反応をしているものなのか、観察してみることにした。
周りに見える客たちの顔色は皆明るく、穏やかである。
……ふぅーーん、結構みんな悪い反応はしてないんだよな…
俺が辺りを探っていると、例のウェイトレスが、直径25センチほどの大きな皿にちょこん、とかなり量の少ない肉が乗った料理をどこかの客に運んでいくのを発見する。
なんじゃありゃ……あんなメニューあったか?
「はぁぁ〜〜〜い、こちら、モーニング・スペシャル・ワールド・エンドのメインですね、『牛フィレ肉のステーキ 〜トリュフのソースで〜 になります。ごゆっくりお召し上がりくださいませぇ〜〜」
うっっっっわ!! とんでもないのが出てきたんだけど! アレが噂の『モーニング・特別な世界のエンド』なのか!? まじかよ、4万って実は法外な値段じゃなかったり!? 『朝のスペシャル・ワールドの終わり』とかいう明らかにクソな料理朝っぱらから食ってるとかどういうことよ!? こんなん食うやつとんでもねぇブルジョワだろ………
そう確信してその人を良くみると、それは男性で、細身の体に淡い青と紺でできた、背中に『POLICE』の文字が書かれている者の姿が。その髪は、綺麗な黒髪の短髪で目元には黒縁の………
うぅぅ〜わぁぁぁ〜〜〜朝の変態メガネじゃん!! アイツ朝っぱらからコース料理とか正気じゃないっしょ! ってか朝からコース料理を食わせようとしてるこの喫茶店もまじで頭イってんじゃねぇの!?
そんな勝手にキチガイ判定を下されている彼は、俺に気づくこともなく、コーヒーを啜っている。彼のその所作には、無駄な動きは一切なく、啜る時には音は一切立たず、すぐに喉の奥に流し込まずに、目を閉じたまま舌の上でじっくり転がしているようだ。
チッ………なんか妙にムカつくわぁ!! 謎に気品があって地味にイケメンなのが更に神経を逆撫でしてきやがる! おちょくってんのか!? ってか何で警察官の制服着てんだよ! 仕事サボってんのかオラァ!?
俺が心の中で呪詛を吐いてると、その彼はまたも手元のコーヒーに手を伸ばしながらも、よく見れば、どうやら彼の目線はコーヒーではなく、別のテーブルにあるようだ。俺が思わずその目線を折った先には…
「なぁなぁ、どれ頼んじゃう?」
「えぇ〜そうだなぁ〜……あっ! この『インスタバエにピッタリ! チョー・すごい・パンケーキ』ってのはどう!?」
「いやいやそりゃあ無いだろ…いかにも中身なさそうじゃねぇか…それにインスタバエってなんだぁ?」
「まぁまぁ、そうカッカせずに……」
うお! あの四人組アレだ! 俺がギルドに入った時に見かけたチーム「昼ドラ」じゃん! マジかよアイツらも朝飯と昼飯一緒にしちまおうってゆークチか……? ………あとインスタバエってのは一部の人間が言ってる、『SNS映えしそうなものを目ざとく見つけ、我先にと群がる人たちを蔑視して、ハエに例えた別称』らしいぞ………知らんけど。あ、ちなみにこの生徒会長感の漂う黒髪眼鏡が誰を凝視してたかは、もう今更言及しないよ?
そんなつまらん事を考えながらもその四人組を目線で追ってると、レオナとシアンが注意してきた。
「ねぇ…さっきからどこみてんの?」
「とっくにハンバーガー来ちゃったわよ?」
「うぉ、マジか…あの人いつのまに運んできたんだ…?」
俺の目の前に置かれた三つのバーガーは、今までのメニューから想像していたものよりも、格段にまともそぅ………ぅおおおおおお?
「え、てかこれよく見ると……」
「まぁ、食べられれば何でもいいわよ……」
「……ぇええ? お前結構逞しいのな……」
そのバーガーに挟まれていたのは、レタスやトマト、チーズや肉…………では無かった。そこにあったのは、穴子、マグロ、サーモンにイカ、カニにホタテにぶりカツオ……などなど、様々な魚介が焼きおにぎりのように焦げ目のついたご飯で挟まれたハンバーガーであった。
「………あれ? 実はこれ結構美味いんじゃね?」
「うん……これ割といけそうよね……」
「えぇぇぇ……そうかなぁ?」
俺たち三人は試しに一口食ってみる。
「あら、これ美味しわね」
「うっっっっっわ!? 何これなんか懐かしい味がしなくもないな!」
「……………………」
お? あ、あれ?
「なぁレオナ…もしかしてこれ苦手だったのか……?」
「う、うん………まぁね…」
「ま、好き嫌いはあって当然よね、もし食べないんだったら私が食べてあげなくも……」
………………!?!? これは!?
