第7話 あぁっ！？ ついに……！？
ウッヒョ、うひょうひょ……
とりあえず言ってみただけです。
冒険者ギルドに向かう道。俺はシアンとレオナに挟まれる形で歩いていた。
2人の間には、透明な壁があるように思える……いや、そんな変な比喩使わなくてもいいな、透明な壁とか言ってるけど俺だわ、これ。二人とも俺を居ないもののようにして睨み合ってる。
え？ ちょ、そんな普通に無視する？
「ねぇ……今更なんだけど、お金は？」
あぁ良かった……無視されてなかった…さすがラブリーマイエンジェル、シアンちゃんですわ……
「あぁ、それならこの人、女の人脅して毟り取ってたよ」
えぇ！？ レオナ悪魔じゃん！？ ちょ、いやいやいやいやいや！ そんなこと、し……てましたねぇ！ めちゃくちゃしてましたわぁ！
「そんなこと……してないわけではないかもしれない、とまでは言い切れないわけではないだろうな（否定×4回……つまり、した！）」
「………ん？ え？ ない訳では無いかも…言い切れないだろう…んん？ どういうことよ？」
よっしゃぁぁぁぁぁ！ 騙し通せたぁ！ シアンがアホで本当に良かった！ ふふふ、チョロインにポンコツ…最高に都合の良い女達だぜぇ！
「………（軽蔑）」
あれあれ？ なんか、レオナの方からは変な視線を感じる気が………フッ…気のせいか…
「…鈍感主人公……（小声）」
「………ん？ なんか言った？」
「…いや、言ってないよ」
「…ははっ、やっぱ気のせいだよな…」
「……え？ 嘘でしょ？ 今度は難聴属性まで…」
…………とでも思ったカァぁぁぁぁぁっぁぁぁ！ 全部しっかり聞こえてやがんだよ！ ざまぁみろこのかわいい顔したクソ悪魔が！ 鈍感主人公！？ 難聴系！？ そんなやつ実際にいる訳無いだろうがぁぁっぁぁぁぁぁぁ！ ハハハハ！ いやぁ、またしても俺の天才っぷりが露わになっちゃいましたわぁ！ こうやって事あるごとに馬鹿っっぽく振る舞うことで、情報を引き出すのダァぁっぁぁ！ ははぁ♡ ヤッベ、俺頭良すぎて泣けてくるわ……おっとやばいヤバい、こんな長いこと愉悦に浸ってたら早速ばれちまうよ…
「そう言えばなんで盗賊になんてなろうと思ったんだ？」
俺の言葉を聞いたレオナは目を丸くして応じた。
「そんなの適性が合ったからに決まってるじゃん…」
「へー適性なんてものもあるのね…」
「全然知らなかったな…」
そんな俺たちに呆れたように彼女は言った。
「いやいや、そんなことそこらへんの子供でも知ってるよ？ はぁ…今までどうやって生きてきたんだか…」
…にしてもレオナが盗賊かぁ………いやぁ、妄想が膨らむぜぇ…だって盗賊って言ったら、アレだろ？ 尻しか隠れてない短パン履いててさぁ〜……
「ヒソヒソ…（ねぇ、そう言えばなんで2人は昨日一緒にいたのかなぁ？）」
「ゴニョゴニョ…（ふふふっ…実はねぇ…わたし、娼婦として働いてたのよ…）」
「ぇ……」
いやぁ〜地味に盗賊ってエロいよね…ほら、上半身なんて普通にお腹出しててさぁ〜……
「モニョモニョ…（じゃ、じゃあ、もう……）」
いやぁ見たいなぁ、レオナの戦闘服姿…きっとすべっすべの綺麗な肌に違いない…
………ところで言っとくが、ちなみに全部丸聞こえだからな？ なんかシアンが思わせぶりなこと言ってレオナが勘違いしてるっぽいけど…ま、いっか……面白そうだからほっとこ……
「あぁ〜、俺の適正は剣士がいいなぁ …」
「わたしの適性は多分ウィザードよね…」
「え？ なんで？ もしかして既に魔法使えるの？」
「あぁ、うん、幻術を少しくらいだけど……」
ふふふ………やっと冒険者らしい会話になってきたじゃないか！ そうだ！ ついに俺の異世界生活が正式に幕を開けるんだ！
俺は期待に胸を踊らせ、目前に迫ったギルドに向けて足を伸ばした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
