第3話 王道序盤展開(笑)
いつも、キリのいい所で終わるようにしてるので、今回はちょっと短めですかねぇ……
「はぁ……」
俺は走り去っていくレオナを見ながら、ため息をついた。いや、つかざるを得なかった、というか。
あのゴミ嫁まじで雑なんだよな………こっからどうすりゃいいんだよ………
そう、今俺は全く道も建物も見たことのない町で一文無しだ。
普通アレだろ? 最初から所持金があったりとか………誰か助けてお礼に仕事紹介されたりとか、宿貸してくれたりとかさ…ほんと、もうすぐ日が沈んじまうぜ?
そう悪態つきながらも、表の通りには人通りが増えてきているのを目にして、とりあえず周りの人の流れに合わせて足を運んでみる。夕方の町並みはどこかタイムスリップでもしたのではないか、と思うほどに中世、という雰囲気が漂っていて、あぁ…ちゃんと異世界なんだな、と見る人が見るとわかるほどに典型的な中世ヨーロッパだ。鉄筋コンクリートなんてあるはずもなく、レンガ造りの建物すら、遠くに視線を動かせばポツポツとみられるか、くらいだ。特に何かの看板がかかってるわけでもないところを見るに、どうやら住宅街のようだ。
俺の周りを歩いている人は洋服を着ていたり、鎧をつけていたり、と様々だ。鎧をつけた20代後半っぽい優男風のヤツの近くにはほかにも似たような恰好の三人の男女が。
あぁ、ありゃあパーティーってやつだよなぁ………たぶん冒険者ってやつですわ、まぁこの世界がいわゆるRPGゲームみたいに魔法があって、ギルドに入って………みたいな世界だったら、の話なんだけどな! ははは、俺はもう気付いたぞ! あのヤンキー清楚系女神が俺を飛ばした場所なんだ…! まともなはずがない!
よく見ると彼の後ろの恰幅のいいひげを生やした別の男は角の生えたイノシシのような動物を肩にしょっている。どこからどう見てもいわゆるモンスターというやつだ。これからそれを換金しに行くのだろうか。
このままついていけばギルドまで行けそうだ………が、俺は騙されないぞ! これはあれだろ、実はついていったらギルドでも何でもなくて、路地裏に入って行って、彼らの爛れた関係を見せつけられる、とかそんなんだろ!? 冒険者の有り余った性欲をぶつけてるんだな!? クソっ死ねばいいのに………あ、でもその後にもついてかないと彼らが換金するであろうギルドのようなところにも行けないのかよ……チッ…滅べよこんなクソ展開………
そうぼやきつつもやはり気配を極力殺しつつ、12、3mほど間をとって尾行する。
「いでよ、秘儀・ソーシャルディスタンス法!」
んー? あれ、そういえばソーシャルディスタンスってなんだっけか………昔歴史の時間にやった気がするんだけどなぁ………つーか前にいるパーティの女性陣二人、両方とも結構色気あるわぁ………片っぽは髪の長いお姉さんって感じの人で、もう一人はツインテールで結構若めだな…うーん…なんかあんまり喋ってないようだし、そこら辺がガチのベテランなんだろうなっていう空気を醸し出してるよなぁ………
そうして俺がぶつぶつ言っている間に、目的地に着いたようだ。そこにあったのは、さきほど街を眺めまわしていた時に見つけた、レンガ造りの建物。看板には「冒険者ギルド」と書かれている。
……………嘘やろ? ………ば、ばかな……普通にギルドにたどり着いてしまった………だと!? っていうか何で字が読めるんだよ! まさかやっぱりご都合主義なのか!? ククっ…いやぁそんなわけないよなぁ…これはきっとあれだな! 上げて落とすタイプのヤツだわ!
俺は覚悟を決めて、その敷居をまたいだ。
さぁ来い! どんなキチガイ設定が来ても、もう何も変には思わないからなぁ!
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そこで目にしたのは、筆舌に尽くしがたいほど、ノーマルな冒険者ギルドであった。
うわぁぁぁああぁぁぁ! めっちゃフツーーーーなんですけど!? えぇ! 手抜きすぎじゃない!? いやいやいやいやいや! おかしいって! だってさっき男二人が盛ってるとこ見ちまったんだぜ!? こんなに普通でいいのか!? ほっとんど言うことないって! ほら、正面にフツーに受付嬢が何人かいてるしさぁ! 入って左側見ると屈強なおっさんたちが寛いでるしさぁ! 正面右手側には「クエスト」って書かれた掲示板があるし! うぅーわぁぁぁ~言えば言うほど普通ですわぁぁぁ~
その時、一人のおじさんが話しかけてきた。
「おいおいそこの兄ちゃん、さっきから何キョロキョロしてんだ? あぁん? 新入りか?」
うわぁぁ最初におっさんに話しかけられる所すら普通だよ! どうなってんの? 世界が急に俺に媚び諂い始めたぞ……!
