第6話 しゅらっしゅら
あ〜〜〜〜〜やばみ。
チュン、チュン…………
あぁ、いい朝だ………雀のさえずりが耳に心地いい………ふむ………俺は今日、女の子の部屋で夜を明かしたわけか…………は!? これはアレか!? 朝チュンってやつか!? 実は俺の横には女の子があられもない姿で………
身体を起こし、視線を横へ向けると、ベッドにはぐっちゃぐちゃの布団の中で寝転がるパジャマのシアンの姿が。とても幸せそうに口元を綻ばせて寝ている。
………いや、ある意味あられもない姿かもしれない…てかそもそもここベッドですらないし、床だし………起きたら実はベッドでしたぁ〜とかならどれだけ良かったことか………はは、女の子と二人で夜を過ごしておいて何も無かった………と。
少し部屋の中を見回してみると、机には無造作にナイフが置かれている。
いや、俺がヘタれたわけじゃない………な。そうだ、そういう事にしておこう……いやぁあぶなかった………あのナイフがなかったら確実に襲ってましたね…そういえば昨日金をどうにかすると言った手前、さっさと調達してこないとなぁ………
俺はシアンがまだ寝ているのを確認し、彼女に再び布団を掛けてから、彼女の部屋を発ったのであった。
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突然だが、俺は今、留置所にいる。
ん? デジャブ? フフフ、ネタ切れを心配してくれてありがとう! だが今回は前回とは違う! なんせ、今回おれはそう! 今回こそは本当に何もしていない。誰も脅してなんて無いからな………!
「くっ………私はお前になんて屈しないぞ………!」
勝手に脅されてるやつはいるけど。
「えぇ〜なになに、いきなり何のプレイ始めたの?」
そう、俺がいるのは警察署にある留置所。昨日襲ってきて、今朝釈放されたサキュバスたちとなにかのプレイをしている………いや、何のプレイだ、これほんとに……
「いやいや、わざわざ留置所まで来たんだ、鎖に繋がれた女を見て興奮したのではないか、と思ってねぇ」
「いや、そういうサービス要らないっすよまじで………警官に脅してると思われたらどうするんですか…」
「えぇ〜ホントにいらないのぉ? にしてはちょっと息が荒くない?」
「いや全然荒くないっすからね……てか鎖になんて繋がれてなかったでしょ?」
「まぁ残念ながら未遂だったわけだ……鎖までは繋がらなかったよ、まぁこの手のプレイを要求してくる客は後を絶たないから………」
………お、おう………でも、俺が今からしようとしてる事も似たような事なんだがな……
「あ、ちなみに警察官に見られる心配はないよ? なんてったってアイツ今もあの調子だし………」
彼女の視線の先には例の黒髪メガネの姿が。何やら心ここにあらずな様子で何もない空間に向かって言葉を発している。
「あぁもう! 彼の名前聞き忘れたぁ! どうしたらいいのぉ!? あぁ、嘘、なにこの気持ち、もしかして………恋!?」
…………………………見なかった事にしよ
俺はサキュバスたちの方に向かって確認する。
「あの………その口ぶりだとサキュバスだ、って事はバレてないんですよね?」
「え? いやまぁそうなんだが………どうかしたのかい?」
俺は笑いながら、彼女たちにしか聞こえないように耳元に口を近づけた。
「……俺、あなた達がサキュバスだって知ってるわけですよ………」
それを聞いた彼女はピクリと眉を動かした。
「……え、ちょっと、もしかして君ホントに………」
「………知られたくなかったら………」
ごくり、と彼女達の喉が鳴る。
「お金ください」
俺は静かにひれ伏した。
「「「「…………………」」」」
「あぁもう! ホントに何なのよこの感情! 止められない! 立ち止まってる場合じゃないわ! 早く彼を見つけないと!」
いろんな意味で重い沈黙が留置所に下りている。誰かさんはどこかへ 走っていった。俺はそれでも静かに頭を地面につけ続けた…………なぜかもう一人、この場にいる事に気付かずに。
「「「…………………」」」
「ねぇ、君、そんなにお金無いの?」
「なっ!?」
「うぇ!?」
「うみょぉ!?」
そこには、何故かレオナちゃんの姿が。
「な、なんでこんな所にいるんだよ!」
「え、いやその………昨日のこと忘れた? ほら、あのゲイ二人組に拘束されたから、追跡調査をお願いしようと………」
「あぁ………そんなことなら、そこに警官が居たんだけど………」
「あぁ……もしかして女性の方? にしては声が低かったような………」
「いや、大丈夫、なんでもないよ……てゆうかいつからそこに………」
「お姉さんたちがサキュバスだってとこからだけど………」
……いや、よく黒髪眼鏡に気付かなかったな!? 「あなたしか私の視界に入らないの……」みたいな事言われたら俺軽く死んじゃう!
「君しか目に入らなかったよ………あまりに憐れで」
うわぁぁ……10回は死ねる………
「てか俺の思考読んだ!? バカな……」
「……は? 何? なんか気持ち悪い顔してたけど」
「うわぁ〜辛辣ぅ〜……てかレオナがバラさないって保証が出来ないんだから俺の完璧交渉が決裂しちゃうじゃん?」
「えぇえぇええ〜……今のどこが交渉だったの!? どう考えても脅s……」
「……フッ…分かってないなぁ…バレなきゃ犯罪じゃな…」
……おっと俺今シアンと同じことしようとしてたぞ……俺はアホじゃないんだ!