入ってまず見えてきたのは、例の茶髪の受付嬢。 ふぅむ……なんて絶妙な長さのポニーテールなんだろうか。肩までかかっていない短めの長さなのが、ちょっと年上なのに、若さを感じさせる。見れば近くにいるおっさん達もメロメロのようだ………よく、酒場の看板娘とかいるだろ？ そんなイメージ。
どうやら、今彼女は接客中であるらしい……………………ん？ あれは………
良く見ると、お姉さんが相手にしているのは、例の四人組冒険者だな。何かポーションのような物を買っているようだ。
………ん？ ていうか、そういう道具系もギルドで購入できるんだな…
「はい！ では、皆さんのご活躍を今日も願ってますからねっ！」
ふぅーん、勝手にアイツらパーティにしてたけど、やっぱそうだったんだな、あのベテラン四人組…もう呼びにくいからチーム「昼ドラ」でいっか。なんか乱れてそうだったし。現にあの筋肉おじさんとツインテの子付き合ってるっぽかったからなぁ…
「では次の方ぁ〜」
「あ、私たち呼ばれたみたいね」
「私は既に登録済ませてるけど一応ついてくね」
よし！ 冒険者初日！ 舐められたら終わりだ！ ここは一発かましといてやりますか！
「はいはぁーい、俺ちゃんでぇ〜す！ おねえさんいいカラダしてんねぇ！ どう？ 今日ウチこない？」
おっと口が滑ったなぁ！ ナンパしちゃったっ！ テヘっ！♪（萌えボイス）
「えぇ！？ ちょ、ちょっと君何してんの！？」
「ア、アンタどんだけ節操無いのよ…」
「え！？ 何ですか！？ 私今ナンパされてるんですか！？」
ふっ…君たちが驚くのも無理はないけど冒険者は舐められたらダメなんだよ…新入りが舐められた結果、そこらへんのおじさんに絡まれた挙句、ひどい場合にはヒロインまで奪っていくんだぜ！？ ここで滾ってくる奴もいるかもしれないけど、俺はそんな特殊性癖ないからな！？ あ、いや、嘘ついたかも、ちょっと興奮するわ…
「あぁ〜いや、ごめんなさいねぇ〜？ ちょぉ〜っっと魔がさしてナンパっぽくなっただけで2割は冗談ですから…」
「「「「「「「……（8割本気なんだ…）」」」」」」」
わぁすご〜い…ここら辺にいるほとんどの人から俺白い目で見られてる……フッ…初日から最っ高にド派手にキメてやったぜ…
沈黙を破ったのは、レオナとシアンであった。
「ほら、それよりも…」
「冒険者登録お願いします。あ……ちなみにこの人、私の連れです」
おい、良いのかよ…それだと、「私がこの人を連れてきました」みたいになっちゃうぞ？ そこはウソでも「あ、私はこの人に無理矢理連れてこられただけなので…」っていう感じにしないと変な目で見られるかもしれないのにいいのか？ ……知らんけど………あっ……そう言えばこいつバカだからそんな頭回らないんだな…
「はい、それでは、入会金として20万ED頂戴します」
俺はズボンのポケットから一万ED札の束を取り出した。そこには謎のイケメンの絵が…ふむ、これがこの世界における諭吉さんや栄一くんのことかな？ そのイケメンの顔を親指で潰すようにして持つ。
ペチペチ……
叩いてみる……ふむ、最高だ。いつの時代も札束で何かをペチペチするのは極上の娯楽だね……ああでも、俺はこれを献上しなければいけないのか……ふむ、このギルドのアイドルに貢いでると思えば……むふふ、興奮してきた。
俺は潔くその札束を彼女に差し上げる。
「はい、確かに」
それを彼女は朗らかな笑顔で受け取った。
あぁ〜癒されますわぁ〜…たとえこれがただの営業スマイルだったとしても、俺、ゆるせちゃうわぁ……あぁ…でもこういう人に限って裏では……「う〜わぁ〜今の男まじヤバくなかった？ あーゆーのが一番困るんだよねぇ〜……あぁー、気持ち悪っ！」みたいなこと言ってそうで怖い…むむむ……
