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恋人と友達

結局、放課後に遊びに行こうという莉子ちゃんの誘いは断った。

とてもではないけれど、一緒に遊びに行く元気はない。



莉子ちゃんは私に王子に紹介してほしいって言っていた。

多分、莉子ちゃんの言うように、告白ではないかもしれない。だから王子に莉子ちゃんのことを伝えるのは悪いことではない。

むしろ友達なら、当然やるべきことなのかもしれない。


だけど私は莉子ちゃんの友達だけど、

同時に王子の彼女でもあって……。


王子の彼女である私は、莉子ちゃんを王子に紹介することをためらってしまう。

それどころか、いやだと思ってしまう。

友達のお願いを素直に受け止められない私って、最低だと思う。


動揺しすぎて、結局莉子ちゃんに私と王子のことは言えないままだ。


それだって、困る。

こんな大事なことを伝えていないって


……それって友達って言って良いのだろうか……。

考えれば考えるほど答えが見つからない。

私はずっと頭の中でぐるぐると考えていて、放課後になってしまった。



で、結果、いつものように王子と並んで帰ることになった。



王子は本当にいつも通りで、特別におしゃべりでもないし、でも冷たい感じでもない。

いつも通りに、ただ二人で並んで歩くだけ。


いつもなら、黙っていることで不安になることなんてないのに、今日はこの沈黙が耐えられない。

なんだか不安で落ち着かない。

ぼんやりしながら歩いていると、隣から声がした。


「今日、静かじゃない?」

「え?」

「なんで黙ってるの?」

「え、ええと」


まあいいや、そう言って王子は隣から手を伸ばして私の手をそっと掴んだ。


最近の王子はためらいなく私の手を取る。

だからいつもと同じように、そうしたのだと思う。


だけど、なんだかそれがいけないことのような気がして、思わずその手を避けてしまった。


「え?」

王子が立ち止まって私を見る。その目が本当に驚いたように見開かれる。

多分、避けられるなんて思ってもいなかったって顔だ。


「あ。ご…ごめん」

私は焦って謝った。


なんだか王子とこうしていることがものすごく悪いことのような気がしてしまう。

そんなことないってわかるのだけど。でも……。



もう一度ごめんと言って顔を上げたら、王子がじっと私をみていた。

怒っているかと思ったら、反対にとても心配そうな顔だった。


「何かあった?」


いつもよりずっと優しい声と顔に、なんだか泣きそうになってしまった。


でも、同時にほっとした。



だって王子がいつもよりずっと優しかったから。

こんな王子に莉子ちゃんのことを話したら、きっといい考えを出してくれるんじゃないかって思ったのだ。


だから私はつい、莉子ちゃんのことを話してしまった。

莉子ちゃんが王子のことが好きだと言うことも、その友達が莉子ちゃんだと言うことも、もちろん言わなかったけれど。



ずっと前に王子に話しかけられて、それを忘れられない子がいるって。

それがとても嬉しくて、もう一度王子と話したいって思っている子がいるって。

その時の王子が彼女を励ましてくれたから、そのお礼を言いたいって。


だから、彼女を紹介してもいいかって。

王子に話しかける勇気がないから、私から頼んでほしいって言われたって。


きっと、王子はいつものように軽くいいよって言うような気がしていた。

キラキラした王子スマイルで、うまくやってくれるって思った。



だけど、それは私のとんでもない勘違いだった。


話し終わった王子の顔は、さっきとは全然変わって、とても厳しいものだった。


「それで、それがなんなの?」

「えっと。その…」

頭の中を整理していると、王子がため息をついた。


「何?俺にその子と話せっていうこと?」

「あ、いや……ええと」

「え、でもそう言うことだよね。俺を連れてこいってその子が真依に頼んだんでしょう?」

「違う、ただその子が純粋に王子にお礼を言いたいって……」

ため息をついて王子は肩をすくめた。

「なら普通に俺に声かければいいよね。なんで真依にいうの?」

「それは……友達だから」


王子はものすごく嫌な顔をした。

「その子、俺と真依のこと知ってるの?」

「……知らない」

その返事に王子は眉を寄せた。

「本当に知らないの?知ってて言ってるんじゃないの?だとしたら、すごく嫌な奴だけど」

俯いていた顔を私は反射的にあげた。

「そんなことない。そう言ってた」

「どうかな。適当にそう言えば良いだけだし」

吐き捨てるような言い方に思わずムッときた。


莉子ちゃんはそんな子じゃない。

だって、私の大事な友達なのだから。


「俺は嫌だな。その子が普通に俺に話しかければいい。話しかけられて無視はしない。それを……わざわざ真依に言うとか、ちょっと……どうなの?」

苛立った私は、王子に言い返してしまった。

「そんな言い方……」

「そうかな。同級生なんだから普通に話せば良いと思うけど、真依に頼むのって、ずるいんじゃない?」

「そんなことないって。知っている人に頼むことならあるし…女の子はみんな、そうだよ」

王子はまた、ため息をついた。口の端をあげて笑顔になる。

「ああ、そう。女子はね」


あまりにもひどい言い方に私は強い口調になってしまう。

「王子に話しかけるのは簡単なことじゃない」

私は手をグッと握りしめた。

「王子に気軽に話しかけられない子なんて、たくさんいるよ。私だってこんなふうに王子と話をするなんて思わなかったし、今だって信じられないし…私だって、あんなことなければ話すこともきっとなかったし、きっと卒業まで話さなかったと思う」


王子はそれを聞いて皮肉そうに笑った。


「そうだよね。真依は俺と話すの嫌がってたしね」

にがく笑った顔に、私はとても嫌な気持ちになる。

「そんなの……」


「いまだに俺のこと王子って呼ぶしね」


胸がどくんと大きく鳴った。



なにか言わないと、そう思って口を開いても何も言葉が見つからない。


「そもそも、真依は俺の名前知ってる?」

「え?」

「いつになったら、ちゃんと名前で呼ぶわけ?」


王子はさっきよりもさらに大きなため息をついた。

「そ、そんなの、今の話に関係ない」

反論した声は掠れてしまった。視線があって、王子はそれを自分から逸らせた。

「そうだね。関係ないね、全く」

「な、何、その言い方」

「別に」

王子が苛立ったように、息を吐いた。



「真依が言ってた子って、安達さんだろ?」

「え?」

王子は私をじっと見つめた。

「最近真依がよく話してる、安達さんのことだろ?」

一歩私に近づいて、背をかがめた。

「じゃあ、俺はその子と話せばいいわけ?それで、告白でもされてくればいいの?」


その目が怖いくらい静かで、じっと私を見つめるから私の心臓がどくどくと早く打つ。



どのくらい経ったかわからないけど、王子はまたため息をついた。

「いいよ。話せば良いんだろ」


とても投げやりな言い方だった。


「真依がそうしろって言うなら、やるよ」



私の目を見て、もう一度口を開いた。


どんな返事をすれば良いのかわからない。

だから、私は何も言えなかった。


「じゃあ、言われた通りやるから」


「それで真依は満足なんでしょう?」



突き放すように言って、王子は体を翻すと歩いて行った。



その後ろ姿を私は追いかけることができなかった。










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