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見た目はイマイチな

テストは無事に終わった。


私の成績は驚く事にこの間のテストよりもずっと良くなった。

学年の上から数えた方が早い順位に自分でもびっくりした。

これはまさに、王子効果だ。


だがしかし、王子は宣言通りスパルタ教師だった。

スパルタではない。超、スパルタだった。

テスト期間があと2日長かったら、きっと倒れていたと思えるくらい、大変だった。


でもなんだかんだ言いながら私につきっきりで勉強を教えてくれたのは王子で、やっぱりとても感謝している。

人の勉強を見ていて、大丈夫なのかと心配になったけれど

王子は学年1番だった。


我が彼氏ながら、人間なのかと疑ってしまう。





放課後、王子は部活で、私はそれをぼんやりと待っていた。


王子に何かお礼をしないといけないな。


そう思って、考え込む。

何か、プレゼント…ナニがいいのかわからない。

プレゼント以外って何かあるだろうか、と一人悶々と考え込む。


そこでいいアイデアが浮かんで、私は立ち上がると走って家に帰った。


もちろん、王子に『用事を思い出したから、先に帰るね』と連絡してから。





「で、ナニコレ?」

翌日の昼休み、屋上でベンチに座る王子にプレゼントを差し出すと、思い切り不審そうな顔をした。

私は手の中の紙袋を恐る恐る差し出した。


お礼として王子に渡したもの。

それは手作りのクッキーだ。


それだけ聞けば、かなりの好印象プレゼントだけれど……。


「クッキー、え……?」

中を見て言葉を失った王子は、決して悪くない。


なぜならクッキーはお世辞にもうまくできたとはいえなかったから。



でも、一つ言わせて。大変だったんだよ。

家にある超簡単、誰でもうまくできると書いてある本のレシピを見て作った。

材料OK、手順OK。本の通りにやればうまくいくはずだった。

だけど、忘れていた。


私、すごい不器用なんだよね。


クッキーの形は歪んでいて、キレイな円にはなっていないし、大きさもばらつきがある。

そして、焼きすぎてしまってちょっと焦げているところがある。

つまり、見た目がちょっと残念すぎる。


あまりの出来にやり直そうかと思ったけれど、材料が足りなくてダメでした。

その見た目がイマイチなクッキーを王子はじっと見つめている。



クッキーを選んだのには理由がある。

一緒に試験勉強しているとき、王子はよく甘いものを食べていた。

甘いものが好きなんだな、と意外に思って、そのせいで覚えている。


そう、だからきっと喜んでくれると思った。

これが綺麗にできていたら、ね。



王子はゆっくりと袋から中身を取り出した。

よりによってあまり良くできていない歪んだ形の、しかも周りが焦げているものを……。

まあ、どれもひどい出来だから、変わらないかもしれないけど。



恥ずかしくなって顔を俯けた。

怖くて王子の顔を見られない。



「これ、真依が作ったの?」

「あ、そうなんだけど。ちょっと焦げて」

王子はそのクッキーをじっくり観察している。私は慌てて付け加えた。

「あの、見た目はどうかと思うけど、でも、味はね、味は保証するって」

「確かにちょっと形は……」

「え!でも味はいいんだって」

はは、と笑ったけれど、王子は笑わない。



もしかして、呆れてる?

嫌がってる?

こんなにダメなクッキーとか、見たことなかった?


そう思って、今度はあることに気が付く。

王子はモテるからきっと今までも手作りのクッキーとかそれこそバレンタインのチョコレートとかもらっていたはずで。

それはきっとお店で売られているようなすごく綺麗なものかもしれない。


……やっぱり渡すんじゃなかった。



私は急いで手を伸ばした。

ダメだダメだ。回収しよう。

作り直して、明日もう一度綺麗なものを持ってこよう。

「ごめん、やっぱり作り直してくる。なかったことに……」


だけど、その瞬間。

王子が口を開けて、そのクッキーをパクリと口にした。


そのままポイっと口に入れて、モグモグと噛んで、そして飲み込んだ。



「食べた……」



呆然とそれを見ていると、王子が私へ向き直った。

「食べるの当たり前でしょ。食べ物なんだから」

「あ、いや…そうなんだけど」

だってあんまりいい出来じゃないのに。


王子はもうひとつ、袋から取り出すと、私に向かって差し出した。

「はい」

手を出して受け取ろうとすると、王子は首を振ってさらに前にクッキーを差し出した。

「はい」


って、あーん、とかできるか。


グッと堪えて王子を見ると、片眉を上げて私の唇にクッキーを当てる。

「はい、あーん」

目が合うと、とても楽しそうに笑う。


面白がってる。

こうなった時の王子が引かないのはもうわかっている。

負けたみたいで悔しいけど、私は意を決して口を開くと、そのクッキーを咥えた。



本当に見た目だけがイマイチなだけで、すごく美味しいんだ。

このレシピ、前に作った時はもう少しうまく作れたんだよ。

だから、本当はもっとちゃんとキレイな美味しいクッキーを王子に渡したかったんだよ。


クッキーは美味しいのに、なんだか情けなくて涙が出そうだった。



私が食べる横で、王子はもう一つ、クッキーを頬張った。

サクサクと食べる音の合間に、声が聞こえた。


「ちゃんと、おいしいよ」


隣から聞こえてきた声に驚いて顔を向けると、王子はまっすぐ前を見ながらクッキーを食べていた。

「おいしい?本当?」

「……同じことを何回も言うのは好きじゃない」

「え?」


だけど、代わりにクッキーの入った袋を差し出したから、私はそこからもう一枚クッキーをつまんで食べた。

その後に王子はまたクッキーを取り出す。


「まあ、いいんじゃない?」

目が合うと、王子はとても自然に笑った。

「俺は好きな味だけど」


新しくクッキーを口に入れる前に、王子はそう言って笑った。



屋上で並んで、クッキーを食べる。

特に何も話していないけど、私はとても幸せで、

確認していないけど、きっと王子も同じ気持ちなんじゃないかな、と思った。



この人と付き合ってよかった。



王子と付き合うようになって、初めてそう思った。




そして、こうして並んで座って、一つの袋からお菓子を分け合って食べる私たちは

それなりにちゃんと、『付き合っている二人』に見えるのではないかなって思った。










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