「いやぁぁ!!! 今日はいい天気だなぁ! なぁ!? だよな!? シアンっ! なぁっ!」
「えええええええ! ちょっとどうしたのよ! せっかくいい感じに日常感出てたじゃないっ!」
「えぇぇぇ……出てたの………?」
いやそんな事より今俺はとてつもないチャンスにいるじゃないか! ここで何気なーくレオナの食べかけのバーガーに手を伸ばせば間接キスだぜ……!
「いやぁぁぁ〜〜俺男だからさぁ! 飯いっぱい食わないと死んじゃうわけ! わかる!? わかるぅ〜!? ね!? ねっ!?」
「そ、それはそうだけど結局お昼ここで食べないといけないわけだし、私が食べても問題ないわよね?」
「あぁあん!? おいおいシアン、テメェなんにも分かってないなぁ! いいかぁぁぁ!? ここで女が口つけたやつを女が食ってどうすんだよ! ほとんど意味ねぇじゃん!? 百合好きしか得しないじゃん!? 知らんけど! だからこのレオナバーガーは俺のもんだ!」
俺が半ば上ずった声で必死にレオナの食べかけを獲得しようとする。
「…………うわぁ……そんなに私の食べ残しがほしいの?」
「…可哀想に……そんなにお腹が減ってるのね…」
…………うわぁ…なんかレオナさんが引いていらっしゃる……アホもいるけど。ふふふふ…今更何を言ってるんだコイツらは……美少女と間接キスしたくない男なんてこの世にいるわけ無いだろ………!? 俺はこんな所で引いてられないんだ!
「…………(軽蔑)」
俺は彼女たちの視線を強引に振り切って、バーガーに手を伸ばした! 彼我の距離は30センチ………20………10…9…8…と、だんだんと狭まっていく。今やその距離は今や指一本分にも満たない! シアンが俺の強行に気づき、急いで手を伸ばそうとするも、未だに射程範囲外……!
「ふふふ……ハハハ……HUHAHAHAHA!!! 勝った……! この勝負、俺が貰ったァァァァァ!」
俺は勝利を眼前に、口元がにやけながらも俺の手を伸ばす速さは変わらない! いや、むしろ速くなっている! そしてついにその身に手を伸ばそうと……
パシッ!
そこに俺の数倍の速さでバーガーを引ったくっていく女の姿が。
くっ………レオナかっ……! さすがは盗賊……だがなぁ! バーガーを奪い取った所で話は変わらねぇんだよ!
レオナが口の付いていた部分であるバーガーの一部をちぎり取って、その小さな口へまっすぐ運ぶ!
何っ!? 的が小さくなっただと!?
俺の動揺を前にレオナがニヤニヤと勝ち誇った表情を見せている。
ハハハ! だが油断したなぁ!! その軌道はもう読めている!
俺は立ち上がり、彼女の手をめがけて首を伸ばした! そしてその手の中にあるバーガーのかけらを自らの上顎、下顎の中切歯でそのバーガーを挟み、そしてさらに側切歯二つを使い、崩れないように補強しながら彼女の手の中から引き抜いた!
「……え!? ちょっ!?」
「ハハハハハッ!! アハハ!? ついに、ついにやったゾォォォォォォ! 俺の勝ちだぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」
俺は周りの客のことになど目をくれず、歓喜に身を震わせながらレオナバーガーを咀嚼した!
鼻腔の中に広がる醤油の香り、油の乗ったマグロ。口の中には磯の風味とともに広がる不思議な多幸感! ……………これか! これがキスなんだな!? 間接だけど!
「ふふふふふ………ハハハハハッ……あひゃひゃひゃひゃひゃっ!?!?」
俺はあまりの興奮に、マナーというものを忘れて喚き散らした!
「ウッヒョォォォぉぉぉ〜〜!!! レオナちゃんの唾液おいちぃぃぃぃィィイ!!!!!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!?!?!?!?!?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっっ! キモい! 私やっぱり君は無理だよ! ついていけないっ! パーティは解散っ!」
「おぉいおいそんなこと言っちゃっていいのかぁ!? お前他のパーティのアテはあるのかよ!? ねぇだろ!? あったらそもそも昨日の今日で俺とパーティ組むなんて出来るわけないもんなぁ!?」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!? 脅迫っ!? そんなことまでするんだぁ!? で!? ちなみにどうなの!? 私のヨダレは美味しかったの!?」
「あぁん!? 味なんて分かんねぇよ! ただただ幸せではあったよ!」
「……………」
「う〜わぁぁぁぁ〜〜! キモい! 警察呼ぶよ!?」
「はぁぁ!? だったらなんで聞いたんだよ!?」
「………もういい! おまわりさ〜〜ん! ここに変質者がいま……」
「何ぃぃぃぃぃぃぃ!? 市民の安全はワタシが守るわっ! (オネエ声)」
「えええええええ!? ホントに警察いるわよ!?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっっ! ヤッベェ!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっっ! 変質者がもう一人増えたんだけどぉぉぉぉぉぉ!?」
そこには鬼気迫る表情で例の鉄パイプを握った男が。
チッ……こんな時に限ってあの生徒会長(仮)が参戦してきやがるとは………!