「まぁまぁ、そんな事はいいだろう、でもやっぱり慰謝料は必要だと思うわけよ」
「えぇ……どうでもいいの……」
それを聞いたサキュバス二人は思ったよりも色良い反応を見せてくれる。
「まぁ金出さないとアンタが黙っててくれないから結局出さないといけないんだしねぇ……」
「まぁでもぉ〜その代わりに条件もあるよぉ〜?」
そう言って俺を手招きしてきた。俺は彼女達の口元に耳を近づけると……
ふーーー
「ほわぁ!」
息を吹きかけてきた。……あ、やっべ、興奮してきた……じゃないわ!
クソッ! なんて使い古されたお色気描写なんだ! 童貞をからかうな!
「ねぇ……またアタシ達の所に遊びに来てくれるなら………」
「……その要求、のんであげなくもないよ?」
うぉ? ……この感じからして、次はもしやちゃんと………
それを聞いた俺は彼女達から離れて、はっきり伝える。
「…………分かりました。では、20万で手を打ちましょう」
「ぇ………そんだけでいいの?」
「構いません」
フフフ……ここで恩を売って良いサービスを受けるんだ………!
彼女たちはカバンから財布を取り出し、10万EDずつ俺に渡した。
「…………よし」
俺はその金片手に、署を出る。
ふふっ……やっとだ……ついに俺の異世界英雄譚にが始まる……! なんか色々あったけど……!
「あ、一緒に行こ?」
おお!? 今の超かわいい……あ、あれ?
「ちょ、ちょっと待って……なんで付いてくるの?」
「いやなんでって………私、冒険者だよ?」
「えぇ!? ま、まじで!?」
「ま、まぁ始めたばっかりなんだけどね……」
そうかぁ〜冒険者だったかぁ〜
「ホントは昨日、自分の身は自分で守らなきゃいけなかったはずなんだけど……恐怖で足がね……」
「いやまぁしょうがないよ…あ、でもごめんね? 一緒には行けないんだ……」
「……え? な、なんで?」
………言えねぇ〜! 「実はオンナの家に行かないといけないんだっ♪」とか言った日には俺の理想のハーレムライフが台無しになってしまう!
「……いや………その、色々あるんだよ」
「……え、なに今の間………」
「じゃあそういう事で!」
俺はそう残してシアンの家に向かう。
いやぁ良かった良かった、もう少し脱出が遅れていたら洗いざらい吐かなきゃいけなくなる所だったよ……ハハハ…こんな所で修羅ってたらバラ色ハッピー英雄生活なんて出来ないからな、俺は賢い主人公様なのさ!
俺はそそくさとシアンの部屋に帰ってくると、ウッキウキでドアノブを回した。
「ただいま〜、帰ったぞ〜、シアン」
「ちょ、遅いわよ! どこ行ってた、の………よ……」
「……………?」
「…………ねぇ」
「「そのオンナ、誰?」」
アレェぇぇぇぇっぇぇぇぇぇ早速修羅場になってるうぅぅぅ! なんで!? なんでレオナまでこんなところにいるの!?
「ちょちょちょ、レオナ!? 何でいんの!? 俺たちの愛の巣に何しに来たんだ!」
ふふふ、ここに来ての「本命はシアンちゃん」発言!フハハ、ハハハハハ! こんなこともあろうかとさまざまな妄想を巡らせた結果たどり着いたプランB! その名も「早くアタックして来ないと他の女に靡いちゃうぞ!」作戦! …………ククク…なんて天才的な発想なんだ! こんなに臨機応変に対応出来てしまうなんて!
「嘘……カノジョ持ちだったの!? ……最初っから可能性なんて無かったんだね……昨日なんて動けない私に無理矢理しようとしてきたくせに…!(涙目)」
「ぇ…………クズ(ゴミを見る目)」
うわぁぁ両方からの好感度が下がったぁあぁっぁぁ! シアンなんてあまりの俺のゲスさに、見てられない、みたいな顔じゃないか!
「いや勘違いすんなよ! 彼女じゃないからな! そ、それよりも! どうしてここに居るんだよ!」
「いやだってわたし……盗賊だよ?」
「………ん? え、ちょっと、この人襲おうとしてたの否定しないって……」
くそっシアンのやつ、なんで変なところで勘がいいんだ! アホじゃなかったのか!? いや、それよりも…
ふぅぅぅぅぅ〜〜〜〜……出来るだけ爽やかに……
「まぁ、落ち着こう、喧嘩は良くないよっ!」
どうよ、この圧倒的イケメンオーラは!
「「………………はぁ? 元凶が何言ってんの?」」
わぁ〜さらに険しい顔してる……これはあかんヤツや……言えばいうほど悪化する……
「そ、それよりレオナって盗賊だったのか………」
「へーアンタが? 見えないわね……」
「あはは………」
「まぁ………とりあえずギルドいこうよ」
「う、うん……」
「分かったわよ…」
そう言いつつも、二人は互いに不服そうに横目に睨み合っている。
はぁ……いや、シアンはアレだけどさ、レオナは、ちょっと…………チョロインww
ギロッ
あ、なんか今睨まれた気がする………
俺は何とか彼女たちの視線をいなしながら、ギルドへ向かった。
………いや、いなせてなかったけど
ん? レオナのキャラがブレッブレ? 主人公の口調もブレッブレ? ハハッ……はっ……は……