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第5話 やっと転生初日が終わる………

あれ?おかしい………想定の2倍くらいの分量になってる………はい、2つに分ければ良かったですね。

 はぁ…はぁっ…危なかったぁ~………あの金髪のせいでもう少しで最悪の性体験を迎えてしまうところだった……ふぅ……さてと……ここは……

 歩きながらゆっくりと見まわしてみる。日はすっかり沈んでいるのに、かなり周りが明るく感じられる。はっきり言ってこれでもか、というくらいに歓楽街だ。この世界に電気などないはずなのに、いたるところにピンクや、橙色のネオンが輝いている。魔法を使っているのだろうか。そもそも魔法があるかはわからないが、そう考える他ない。

少し目線を動かせば、30そこそこのおっさんが酔いつぶれて道の端で寝ている。よく見れば、嘔吐もしていたようだ。じっと観察していると、おじさんの後ろから筋骨隆々な男が二人出てきて、何やら、ヒソヒソと話し合っている。


………あんまりいい事じゃぁなさようだよな。


いや、十中八九良くない事だろう。その後、何か決まったのか、そのおっさんを担ぎ上げ、近くの風俗店らしきところの中へ連れて行った。


 あぁ…ご愁傷様、ありゃぁあれだな、酒に酔って無償で従業員に行為を強要した、っつってあることないことでっちあげられて、金取られるって所かなぁ。まぁほんとに無実かはわかんねぇけど………てか、始まりの町のくせに結構治安悪いな……いや、まさかこれでも治安のいい方…とか?

 はぁ…まぁでもさっきのおっさんを助けようとは思えねぇなぁ…見るからに危険だし………てか大抵の人間はこんな面倒なことに自ら絡んでいこうとしないっしょ?


 俺は犠牲になった男の去っていった店を見ながら、酒場の方に再び戻ろうと、来た道を振り返って……………


 あれ? さっきこんなところにバーなんてあったっけ…………いや、気のせいか? ん? さっきはゴミ箱空だった気がするのに、今は満タンな気もしてきた……視線を感じるような気もするけど……いや、これはあれか? 一つ気になったら何故か関係ないものまで紐づけてしまうやつかな?……だったらいいが。


 そう思って、一応そのまま突き進んでみる。


 ………………………………それにしても、この一角ちょっと下品だよな。とんでもなく露出度の高い女の人ばかりなのが何というか、こう………刺激が強い、というか……直視しづらい。


 そんなことを考えながらも、キャッチの女の子達を流しみる。一人の20代前半くらいだと思われる、ピンクの髪を少し巻いた女の子が目に入った。水色のネグリジェに身を包んでいる。手足は傷もシミも何一つ無い、綺麗な桃色。彼女もこちらの視線に気づき、手を振ってくる。


 俺は思わず頰を赤らめて視線を外してしまう。


 クソッ童貞かよ………! いや、実際そうなんだけどさぁ…!


 視線を移動した先には、少しお姉さん、といった感じの赤褐色の髪をストレートにした女性の姿が。若い男を連れて近くの宿に入っていく。彼女の着ている服は……見ている者をすぐにその気にさせてしまう露出量だ。スカートからは歩くだけで揺れてしまっている太ももが露わになっている。そのまま彼女が見えなくなるまで見送った。

 よっしゃぁ! いや、喜んでいいのか分からないけど……まぁでも、あれかな? さっきのお姉さんは露骨にアレな感じだったけど、キャッチの子の方は本来そういう目的で立ってる訳じゃないっぽいってゆーか………


 そこで俺は、あまりに長い距離を歩けてしまっている事に気がついた。


 おかしい……もうすぐこの一角を抜けられてもおかしくないのに………………っ……


 そこで俺は、さっきから感じていた視線の方へ顔を向けてみる。


 気のせいじゃないか、って思ってたけどどうやら本当に見られてたな……てことはやっぱり俺、ここに迷い込んで………あ、あれ?


 そこに居たのは、街中にはあまり見かけない、珍しい銀髪の女性。


 あれ、コイツ……俺がおばさんにナンパしてる時に会った……

………ちょっと待て、何でこんな所にいるんだ? どう見ても、キャッチをしているようでもないし………え、まさかさっきのエロいお姉さんと同じ……いや、嘘でしょ?


