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王城でパーティー3

 

 さあ、なんて言って止めようか。彼らの表情は厳しいものだ。


 この尾行兄妹の視線の先はシオンの婚約者(予定)に固定されている。特に妹の方は何とも憎々しげだ。これはウサ耳獣人娘がシオンに近づくのを良しとしていない兄妹という事で間違いないだろう。


 ある程度まで近づくと彼らの会話が聞こえる。


 しかし、向こうはこちらに気付いていないようだ。別に気配を隠したり、音を消したりしているわけでもないのだが、それでも気づかないとか余程あの獣人令嬢が気に食わないのだろう。


 


「おい、そこのお前たち何をしている?」


 爵位は僕の方が上だし、相手はやましい事をしているのだから口調はこれでいいだろう。声をかけられた二人が勢いよくこちらを振り向く。


「お前、見ない顔だな。僕たちがエイベル伯爵家と知っての行動か?普段なら罰を与えるところだが、今は忙しいから見逃してやる。低位貴族が伯爵家の人間を煩わせるな」


「そうですわよ、今は国の一大事なのです!シオン様があんな獣人にたぶらかされるなんて、どんな手を使っても止めなきゃいけませんわ。そして誰が自分に相応しいか思い出してもらうのです!わかったらあっちへ行っていなさい」 





 は?


 罰?


 低位貴族?


 あっちいけ?





 それを聞いた僕は一瞬何を言われているか分からなかった。


 こんな事を言われたのは生まれて初めてだ。見かけない顔だから低位貴族認定するのはまあ、僕も悪いと言えなくない。


 しかし、そのなんだろう。


 うまく言葉に表せない。


 脳裏に蘇るのはアホ鳥ことピーコックに突撃された時のことだ。


 そんなに威厳とかが無いのだろうか。


 そんなに他人になめられる雰囲気を出しているだろうか。


 面白いじゃないか本当に。


 赤の他人の言葉でこんなに心動かされたのはいつぶりだろう。


 喧嘩なら買ってやる。 




「なあ、ハイト。あのメリルが思考停止して固まっているぞ」


「メリルにはいい薬ですね。これでもう少し茶会へ出てきて自らをアピールするようになればいいのですが」


 

 後方で皇子達がなんかうるさく言っているのが聞こえたが無視する。


 こいつらの頭の中には獣人令嬢とシオンの仲をどう裂こうかで一杯らしいが、それと同じくらいには僕はこいつらをどうしてやろうか頭の中が一杯だ。


 ……少し冷静になろう。茶会であんまり騒ぎを起こすのは良くないな。騒ぎを起こして大人の会場の方の話題になりたくないし。


 そういえばエイベル伯爵家の当主は息子が増長しすぎていて困っていると有名だったな。娘もこれなのだから教育方針が間違っているのではないかと思う。


 ここはシオンの兄だという事を話して引いてもらおうか。こっちがシュティーア家の者だと知れば向こうを流石に引くだろう。騒ぐとシオンにも気づかれてしまう心配もあるし、穏便にすませるとしよう。





「おい、エイベル伯爵家のご兄妹よ。他人の逢瀬に首を突っ込むのは良くないぞ。シオンも自分の婚約者を好きに決める権利がある」


「さっきから何なのだお前?邪魔をするなら僕の魔法で痛めつけるぞ。これだから低位貴族は…」


「何を偉そうにしているの。シオン様はかのシュティーア家の次男でしてよ。軽々しく呼ばずに様をつけなさい」


 僕は何も言わずに手袋をその兄妹の足元に叩きつけた。 


 




