- プロローグ 「 症例2:黒木みかど 」 -
白衣を着た髭面の男性が、目の前の少女を無感情に見つめていた。
無感情、というよりは、本当の感情を隠していると言った方が正しい。
それは、困惑。
精神科医として働き始めて3年目。
こんな相談をされたのは2回目であった。
「それで、君が見たその小人は、どんな姿だったの?」
少女は視線もしっかりしているし、小人を見たというその証言以外に異常はない。
両親の話も聞く限り、虚言癖などでもない。
だからこそ、分からない。
この少女の証言が真実味を帯びてしまう。
そして何よりも、つい数日前に似たような相談をしに来た少年がいたのだから、ますます分からない。
「どんな姿と言われても…本当に普通の人でした。
身長が低いってわけじゃなくて、縮尺がおかしいって言うか、本当に小人としか言いようがなくて」
この少女は自分の言っていること(小人を見たという事実)が、一般的におかしいという自覚がある。
だからこそ少女はここにきて、こうやって私に助けを求めているのだ。
「小人か……小人ねぇ……。 あぁ、ちなみに、巨人は見なかった?」
「いえ、巨人は見ていませんが……」
「そっか、じゃあいいんだけど、うん」
蘭理兎とは症状は違うが、似ているな、と思う。
「その小人は、男?女?」
「女の子でした。中学生か、高校生くらいの」
「……髪型とか覚えてる?」
「黒のショートだったと思います」
「可愛かった?」
「はい、整った顔立ちだとは思いました、でも……」
鷲頭は次に紡がれるであろう言葉は分かっていた。
「怖かった?」
「……はい」
精神科医して働き始めて3年目。
受難はまだまだ続く。