 しばらく観察してみても、やはり迷い込んだ、という感じではない……どころか、近くにいた男から話しかけられている。


話しかけてる雰囲気的になんか、知り合い………あれ? あの男の人………


「あれ? シアンちゃん久しぶり〜元気だったかい? ……ねぇ、今日こそは相手してくんない?」

「………」

「まぁ無理に、とは言わないけどさぁ、お金なら多めに出せるよ?」


そう言って男は懐からパンパンに膨らんだ財布を出す。


「……っ!?」

「ほら、今日はこんなに貯めてきたんだぁ」

「………すいません、今日は先客がいるので………」

「ふーん……そ……」


そう言われた男は、潔く街中へと戻っていった。


 ……アイツ、あのベテラン冒険者四人組のうちの一人の優男っぽいヤツじゃ…まぁ今はそんなことはいいか………ハハッ………銀髪の子、あんな露骨に俺のこと嫌ってたのに…そーゆー………へー……

……あーあ、純情そうだったのになぁ…………無駄にリアルで傷つくよ………だけど……何ていうか、ちょっと………エロいよな。ショック9割、興奮1割、みたいな?


 その子もこちらに気づかれたのを悟ったらしく、俯きつつも、気まずそうにチラチラとこちらを伺ってくる。


 あぁ………先入観無しに見れば、ちょっと可愛い仕草なのになぁ……大人しそうなのに、裏では……っ! やべ、さらに興奮してきた。クソっ! これ以上見てると我慢できなくなってくる………ムフフフ、俺を落胆させた罰だ! 舐め回すように見てやる! 存分に恥ずかしがった末に逃げ出すがいい!


髪の毛はかなり短めの銀髪をしている。深緑で、肩にちょうど髪先が触れているレオナよりもさらに短い。俺に見られている、と気付いている彼女は、俯き、その長い前髪で顔を隠してしまう。チラリと見えた目元は、意外にキリッとしていて、凛々しい印象を抱かせる。それでも、銀色の髪以外、これといった特徴……………


!?!?


 おおおおおおお〜………胸……………胸ですわぁ〜……おほ、でけぇ………胸が大きすぎてお腹がでちゃう、なんて事がないように白のTシャツも長めで、扇情的になり過ぎないようにしている…………が! 逆に清楚な雰囲気なのに胸が大きいのが、本人の、清楚そうなのに実は………感を強調してしまっていて、更にエロい……おおおおお〜なんと! よく見ると地味にそれでもシャツの丈が短いせいでお腹の肌色が見えそうで見えない! いいぞ! たぎってくるぜ! 素晴らしいチラリズムだ!

………おっと、俺の視線をモロに感じて、涙目でプルプルしていらっしゃる。必死にシャツを伸ばそうと、両手でギュッと端を握っていて………ぐぉぉぉぉぉお! や、ヤバすぎる! とてつもないエロス! 見てはいけないものを見てしまったような気になってきた…おおおお……更に顔も真っ赤になってきた……そう! そうだ! もっと恥ずかしがるんだ、膝もプルッップル震わせて、嗚咽しながら俺を見ろぉぉ!


 バスンッ!


 !? うぉっ………おぁ?