 今度はあちらが状況を理解できずに固まっている。数秒ほどして彼らの表情は驚愕に染まり、そして怒りに染まる。


「なんと無礼な!貴様、それは決闘の合図だと受け取るぞ!」


「お兄様、こんなやつは痛めつけないと物事を理解しないようですわ!」


 <記憶>の世界と違い、こちらでは手袋を投げつけても決闘の合図ではない。しかし、伝えたい意図はちゃんとあちらに伝わったようだ。




「俺たちが見届け人をしよう」


「お互いそれでよろしいですね?」


 静観していたアデル皇子とハイト皇子が出てくる。なんか楽しそうだなこいつら。実際内心面白がっているのだろう。



「皇子様方が証人になってくれるとは光栄です!これでお前は逃げられないぞ!」


「もし負けたら邪魔したことへの謝罪と罰を受けていただきますわ!」


 こいつら「罰」好きだな。


 日常的に罰罰言っているのだろうか。


「ではこちらが勝ったらシオンへの干渉はやめてもらおうか。勝負方法は魔法だな?」


「さっきから不敬ですわよ、お前。シオン様と呼びなさい」


「魔法の授業を受けたこともないだろう下々に魔法を教えてやろう!」


 あるわ、なめんな。


 さっきから人の神経逆なでするのが上手だなこいつら。


「両者とも準備は良いか?それでは―決闘開始っ!」




 アデル皇子の威勢のいい声の合図でエイベル家の坊ちゃんは魔法を発動する。


「ウォーター・カッター!!」


 こいつ水属性かよ。すぐ激昂する上にあんなに顔真っ赤にできるのだから火属性と思ったのだが。


 躊躇なく危険性の高い魔法を使うあたり、魔法の授業はうけても安全性に関する説明はちゃんと聞いていないようだ。





「あれ、おかしいな……ウォーター・カッター‼ウォーター・カッター‼」


 魔法を発動したのにいつまでたってもなにも起こらない。。


「え?どういうことだ?」


 彼は戸惑っている。ご自慢の魔法が不発では無理もないだろう。これは別に僕が何をしたわけではなく、単に王城の構造がそうなっているだけなのだ。


 王城内からなら魔法の発動はできるが、建物の外に出ると魔法に使用が阻害される。これは防衛のためにそういう構造になっているそうだ。


 外部から進軍してくる敵の魔法を封じ、頑強な城の中から遠距離攻撃をするという仕組みである。


 実にいやらしい。


 エイベル家のアホがこれを思い出さないうちに煽ってやろう。それにしてもなんでこんな重要なことを忘れているんだ、仮にも伯爵家の人間だとは思えない。頭に血が上りすぎていたのか、本当にアホなのか。



「魔法を教えてくれるんじゃなかったか?」


 盛大に煽ってやる。


「うるさい!こんなはずでは…あっ!」 


 おっと思い出したらしい。


 流石に王城の構造くらいは学んでいたか。


「お前の様な雑魚は知らないだろうが、ここでは魔法が使えないんだよ。ちっ、運がよかったな。この勝負はまた次の機会にしてやる」


 自分は忘れていたからって他人が知らない理由にはならんぞ。


 あと使えないんじゃない、阻害されるだけだ。


「おやおや逃げるのかい?エイベル伯爵家ともあろうものが?」


「ふんっ、お前も魔法が使えないんじゃ決闘ができないだろう?だから見逃してやる。皇子様方、申し訳ありませんが──」


 彼は僕をいない者のようにスルーし、皇子達の方を向く。そして小さな異常に気付き、訝しんだ。


 皇子達が笑顔でいることに。 


 そもそもお互い魔法が発動できないような決闘など皇子達が見届け人になる訳ないだろう。


 この決闘は勝敗がちゃんと決まる普通の決闘である。


 初めから勝者は決まっているが。


 

「<エクリプス・カルチェレム>」 


 得意の闇魔法を発動させる。


 闇の牢獄がエイベル家の長男を拘束し、力を奪う。


「なっ!?なぜ魔法が使える!」


「何、魔力量と熟練度が高ければ発動はできるぞ」


「くっ、こんなもの!すぐに振りほどいて…」


 檻から抜け出そうと抵抗し始めるが、生身の人間に壊されるほど脆くない。次第に抵抗は弱まっていき、エイベル家坊ちゃんはその場に倒れた。


「お兄様!?どうしたんですの!」


 <エクリプス・カルチェレム>の効果で魔力と体力を奪われた彼は立つこともできなくなったようだ。こんなすぐに倒れるあたり日々の修練は怠っているようだな。


「勝負はこっちの勝ちだな」


 魔法を解除する。


「くそっ!」


 倒れ伏してもなお、彼の眼光は鋭い。なにが彼をそこまで掻き立てるのだろうか? そんなにシオンと妹をくっつけたいのか?シオンはあの娘にぞっこんらしいから脈は無さそうだぞ。




