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魔導チェス2

「次は僕のターンだな。キャスターを一歩前に」


 宣言してから身長と同じくらい長い杖を持った駒を一歩前に進める。駒から手を離すと派手な駒が自動で攻撃を始め、派手なエフェクト共に前方にいたハイネケンのナイトが3体爆散した。


 ハイネケンの顔を見るとどうやらあまりに一方的な展開に青ざめている様だ。やっぱこうなるかと爆発の余波の行方を眺める──と同時に自分の顔が同じくらい青ざめるのが分かった。


 このゲームの駒は攻撃範囲内の敵に自動で攻撃し、対象が複数いるのならば最も近い敵の駒に攻撃する。ゲーム中でプレイヤー出来ることは駒の配置だけだ。


 そう配置だけなのだ。攻撃の威力も範囲も方向もプレイヤーは決められないのである。


 ……そのせいで攻撃の余波がハイネケンのクイーン。カレル(駒)にまで及んでいる。青ざめた顔と冷静じゃなくなった心を何とか静めてカレル(本人)の様子をチラリと盗み見る。


──勝負の行方を眺めるようにじっと盤面を見ているだけだ。いつもの仮面を張り付けているせいで表情が読み取れない。


……あれはセーフなのか?問題ない……よな?


 ハイネケンのクイーンがどうなろうともカレルが気にしない可能性だってあるが、気にする可能性を捨てきれない以上余計な事はしたくない。


 仮面とカレル上位の関係のせいで地雷が未だにどこにあるのかよく分かっていないのが何ともしがたい。五感をどれだけ働かせてもカレルがどう思っているのか分からない以上、第六感で判断する。


 ……うん、あれはセーフだ。そうに違いない。違っていたら僕がやばいけどあれはセーフだ。


「メリル様」

 

「な、なんだ」


「お茶淹れてきますね」


「……ああ」


 気を遣って飲み物を用意してくれるだけだよな?


 とりあえずお茶が運ばれたらハイネケンが飲んだのを確認してから口を付けるとしよう。またどうやって淹れたらそうなるか分からない苦い液体を飲ませられるのはたまったものでは無い。




「あの……ちょっと待ってくれませんか?メリル様ってどれくらいお強いので?」


 どうやらハイネケンが混乱から立ち直ったらしい。


「皇子二人がかりでも勝ったぞ。駒を一つ残らず破壊したらしばらく遊んでくれなくなった」


 わざわざ特殊な盤面を造らせてまで準備していた相手に大人げなかったと今では思う。また同じ様な出来事があっても同じようにするつもりだが。


「二人がかりって。……あの、メリル様」


「まさか降参とは言わないよな。仮にもシュティーアの騎士がやると決めた勝負からすぐに逃げ出すなんて真似はしないよな?」


「っく、騎士の誇りを突くとは!」


こいつが騎士の誇りとか言うと違和感しか覚えない。 


「それに勝ったらカレルと同じ日に休めるんだぞ?」


「そうだ、カレルさんとのデートが!」


 ……デート?いつそこまで話が進んだのかと問い質してやりたい。間違いなくこいつの脳内で非現実な所までスケジュールが組み立てられているのが分かる。


「そうだ、ハンデをやろう。遠距離攻撃できる駒はすべて取り除こう。そして今から僕のターンが回るたびにキング以外の駒を一つ取り除こう。最後にはキングしか残らないって寸法さ。……どうだ?」


 こんなハンデを貰って戦うなんて騎士らしくも無いが彼はどう返答するのだろうか?


「それなら何とか。もう、尻込みしませんよ!騎士らしくこのクイーンを守り切って見せましょう!」


 キング守れよ。


 


 それからハイネケンは徹底したチキンプレイに走った。少しでも近づこうものならすぐに駒を遠ざけてぶつかり合うのを避ける。


 なまじハイネケンの駒は機動力に優れた駒が多く、特にハイネケンの機甲と雰囲気が似ている白いキングなんかは赤くも無いくせに平均的なキングよりも3倍もの機動力を誇っていた。