「ちょっとそこの兄ちゃん、なぁにウチらの後輩ジロジロ見てくれてんのさぁ、さすがにそれは……」

「ほんっと、もうめっちゃくちゃイヤらしい目で見てたじゃん? 頭の中でどんな想像してたのかなぁ〜♡」


 そこに居たのは二人の女性、というかさっきのエロエロお姉さんとキャッチの子だった。


「ねぇ、もしかしてココに来るのはは初めてかい?」

「い、いやまぁそうですけど…あれ、さっきのお客さんは……てゆーか『ウチらの後輩』って、そっちのお姉さんは別の店のキャッチをしてるだけじゃなかったんですか?」

「さっきの客なら()()()()()()()ぞ、それにコイツは……」

「んー? あーまぁ普通はキャッチだと思うじゃん? だからねぇーそうやってそうゆう人じゃない、と思って油断してたら………気づかないうちに食べられちゃうよ?」


 スッ……


 そう言って彼女は俺のズボンの左側前ポケットに手を入れてきた。


「ちょ、まっ!?」

「おいおい、どうして待たないといけないのさぁ…そっちもその気でここに来たんだろう?」


 そう言ってこっちのお姉さんも逆側から脇を固めてきた。


 うは、柔らか………じゃないわ! ヤバイ! 逃げらんない! それになんかこのまま身を任せるとロクな事にならない気がする! クソぉ! この感触を堪能できないのはつらいけどしょうがない! 逃げ…させてくれなさそうだなぁ! コイツらなんか目がマジなんだけど!


「こ、興奮してなんかしてない! だからさっさと離せ!」

「えぇ〜どこらへんがコーフンしてないってぇ〜?……ほらぁこーんなに………」


 左ポケットの中から股の辺りをまさぐられる。


 ぐ、ぐぁぁ! や、ヤバイ!


 すすす…す…………



 ……………あ、あれ? なんか急に手が止まって………もうちょっとやってて欲しか……った訳ではないからな!


「……ちょ…ちょっと、ねぇ」

「ん? どうした、もしかして粗チ……」


「この人、お金持ってないんだけど……」


「…………は?」


 ……………あ、やったぁ♪ そういえばそうだった。これはチャンス! ふふふ、これで見逃してもらえ……


「はぁ……しょうがねぇな……」

「残念だけど、これは借金背負わせて一生奴隷かな……この国じゃあ禁止されてるからエルフの国にでも闇ルートで…」

「そうと決まればさっさと連れてかないとな………警察に見つかる前に……」


 うわぁぁ! や、ヤバイぞ! ガチムチに連れてかれたおっさんよりも酷い末路に………!


「うおお! お、おい! そこの銀髪! 見てないでさっさと助けろよ! …………ん? あ、あれ?」


 そこにはさっきまでそこにいた銀髪っ子はいなかった。


「ありゃりゃ、シアンどっか行っちゃったね」


 クソぉ、あんなエロい目で見なければ良かった……


「あ、てゆーかさぁ〜……さっき私見てたとき、すぐに目を逸らしちゃったけど……もしかして童貞? ……私、大好物なんだぁ〜♡」

「いやいや、もしかしなくてもコイツは普通に経験ナシ、だろ? さっきから反応がウブでウブで……ショタかよ………………まさかとは思うが、そんなナリで実はまだ十代前半、とかじゃないよねぇ?」

「いや、んなわけねぇだろ……」


 俺はそう言いつつ、逃げ道を模索してみる。


「あ、逃げようとしてもムダだからね? それに……道わかんないっしょ? だって君の見てる方向全然違う方向だよ? 」


「お、おい、いいのか? ……俺にそんな易々とヒント与えちまっても」

「ははっ……何の問題もないさ……だって私たちは………」


 ボフッ


 彼女たちが両脇から俺の顔を胸で埋めてきた。


「サキュバスだし」

「サキュバスだからな」


 俺は彼女たちから漂う甘い香りに、唐突な眠気を感じ、意識が遠のくのを意識しながら、なんとも言えない幸福感を感じていた。


 あ、このまま色々出来るんなら、もう奴隷でいいかも………


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



意識がだんだんと明瞭になっていく。


「……い! …………くぅ………」

「……ぁ! ………えの……き……」

「…し……ー! ……ら、……かん……すぅ!」


 ぅ……ぁ……あれ? なんか聞こえる……てかここどこ……


 今目の前に二人の女性がいるのだ、ということが何となく感じられるくらいの明るさの光にしか照らされていない部屋の中。密閉された空間の中を充満するほんのり甘い匂い。どうやら、()()()()()()をする場所らしい。