「これは何の騒ぎ──って兄上!それに皇子様達まで!」


 流石に気付かれたか。


「やあ、シオン。後ろのが婚約者予定の娘か?」


 ほぼ間違いないだろうけど、一応聞いておく。


「ええ、そうです。所でこれはどういう状況ですか?」


「それは俺が説明しよう」


「アデル皇子が?それではお願いします」


 シオンとアデル皇子が話している間にハイト皇子がこちらに近寄ってきた。


「流石ですね、メリル。この場所で魔法を発動で来る者なんて僕たちの世代にはいませんでしたよ」


「発動するだけならもう少しいるだろう」


「出来るだけででも極僅かですよ。それこそ大人でも」


 状況をようやく理解できたのか、エイベル家の兄妹は顔が真っ青だ。まあ、魔法で縛り上げたりしたし、もう勘弁してやろう。


「と、そういうことだから諦めてくれ。シオンは売約済みだ」


「そんな!シオン様!」


 エイベル妹の方がすがるようにシオンを見るが。


「……もうよせレスト。勝負に負けたらシオン様に干渉しない約束だっただろ。今日のところは帰るぞ」


 と兄の方が妹を諫める。やけにあっさり引くな。分が悪いと悟ったからだろうが少し意外だ。 




「お騒がせしました」


 一礼し、妹を引きずってエイベル家の坊ちゃんが引き下がる。


 彼も妹のためだからあんなに頭に血が上っていたのかもしれないな。妹の方は相変わらず獣人令嬢を睨んでいるが。

 

 まだ諦めていないのか。



「それじゃあ、紹介でもしてもらおうか」


 とこの場にいるカップルに問いかける。


「はい、兄上。彼女はローゼリカ・フラデガルド。子爵家の令嬢で──僕の婚約者です」


 婚約者という単語で彼女が頬を染める。


 兎の獣人か、つまりシオンの趣味は<記憶>でいうとバニーガールというところだな。


「ご紹介にあずかりました、ローゼリカです。こんな高貴な方々とお会いできるなんて光栄です」


 先ほどのエイベル家の兄妹の後だからか、ローゼリカの挨拶がとても丁寧に見える。


「そこまでかしこまらなくていいさ。これから家族になるのだから」


「そうだな。シオンと結婚すればシュティーア家の一員ということになる」


「そうすれば家も安泰ですよ」


 僕たちが声をかけるが恐縮してばかりいる。


 慣れないうちは王家と高位貴族に囲まれるなんて緊張するだろうな。


「まあ、お二人の話は追々聞くとしよう。もうすぐダンスが始まることだし、行ってくるといい。皇子達も婚約者を待たせているだろう?」


「おお、そうだな。行くぞハイト!」


「ええ、女性を待たせるのは良くないですからね」


 皇子達が最初に離れていく。皇位継承争いをしていると感じられないほどの仲の良さだ。皇子達の母親同士は仲が悪いと有名なのに、あの二人は良く仲良くなれたな。




「兄上、今回はお手を煩わせた様で」


「まあ、偶然見かけたとはいえ放っておく訳にもいかなかったからな」


 めっっっちゃ喧嘩売られたし。


「おかげで無事に告白できました」


 シオンが照れながら言う。ローゼリカの方も恥ずかしそうだ。




 さあ、ここは決めセリフで一件落着を飾ろうか。


「シオン、僕が手を貸すのはここまでだ。母上の説得は自分でするんだぞ」


 今にも音楽が始まりそうな室内へ手を向ける。


 これからも様々な苦難があるだろうが、今は二人の時間を楽しんで来い──とそんな思いをのせて。





 いちゃつきながらカップルが僕の目の前を歩いていくが、急にシオンが立ち止まってこちらに顔を向けてきた。


「ところで兄上はダンスパーティーの間どうするのですか?」


「早く行け」


 


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