「それでは職業を決めるために診断が必要になるので、こちらにお越しください」
そう言われて俺たちが案内されたのは、中央に直径15センチほどのビッグサイズの水晶がテーブルに置かれ、椅子はなく、テーブルの周りをピンクのレース状のカーテンが囲っている場所。
何これ、どうゆう場所！？ ピンクのレースカーテンって……ま、まぁいいや、突っ込んだらキリがない……
「ではまず、そちらの女性の方、こちらの水晶に手を置いてください」
「は、はい………」
彼女がシアンに示したのは、中央のトンデモサイズの石。………いや、これアレだよな…変なオカルトにハマった人が買わされるやつ……おっと、思わずツッコミが……
「こちらの水晶は、『フォッフォッフォ』が口癖の変質者が王宮に持ってきた石が発祥とされる、解析水晶と呼ばれるものでですね………」
おぉぅ！？
「んんんんん！？ そんなの私の時は聞いてないんだけど！ なんかサラッと流してるけどヤバいよね、 それ！？ 怪しすぎない、そのお爺さん！？ 危険物だったらどうするつもりなの！？」
だよなぁ！ やっぱそうだよなぁ！
「これはその後、国中の高名なウィザードを掻き集めて作らせた量産型のもので、なんと！ 触れた瞬間にその人の体の情報が隅から隅まで読み取られるんです！ その情報を元に体内にあるマナを割り出したりするんですよ！ その情報はなんと一億人以上記録できる、とその方は言っていたとの事なんです！」
「す、すごいわね！ これ、どんな感触なんでしょうね！？」
そう言ってシアンが水晶に手を置き…………
「ちょぉっと待ったぁぁぁぁぁぁ！」
かけて俺が止めた。
「え！？ ちょ、いきなりどうしたのよ！」
おいおい、シアンのアホはさっきの説明聞いてなかったのか！？ いや、これアレだよな！？ 体の情報ってやっぱり「スリーサイズ」も入るんだよな！？ もちろん俺のシアンのカラダも隅から隅まで………チッ…クソッ…エロジジイめ！ 全国の女性の体の情報を蓄積させよう、という思惑がスケスケじゃないか！
「くっ……手をかざさないと冒険者になれないなんて………」
「あ、いや別にそういう訳じゃありませんよ？ ただ、これを使わないとステータスが見えない、というだけで……ま、まぁ…職種は後から変更できますけど…」
くそっ……ステータスが分からないと見合ったジョブを選べないじゃねぇか！ さすがに未知の状態から冒険するのはリスキーすぎる！
「しょうがないのか…！」
「いや、ほんとにどうしたのよ、いきなり……ふふん、それよりも私のステータスはどんなのかしらね……なんか歴史的には異常に強いステータスや、特殊能力を持つ青年が現れることもあったらしいけど……」
「へぇ………」
なるほどねぇ…チート能力ってやつな、やっぱ地球以外の星にもそういうやつはいるのか…きっと最初に神様にお願いして………ん？ ……んんん？ ………あっ…
「あああぁぁっぁぁぁああっぁぁ！！！！！」
「えぇぇぇぇぇ！ ちょっといきなり大声出さないでよ！」
そうだよ、チート能力だよ！ 忘れてたぁぁぁ！ なんか色々ありすぎてあの女神もろとも忘れてたけど、あの鬼嫁が俺にチート能力くれてたじゃん！
「よっしゃぁあっぁあぁぁ！ 漲ってキタァァぁっぁぁ！」
「い、いきなりどういうことなのよぉ！」
「今度は誰をナンパするつもりなの！？」
「わ、私を誘っておいて、他の女性に！？……いくら新人冒険者さんだからといってやっていいことと、悪いことだってあるんですよ！」
なんか周りの女達が喚き散らしてやがるが、知るかよ！ 俺はここであの嫁からもらったチート能力を発現して、煌びやかなハッピー乱交生活を送るんだ！
俺は水晶の前に立つシアンをひっぺがし、叩きつけるようにして、水晶に手をかざした！