「えぇ〜そんなのありえなぁい!」

「おいふざけんじゃねえ! アンタがやると私に回ってくる前に気絶しちまうだろ!?」

「いやいや、いつもはそんなんじゃないし!」

「今回は普通とは違うだろう!? 金持ってねぇ上に身分証明するものすらないんだ! 制限なしにやりたい放題じゃないか!」


 おぉ~まるで俺を取り合っているようではないか! こ、これはまさか、あれか? ハーレムってやつでは? いやぁまさか長年の夢がこんな時に叶ってしまうなんて……


「………お?」

「あ、起きたんだぁ~♡ ねぇねぇ……ご飯にする? お風呂にする? それともぉ……わ、た、し♡?」

「まぁ安心しな……こいつの好きなようにはさせないさ………最初はゆっくりやってやる、さぁ…こっちへ…」


 おお~やばいな、これは…なんて理想的なシチュエーション…そういえば、このまま身を任せてしまえば、奴隷になってしまうんだったか…まぁいっか……いや、待てよ? これ、たとえそういう事をしなくても、でっち上げでどうにかされてしまうんじゃ………………あ。これ、やばいな、詰んでる。


「さぁ………」

「いや、こっちだ………」


 そうこうしている間にも、彼女たちは俺にどんどん迫ってくる。距離も近くなり、否が応でも彼女たちのすべすべの足や、豊満な胸が眼前にあるのだ、ということを理解させられる。


 まぁでも………どうせ詰んでるんだっつってんなら、ここで流れに身を任せても、いいだろ………それにサキュバスだぜ? ぜってぇ最高だわ…


 そして彼女たちに身を任せようと目を閉じ、五感を研ぎ澄ます。初めて感じる女性の匂い、肌に触れる感覚、そして唇に感じる感覚にも備える。そして彼女たちの息遣いにも気を配ろうと耳を澄ませる。どんな香りがするのだろうか、実は少し汗臭かったりするのだろうか、唇はやはり柔らかかったりするのだろうか、それとも少し乾燥していたりするものだろうか。どんな声で喘ぐのだろうか、意外とそうでもなかったりするのだろうか………そんな、期待と恐れのないまぜになった感覚に心を動かされながらも、ついにスカートを下ろす音が聞こえてきて………………



 ………………………同時におじさんの矯声も聞こえてきた。


「うわぁぁぁっ! あぁぁ! もうダメだ! これ以上は………! あぁ! あぁぁぁ~!」



「「「………………………………」」」


………………


「隣の部屋から、なんか聞こえ…………ないね、気のせいでしょ」


「………ハハハ………最近耳の調子が悪いようだ………さ、続きだ」


「いやいやいやいやいや、それはないでしょ!? こんなムードでどうしろと!?」


 あぁもうなんか冷めちまったんだけど! こんな状況での初体験とか奴隷と釣り合わねぇし!


 俺はそこで、この場所の壁が思ったよりも薄いことに気付く。なんせ隣のおっさんの声が丸聞こえなのだ。そこで俺は残る体力を振り絞って叫んだ。


「誰かぁぁぁぁぁぁぁっあっぁぁぁぁっぁ!!!!!」


「こ、コイツ! 隣に人がいると分かった途端に叫びやがって!」

「ちょ、ちょっと! グズグズしないで! おっさんを伝って警察に連絡がいく前に逃げないと………!」


そこへ若い男のものと思われる声が外から聞こえてきた。


「いたぞぉぉ! 中から叫び声が聞こえる!」


ドッ! ドン! ギシ! ドン!


廊下側から誰かが猛烈な勢いで、床が軋むのにも構わず走ってくる。


「な!? まさかもう警察が!?」

「えぇえ!? ちょ、どうすんのよぉ! 眠らせる!? それしか無い!?」

「あぁ、サキュバスだとバレるかもしれんが、多分それしか無い!」


なんか知らないけど通報してくれてありがとう、嬌声おじさん! 後で全力で謝罪と感謝を………


バアァァン!


そして、ついに扉が開け放たれた! あまりに強い勢いであったため、折り返してきて再び閉まってしまう。そこに立っていたのは、急いで走って来たのであろう、肩から湯気が上がるほどに上気した体で、顔を真っ赤にして怒りを露わにする…………


………バスローブを纏っただけのおじさん、もとい、例のベテラン冒険者四人組の男性陣のもう一人、髭筋肉の方でもあった。


「お前らぁぁぁ! さっきの叫び声は何だぁぁ! 俺たちの逢瀬を邪魔しやがって………! これでもくらえぇぇ! ライトニンg」


バアァァン!