 無論無傷とはいかない。盤面の広さは無限では無いし追い詰められもするが、最も近い駒に攻撃するという性質を使ってハイネケンは重要な駒を逃し続けていた。


 そして僕もハイネケンに付き合う様に持久戦らしく王の周りを駒でしっかりガードしている。そんな僕を見てハイネケンはかなり不可解な顔だ。


 ターンが経つほど僕の駒は一つずつ減り、最後に王は無防備になる。戦力的には優勢なのでガンガン攻めてこない理由も無い。……なのに持久戦。不可解にもなるだろう。


 僕としてはキングの性能であっと驚かせたいだけだ。皇子達二人がかりの駒達を蹴散らせたのはキング一体のみである。一騎で敵を薙ぎ払う姿はまさしく理想の機甲の在り方だ。


 ……これをいつもやっていたから相手がいなくなったとも言えるが。学院に入学する前には自重を覚えたほうがいいかな。



「ドラゴンライダーを3マス右に」


 宣言してから駒を動かし、ハイネケンの駒を焼き払った。このドラゴンライダーの造形は結構リアルで、僕の駒でも結構気に入っている方である。


 しかし悲しいかな、翼を広げるドラゴンに大長槍を持った騎士が乗った造形なのに相手の近接による攻撃も当たるのだ。飛んでいる姿なのに剣が届くのか?といつも思うが動きが2次元的なゲームで3次元的な性能を求めるのは無理だろう。どうせ大抵の場合傷つけられることも無いし。



「クイーンを2歩左に動かします」


 ハイネケンのクイーンが彼のキングの斜め後ろに寄り添い、守られる形となる。ようやく、だな。ハイネケンの苦労の末、ついに「時」がやってくる。


 再び僕にターンが回り、最後の駒ドラゴンライダーが盤面から消える。これで僕はキング以外動かせる駒がなくなったのだ。


 全く問題ないが。


「やっとここまで来ましたよ!さあ観念してくださいメリル様!そして大人しく休みを渡すのです!」


「気が早いぞハイネケン。まだ僕のキングは少しも傷ついてはいない」


「私の駒は7つも残っていますよ。これならキングを討ち取るぐらいは出来るはずです。」


「さて、どうかな」


 ハイネケンの駒は未熟な皇子達よりもハイスペックであるといえるが、それでも足りない。戦わせないだろうクイーンとやられたら負けとなるキングを抜きに考えるとハイネケンが直接戦わせられる駒は5体。


 最も数が多かったナイト3体、そしてナイトリーダーとキャスターである。だがキャスターの火力はこちらのナイトに通じていなかった以上、最も堅固なキングに通じる可能性は無いだろう。なので実質4体である。


「キングを前に」


 ハイネケンも期待していなかったのか、囮の様に最もキングに近かったキャスターに僕のキングが配置され、所持していた大剣を使って一撃で粉砕する。


「……やはり一撃ですか。ですがそいつは罠です!ナイトリーダーを右に」


 ハイネケンはナイトリーダーを動かしキングの後ろを突く。その周りはナイトたちが配置されており、キングをいつでも攻撃できるように剣を構えていた。


 後ろから攻撃されたキングの背は少し傷つく。もしかしたらナイトリーダーをもってしても傷をつけられないのではないかと予想していたが、ハイネケンはそこまで弱くなかったか。


 なるほど基本的な戦法だ。後方に攻撃できる駒は珍しいし、後ろ方向に大きく動かせる駒も少ない。駒を重ねられない以上後ろ方向に逃げる事はかなわず、前に進んでもナイトリーダーが追ってきて後ろからキングを削り続けるつもりだろう。


だが、甘い。


「キングをそのまま。駒は動かさない」


「メリル様?」


 逃げない事に訝しんだのかハイネケンが声を上げる。たしかに棒立ちではただの的だし、逃げるのが当たり前だろう。だがこれでいいのだ。


 配置のフェイズが終わり、駒が攻撃するフェイズに入るとキングが武器を所持していない手を振り上げ、掌に闇の塊が集う。


「え、なんですそれ?」


──そして闇がはじけた。


 キングの周囲に拡散した闇の波動が近くにいたハイネケンの駒達を呑み込み、消滅させる。


「……は?……え?」


「よし、これで状況は五分五分だな」


「いや、ちょっと待ってください!何ですか今の!」


「どうみても魔法だろ。自分の周囲が範囲の」


「なんでキングが魔法使っているんですか!……ゲーム中一回しか使えない大技とかですか?」


「そんな制限ないけど。僕のキングの剣が届かない相手がいると魔法を使うんだ」


「……だったらずっと魔法だけ使っていればいいのでは?自分の周りをまとめて薙ぎ払えるのですから」


「剣の方が威力高いのさ」


「どっちも一撃だったのですが……」


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