「あ、ギルドに加入される方はこちらにお願いしまぁ〜す」
受付のお姉さんが俺を呼んでいる。
ふふっ…遂に俺の時代がやって来たんだな! 俺が世界の中心だぜ………!
俺は意気揚々と彼女の元へ歩いて行く。
「登録お願いします!」
「はい、それではまず入会金をお願いします」
……………ですよねぇ〜……いや、うん、分かってたよ、そんな甘々な世界あるわけないじゃん? でもやっぱりワンチャンあるかも……! みたいに思っててさぁ……いやぁ無かったですねぇ〜クソぉ…無駄に現実味あるなぁこの世界。
「あ、あのー? もしかしてお金持ち合わせていらっしゃいませんでしたか?」
彼女が怪訝な顔をしてこちらを伺ってくると、栗色のポニーテールが揺れる。
くっ……! そんな急によそよそしくなられても…
「申し訳ありません。ギルドでは原則ご入会される方には最初にお金を出してもらう形式となっておりまして………」
………
「あ、でもこの町のギルドでは他と違って初心者に優しい、受付や換金の際の手数料が無料、さらに初心者用の武器も1セット無料となっておりまして………」
「あ、いや、そんなに慌ててフォローしなくても良いんですよ?暴れたりなんかしないので」
「そ、そうですか………」
「そりゃそうですよ、なんといってもいつか僕と君が恋に落ちた時にDV彼氏だと思われてはいけませんからね……(イケボ風)」
フッ……と不敵な笑みを浮かべながら俺は爽やかに髪をかきあげてみる。
「……………(ゴミを見る目)」
わぁお! ドン引きだな、ハハッ……眉と唇をヒクつかせていらっしゃる。クソッ……自暴自棄になってナチュラルにクズな言動ばかり…まぁいいや、でも当たり前か、入会金無いとならず者みたいな連中に武器渡す事になるしなぁ……
「まぁでも、お客様方からご依頼を頂く際の、ギルドに対する信用、というのもございまして……」
「……それならしょうがないですかね……」
「ま、まぁここのギルドが良心的なのも国から援助が降りているというだけなのですけどね…」
話を聞く限りホントに「始まりの町」って感じだよな……まぁでも、まともそうなギルドで良かった……おじさんもう泣いちゃうよぉ……いや、おじさんじゃないけど……
「あ、ちなみに入会金は現金、つまりEDで払ってもらうこととなっております」
「?!?!?」
……すぅぅぅ〜〜〜……あれぇぇぇ? なんか今こんなまともな人からは一生聞くことの無さそうな単語が聞こえて来た気がするなぁ……ED? え、不能のこと? ギルドに入るためには不能になれと? いやいやいやいや、気のせいだ……そうに決まってるやろ!
「あ、もしかして、やはり外国の方でしょうか? ED、というのは『エレクトロニック・ドメスティック・ゴールド』の略となっておりまして……」
「えぇぇぇぇぇ! そこゴールドってだけ略せば良くないっすか!?」
「…………?」
いやいや何、今更ですか? みたいな顔して首傾げてるんですかねぇ!? え!? 何? 国民全員慣れちゃってんの!? くっ…お姉さんがそうやるとポニーテールが揺れてちょっと可愛いけどさぁ!
「あぁ、やはり『ドメスティック』ですから、この国内でしか使えませんし、持ってないのなら銀行に行って頂けると……」
「えぇえぇ!? いや、もっとツッコむ所あるでしょ!? だって『エレクトロニック』だよ? 電子マネーですよ!? なんで『現金』って言っちゃってるんですか!?」
「……? 電子、マネー?」
あぁもう! そうだよ! そんな文明無いじゃん! クッソ! 結局全然収穫ねぇし!
「はぁ……また来ます」
「あはは……ありがとうございましたー」
俺はそう残して、踵を返した。
う〜ん……ちょっと一気に新キャラ出しすぎたかな? まぁ今日出てきた人の中でもレギュラー級に出てくる人もいるかもしれませんし、準レギュラー的扱いの人も、そうですらない人もいるかもしれません。