そこへ更に闖入者が現れた。


「警察だぁぁ! 動、く………なっ…良い、体だ……」


………例の鉄パイプを持った、黒髪眼鏡のゲイであった。そしてその視線はなぜかおじさんに釘付けになっている。


「「………………………」」


サキュバスたちは突然の出来事に何が何だか分からなくなっているらしい。うん、気持ちは分かるよ。


俺を除けば最も状況を理解できているであろう、黒髪警察が真っ先に口を開いた。


「…………署までご同行願えますか………? 絶対に逃げられない所で話をしましょう」


そう言って彼が手を差し伸べたのは……………驚きでバスローブがはだけてしまっているおじさん。


う〜わぁぁぁ〜全然理解してないよコイツ………というか何か別の意図がないか? ………てかヤバイな、サキュバスが犯人のように扱われて無いと非常に困るんだが………


見れば、お姉さん達はまだ状況を飲み込めていない様子。


ふぅ………混乱に乗じてズラかりますか……


俺は四人を置いて静かに部屋を出る。


建物を出ようと出口に向かう途中、隣の部屋を通った際に、筋肉おじさんのパーティーメンバーである、ツインテールの子が布団に身を包んで彼が戻るのを待っている様子が垣間見えた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


…………さて、道が分からない。ここが何処かもさっぱり分からない。どうすんのよこれ………そういえばさっきは迷い込んだ、って感じだったんだけど、アレはどういうことだろうか。明らかに疑うべきは魔法、なんだがな…………あのおっさんも、ライトニング、的なこと言おうとしてたし、確実に魔法はあると思うんだけど………


と、アテもなく歩いていると、


ぐいっ……


突然横から手を引かれる。


「おぁ!?」

「………ちょっとこっち来なさい!」


そう言って俺の手を引いて行くのは、まさかの銀髪シアンちゃんであった。


「え……!? ちょっ……!」

「いいから………!」


そして俺の手を掴んだまま、ズンズンと歓楽街の裏道らしき通りを進んでいき………


………まじか………


「出られた…………」


俺たちはいつのまにか住宅街の通りに戻ってきていた。


「ふんっ! 当然よ!」

「………っていうか、お前、そんな喋り方だったのか………」

「まぁ仕事をしてる時は別なのだけどね!」

「仕事、ねぇ………そういえば今日は仕事は大丈夫なのか? 『先客』とやらが居たはずだろ?」

「っ! …………え、えぇ、大丈夫よ………し、仕方ないじゃない! 私が警察署まで行って、アンタ事を知らせてやったんだから………」


あ、じゃあすっぽかしたのね………


 その時、危機を脱したからか、今までに何も食べていなかった事に気付いた。


「なぁ…………飯奢ってくんね?」

「っ………」


すると、彼女は顔を真っ赤にして、涙を目元にたたえて、震え始めた。


「あっ…………いや、流石にダメだよな……送ってもらった上に飯までって………」

「………じゃあさ、うち………来ない?」

「え………?」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 俺は今、女の子と一緒にその子の家に向かっている。隣では、何かぶつぶつ言いながら、彼女が歩いている。


「………なぁ、本当に良かったのか? こういっちゃなんだが、俺、結構クズだぜ? 女の子の家に上がることが何を意味するのか、理解できないわけないだろ………?」


「っ………別にいいわよ……」


 ………………………………え?


「…………いやいやいくら男慣れしてる、とは言ってもまだあって間もないやつとそういうのは………」


 それを聞いた彼女は、ひどく驚いた様子で、いま自らが何を言ったのか、やっと理解した様子である。


「い、いやいや、いや、自分の先輩がアンタに迷惑かけたんだったら、お詫びしないといけないかなぁ…って思っただけなんだから! ご飯ぐらいはあげるわよ! 感謝することね!」