「そこの変質者! アナタをとりあえず逮捕するわ! なんの容疑かは後で決めるわよ!(全部オカマボイス)」
くっ………ここまでかァッ……! ……いや、待てよ…フヒッ……おほほほほ…
「おいおい、お巡りつゎぁ〜ん? 良いのかなぁ、そんなことしても……」
「なっ!? どういうことよ!? 説明しなさい!」
「いやだってさぁ〜? ほら、せっかく仕事サボってまでアイツを追ってきたわけじゃん? そんなことして諦めたらせっかくルール破った意味ないよなぁ〜?」
俺はそう言って筋肉おじさんを流し見る………あれ? アイツ地味にナイスな顔立ちしてんじゃん……ただのおじさんだと思ってた……
「クッ……アナタねぇ〜! この期に及んで警察官すら脅すの!? 良い度胸ね! 良いわ! 公務執行妨害で現行犯逮捕よ!」
「フハハハハっ! ほらほらぁぁ〜〜? 捕まえてみろよぉ〜? アレ? 出来ない!? そっかぁコレだったら昇進なんて夢のまた夢だぜぇ〜? でも捕まえちまったらまた次会えるまでどれくらいかかるんだろうなぁ〜!? ほら、出来ないよなぁ〜!?」
「っっっっ!? お、お前ぇぇぇぇぇ!」
ククク…こいつ、怒りで男に戻りかけてやがる…
よしっ! このまま、この店から退散して……
俺がレオナとシアンの手を掴んでそそくさと店から出て行こうとしたその時、
「ライトニング!」
俺に向かってジグザクに飛んでくる、赤色の光。その光は意思を持ったように俺の体へ吸い込まれていく。
その光が俺に触れた瞬間、俺の体は地面に落ちていってしまった。
光線は電撃となり、瞬時に俺の体全体へと伝播していく。自らの体にジンジンと響き渡るような痛みが走る中、俺は何とか周囲を確認する。
「大丈夫だったか、警察官殿」
そう言って俺のそばに立っているのは、おそらく俺に魔法を放ったであろう、筋骨隆々の冒険者。彼の目には、公衆の面前で堂々とセクハラや脅迫を行う下劣極まりない男を懲らしめた、という達成感が浮かんでいる。
「あ、いえ、お気になさらず……むしろこちらの方が感謝すべきで……」
感謝の意を示す生徒会長(仮)の目には、かの冒険者に対する尊敬の眼差しとは異なる感情が浮かんでいるようにも思えるが、今はどうだって良いだろう…
俺は薄れゆく意識の中、俺のあまりの体たらくに顔を合わせてくれないシアンの顔を視界に収めながら、生徒会長風変態眼鏡が取り出した手錠に拘束されるのを感じていた。完全に瞼が閉ざされてしまう直前に見えたレオナの口元がなぜかほころんでいたことには、もう気づくことはできなかった。
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というわけで現在留置所。ハハハっ………乾いた笑いしかおこらねぇわぁ〜〜〜………まさか異世界生活2日目にして警察に捕まってしまうとは…………今日中に解放してくれたら嬉しいな……あ、いや待てよ? よくよく考えたら俺今一文無しな訳だし、留置所にいたら飯タダで食わせてくれんじゃん! ………でもこの世界では普通に有料とかありそうだな……ってか普通に考えてどう考えても中世感漂うこんな時代にそんな制度あるわけないよな……
フゥゥゥ〜〜〜…………考えてても埒あかないな…
そうこうしている間に、俺の意識が戻ったことにきづいたのか、例の生徒会長が俺の前まで来たのち、格子戸を開けて俺に告げる。
「はぁぁぁ…………事情聴取の時間だ。早くこい」
俺は今から行われるのであろう、気の遠くなるような面倒事を前に、小さくため息をついてその扉をくぐった。いつのまにか口調が戻っている彼について行きながら、俺は気の落ちた嫌な空気を取り払うために自信を鼓舞する。
俺の物語はこんなところで終わりになんてはしてはいけない! 未だに冒険にすら出てもいないんだ! つまり! そう!
俺たちの戦いはこれからだ!!!! …………(END)
……………………………いや、終わらんけど
なんかイマイチなんだよな……もっと面白く書きてぇよなぁ……
あと謝罪。まだ冒険始まらなくてごめんなさい。