俺の手のひらが置かれた水晶は、俺の体から何か感じ取ったのか、もやを出して急激にその透明度を変えてゆく。赤から青に。青から黄色に。黄色から緑に。緑から紫に。紫からオレンジに。オレンジから黄緑に。
「………っ！？！？ こ、こんなの今まで見たことありません！ 何が起こっているの！」
「ちょ、ちょ、どういうことなのよ、これ！？」
「君、もしかして只者じゃなかったり…」
ふふふ、ついに来たぁ！ 俺の時代がぁ！ 長かった。あまりに長かったぞ！ ホモに遭遇しまくるわ、サキュバスに犯されそうになるわ、散々だったよ……だがそんな日々も今日でおしまいだぁ！ こっからは皆さんお待ちかねの王道テンプレハーレムの開幕だゼェ！
水晶がその有り様を次々と変えていくさなか、ついにその光が虹色に輝いた！ そのまま光は渦を巻きながら、黒く、黒く、その宝玉を漆黒へと染め上げていく。 そして闇に染まった石は一転して今度は真っ白な光を放ち始める。その光は、時間が経つにつれどんどん大きくなり、ついに弾けた！ その光はギルド全体をも覆い隠してしまう。皆が俺中心に放たれる光に目を細めてしまう中、その光は少しずつ収まっていく。そこで俺はその水晶から湧き出るようにして光が放たれ、受付の人が持っていた紙に少しづつ何かが刻まれていくのを見た。
光が完全に収まった時、受付のお姉さんは、その内容に絶句する。
「う、嘘でしょ………言葉では表しきれないくらいに………とんでもなく、普通じゃないですか……！」
「「「「「「「……………」」」」」」」
………………………
「す、すごい……見れば見るほど普通ですね………驚くほど普通です。かける言葉も無いくらい……」
…………………
い、いや、これはもしやそういう展開か？ 一見普通に見えるけど特殊スキルがあったりとか…そうだな！？ そうに違いない！
「………いやぁ分かってたよ、そんな事だろうとは思ってたわぁ〜……うーん、でもなんであんなにド派手な演出があったんだろうなぁ〜〜？」
受付嬢の方を見てみる。
チラッ
再度みる。
チラッ
「…………っ！」
………きた！ 顔面蒼白だぞ！？ やっぱり凄い特殊能力が………！
「あ、あれ？ ………嘘…今の衝撃で水晶にヒビが……そ、そんな、こんなスキルも持ってない冒険者を解析しただけなのに…………」
……うわぁ……マジで何もないっぽいぞ……ヤバいな、これ弁償展開じゃん、逃げよ……
するとレオナが俺を止めようとして励ますように話しかけてきた。
「あぁ！ ちょっと！ ……いや、そんなに落ち込まなくても…ほら、私だって君と同じ『ゴミ』だからさ、パーティ組みやすいよ？」
おぉう！？
「はぁ〜！？ いやいやおいおいレオナ、俺が普通だって分かった瞬間にゴミ呼ばわりとは、いい度胸してんなぁ！」
「えぇ！？ あぁ！ いや！ 違うんだよ！？ そういうことじゃなくてさ！ 冒険者はランク分けされてて、私たち駆け出しは『ゴミ』って呼ぶ習慣があるだけ！」
「なおさらタチ悪りぃじゃん！？ アレだな！？ 合法的に他人を侮辱するために上の奴らが勝手に決めたんだな！」
「お、落ち着いてください！ とりあえず弁償は特例って事で大丈夫ですよ！ これ以上騒がれると本当にお偉いさん達に聞こえてしまいます！」
チッ……クソがよぉ……
「はぁぁ〜〜………まぁいいや……」
あ〜〜でもよく考えたらステータスにのるチート能力とは限らないからちゃんと存在してる……はず！…………なのか？ そもそもあの神が嘘をついてる可能性もある気がしてきた………
「……あ、次は私ね」
「あ、ちょっと待っててくださいね、今予備をとってきますから……」
俺は女神に対する不信感を募らせながら、受付の人の背中を見送ったのだった。
うぅぅぅぅぅ〜〜ん…地味にただただ歩いてるところ書くのってムズイんすねぇぇー…
何にも特筆すべき出来事がないから、ついつい内容のないことばっかり書いてしまう…