 そう言った彼女だったが、やはりどこかぎこちない。


「………も、もしかして、引いた? 会って早々肉体関係まで持ち込むってやっぱ異常だと思う?」


 正直言うと、ちょっと興奮する………まぁでも


「そういう仕事してる人なんだなって思ってたら割り切れるけど、普通の子だと思ってたんだったらショックかも………」


「そ、そっか………」


 彼女はさっきの言動を後悔しているのか、俯いて考え込んでしまう。


「ま、まぁでもそういうことするのはそっちの親御さんにも悪………」


「いないわよ………」


 ぇ………


「居たらこんな仕事してないし……」

「あぁいや………そ、そっか」


 踏み込んじゃいけない話題だったかもしれないな………まぁ、こういう世界に住んでるんだったら、この歳で両親が他界してても何らおかしくない事なのかもしれないな………


「そろそろ着くわよ」

「………うお……」


 見えてきたのは、お世辞にも綺麗、とは言い難いボロ宿のような一階建ての集合木造住宅。まぁ、と言ってもこの世界の家は基本的に木造なのだが。それでも、ボロいものはボロい。中に入ってみても、まったくもって人の住んでいる気配がなく、どうやら、住んでいるのは彼女だけらしい。


「ここの大家とは雇い主伝いに懇意にしてて、もともと壊す予定だった建物を残して貸し出してくれたのよ」

「へー…」


「ふふっ………聞いて驚きなさい! なんと家賃は………まさかのタダよ!」


「………」


 ………………大丈夫かコイツ。実は騙されてたりしないよな?


「一応聞くが、ここの大家は男じゃないよな?」

「……え? いきなり何を…………っ! な、なに考えてんのよ! 女よ女! よくわかんないけど、うちの大家が貸せって言ったら、すっごい慌てて地面に頭こすりつけてたんだから!」

「えぇぇ………それ脅しっていうんじゃ……」


 彼女は娼婦とは思えないほどの慌てぶりで俺を攻めてきた。


「え? バレてないんだから犯罪じゃないわよね?」


 うぉぉぉ? こ、コイツ……! 実は馬鹿なのか? 今目の前の男にめちゃくちゃ喋ってるくせにバレてないって………


「そんなことより、ほら、さっさと部屋に入りなさいよ」


 見れば、いつの間にか彼女の部屋の前についていたようだ。


「んじゃ、失礼しまぁ~………」


 そう言ってドアノブをつかんで捻ろうと………


「あ!!!!! ちょっと待って!」


して、腕をつかまれた。


「ちょちょちょ、ちょっとだけ待ってて? か、片付けしてないから………見ちゃいけないからね? だめだからね? 絶対よ!」


 そう言って引っ込んでいった。


……へー思ったよりもガサツなのかな?…………………………というかこれはフリか? フリだよな? どっかのリアクション芸と同じだよな? よし、バレないように覗こう…


 俺は静かにドアを少しだけ開け、中の様子をうかがう………すると、そこにいたのは自らの羽毛でもって(はた)を織る鶴………ではなく、ドアの真ん前でまさに今片付け終わったかのように直立不動で立つ彼女であった。


「………覗いちゃだめだって言ったわよね? ………クズ」

「………は、はは…だ、大丈夫、何も見てない…っていうか…妙に早いね」

「……く、靴下が転がってただけよ」

「………へ、へー」


 ………ほんとか? そんな慌て方じゃあなかった気が………


「と、とにかく! そこら辺に座ってなさいな! ご飯作るから!」

「………」


「な、なぁ………お前さっきから反応が妙に初心(うぶ)なんだが………ほんとに風俗zy…」



「………………処女よ………あと『お前』じゃなくて、シアン」


 ボソッと彼女が呟いた。


 ………え?



………聞き間違い………じゃないよな、さすがに


「ちょ、ちょっと待て、だって完全にあそこの地理理解してたよな?」

「そりゃあこれでも娼婦歴2年なんだもの」

「いやいやいやいやいや、処女だろ? それで歴2年ってなんだよ………詐欺か?」

「だってしょうがないじゃない………」

「いやでも…………えぇ?」

「………嘘じゃないわよ…………」


 彼女、シアンは俯きながらも何かを決意したかのように語り始めた。


「最初にこの業界に入ったのは、母が原因なのよ………」

「………え?」

「お母さんが私のいる店のオーナーと話をして、私は働くことが決まったの………そのあと、いつの間にか母はいなくなってて………」

「そ、そうか………」

「オーナーは私には素質がある、って言ってたけど………」


 まぁこんな銀髪、目を引かないわけないもんな…


「しばらくの間は、先輩たちが、乱暴をしない優しいお客さんたちを見繕ってはくれたんだけど、毎回いざ!ってなったら、なんか違うな………って感じて…思い切って一人で声がけもしてみたんだけどうまくいかなくて………今日話しかけられた方もそのうちの一人なのよ」


 ん? あれか、あのベテランパーティーの優男風のヤツのことか。


「だからね? 最初にあんたを見たときに思ったのよ」

「………え?」


 そこでなんで俺が出てくるんだ?


「人妻をナンパするようなゲスい男なら、無理やりにでも行為に及んできて、私も踏ん切りがつくかもしれない………って」

「うわぁー全然褒めてねぇー、シアンの中でのオレ、どんなイメージ……」


「…だから道に迷ませたのよ………」


「………なんだって?」

「あんたを迷わせて、逃がさないようにしようと思ったの! まぁ、そのせいでこんなことになったから負い目を感じてるのよ……『先客』ってのはアンタのことよ」

「まじかよ…」


 あれ? てか、てことは………


「まぁ私は先輩二人を警察に売ったわけだし、十中八九クビね…あの人たち大丈夫かな……サキュバスだってバレてたら今頃………私もこの部屋追い出されるだろうし……」


 そう言ってシアンは、雑炊を差し出してきた。


「ごめんなさい、こんなのしかないけど…」


 そう言いつつも、その雑炊は、なぜかとても心にしみる味がした。何故だろう………こんなにも心を動かす飯は久しぶりな気が………あぁ、なるほど


「すごく美味しいよ………腹が減ってたから」

「…………っ!」


あ、やっべ……プルプルし始めたぞ……うーん………


「いや、美味しいよ?」

「……お、美味しいって言えばいいってもんじゃ無いのよ……もう嫌味にしか聞こえない……」


俺が雑炊を食べていると、彼女は何かを後ろ手に隠してベッドに横になった。


「……………」

「……………」


………え? これはどういう事だ? その、完全にそういう意図を感じるんだが………まさか、コイツまだ娼婦を別の雇い主の元で続けようとしてるのか?


俺たちの間にはしばらく沈黙が降りていた。俺はこの状況になっても引かない彼女に、俺は決意を固めた。布団を被っているシアンは、やはり恐怖があるのか、身体が強張っていて、汗が吹き出している。そして俺は布団に手をかけ、そんな彼女に手を…………かけようとして、彼女が何を持っているのか理解した。


うわぁぁぁ! ちょ、こいつめっちゃナイフ握ってんですけどぉぉ!


「うぉぉおい! 何だよ! 刺すつもりだったのか!?」

「ふぇ………!? ち、違うわよ! そんなんじゃ………!」

「いやいや、どこが違うんだ! そんなに嫌なのか!」

「ち、違っ! そういうことじゃ………!」

「…………もういいよ、そんなの………てゆーかさ、さっきから思ってたんだけど」

「…………な、何?」


「魔法使えるんだったら冒険者になればよくね………?」


「…………それがそう簡単な話じゃないのよ……知ってる? 冒険者になるのにはね、10万EDは必要なのよ………?」

「…………」


…………エレクトロニック・ドメスティック・ゴールド…そう言えばそんな通貨単位だったな……


「な、なぁ……俺この国の物価のこと全く分かんないんだよ………ナンセモトモトコノクニジャナカッタシ」

「何で最後だけ片言なのよ………人類の言語は随分前に統一されたのに………」

「………」


おっと、地味に恥ずかしい……


「ちなみに、街で手のひらサイズのパン一つ買おうと思ったら100EDよ」

「………わぉ、出ましたご都合主義……何て分かりやすい親切設計なんだ……」

「な、何よ、ご都合……何?」


「まぁいい……なぁ、金が無いから冒険者になれねぇんだよな? だったらいい考えがあるんだよ……ふふふふふ…」


「絶対ロクなこと考えて無いでしょアンタ………」


俺は食い終わると、警戒するシアンをベッドに残したまま、床に寝転がって夜を明かした。

いやぁ…………まともな回だった………かもしれません

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