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王城でパーティー2

 


 荘厳な音楽は鳴り響き、これを聞いた者に自分の感情を波立たせる。芸術の粋を集めた装飾品は、大人の会場に負けず劣らず華美なものが揃えられており、特に中央のシャンデリアは幾億の宝石と光を束ねたような美しさを誇っていた。


 庭園にも光源が設置されており、そこでは夜しか楽しめない景色が楽しめる。ベンチや噴水もあり、ちょっとした話し合いのために立ち寄る人の影が見える。


 ここが貴族の少年少女が今宵のお茶会を過ごす会場だ。




 どの方向からも自分への視線を感じる。自分の一挙手一投足が注目されていると嫌にも理解させられるこういう場は──ありていに言えば普通に嫌いだった。パーティーの途中に急に現れたことも、注目される原因ではあるのだが、やはり僕がシュティーア家かつ滅多にお茶会に出てこないレアなキャラであるからだろう。


 度々パーティーに出席するのも面倒くさいが、稀に顔出すとこういう面倒もある。ままならないものだ。注目されているだけで話しかけられる訳でもなさそうだったので、一際目立つ二人組へと歩を進める。


「久しぶりだな、アデル皇子、ハイト皇子」


「おお、メリル。まさか顔を出すとは思わなかったぞ」


 晴れやかな笑顔で答えるアデル皇子。彼の笑顔は周りのものも笑顔にする…といわれているくらい素敵なものだ。


「前回のメルキオール家主催の茶会はサボったから、今回は陛下に招待状にメリルの名前を書けば流石に出てくるのではないか、と言ったかいがありましたね」


 知的な印象を思い浮かばせるハイト皇子。実際この皇子は頭がいいし、腹黒い。今回引っ張り出されたのはハイト皇子の差し金か。


「それでわざわざそんなことをして僕を呼び出した用事でもあるのですか?」


「いいや、ないぞ。ただお前があまりにもこういった交流の場に顔を出さないので心配しただけだ」


「しかし、メリルの雰囲気が変わりましたね。前よりも人を見ているような……」


 流石はハイト皇子、鋭い。確かに前よりは人に意識を向けるようにするようにはなった。

 

 でも、そんなことを人に指摘されるのはなんか気恥ずかしいので誤魔化すとしよう。



「そうかい?こんなものだろう。所でアデル皇子の勉学の進み具合はどうだ?」


 口を開いたまま固まるアデル皇子。そして、僕は次の相手に狙いを移す。


「ハイト皇子は最近体づくりを頑張っているか?」


 こちらに視線を合わせないハイト皇子。




 この二人は綺麗に苦手なものが分かれている。足して2で割ったら丁度いいのだが。


 何も言わずにニヤニヤしている僕を見て二人が同時に口を開く。


「サポートは臣下がしてくれるから、王になるためには最低限の学があればよい!必要なのは根性と力だ!」


「王は体づくりより頭を良くすることが優先です!賢くならなければ民を導けない!」


 言っていることが真逆だ。


 この二人は本当に水と油の様だな。しかしこれでも仲が悪くないどころがお互いライバルとして高めあっているというのが不思議な所だ。これなら王位継承争いでも血が流れることは無さそうだな。


「どれも必要だろう。王になるのに妥協してはなれるものもなれんぞ」


「それは陛下も同じことを言っていたな」


「やっぱり偏ってばかりではいけませんか」


「あたりまえだろ」


 この二人は次期継承争いをしている。もちろんこの二人以外にも候補はいるのだが、この二人の継承がほぼ確実だ。


「それよりもだ」


「それよりもですね」


「メリルはどっち側につくんだ!」 


「メリルはどっち側につくのですか!」


 またこの質問か。


「いつ聞いても僕の答えは変わらないぞ。より大きな王の器を示した方につく」


 正直のところ僕だって「王の器」ってよく分からないが、昔それっぽいことを適当に言って、それが今まで続いているだけだ。

 

 いずれ答えを出さなくてはいけない時が来るだろうが、その時までに陛下に「王の器」とは何か聞いてみるとしよう。


「まあ、まだ先すぎる未来の話をするよりは他の話をしましょう」


「うむ、最近は…」


 話しているうちに僕たちは外に出る。あまり人の影が見当たらなかった。そろそろダンスが始まるだろうからか、皆は室内で相手を探しているようだ。


 周りが静かな丁度いい所でベンチに腰掛け、次の話題を探す。


「そういやアデル皇子は婚約者がいるんだっけ?」


「ああ、メルキオール公爵令嬢だ」


 うん、顔が出てこない。


 名前くらいは聞いたことあるはずだし、実際会ったこともあるはずだが、顔と名前が一致しないな。いくつものこれまで会った顔とメルキオール公爵令嬢の名前を一致させていくが、ピンとくるものはなかった。


 まあ一致しなくても困らないので考えるのをやめ、ハイト皇子に意識を向ける。


「ハイト皇子はまだだったよな。これからも独り身同士仲良くしようか」


「仲良くする提案は魅力的ですが、申し訳ないですね。私はもうすぐ独り身ではなくなります」


「え?まさか相手が見つかったとか?」


「そうですね。相手はヘルノア家の令嬢です」


 また顔と名前が一致しないな。…ヘルノア家当主は思い出せるのだが。


 しかしハイト皇子もかなり大きな貴族家の婚約者だな。まあ、皇子とつり合いがとれる貴族家なんてそうそうないか。


「この中で唯一の独り身になってしまった…」


 と残念そうに振舞うが…


「メリルは別に婚約者が欲しいとか思ってないだろ?」


「シュティーア家の家訓もありますし、メリルは令嬢たちと話すとき、あまり真剣に会話してないですよね」


 にこやかに対応しているつもりだが、自分の家のためと歯を食いしばって恐怖を堪えている相手を見ると、わずかな下心でさえ吹っ飛ぶからな…


 シュティーア家が恐れられていると知っているが、ここまでとは思わなかった。


「そもそもメリルは女性に興味あるのか?」


「何を失礼な、まるで僕が同性愛者みたいじゃないか。」


「今は無理でも、将来を見越して今のうちに関係を持っておこうと思う令嬢たちにあんなに言い寄られてもメリルは反応しないじゃないですか。ホモだと思われても無理はありませんよ」 


 こいつ楽しそうにホモ疑惑をぶつけてくるな。さっきあんまり運動してないことへの突っ込みの意趣返しだろうか。ハイト皇子に何か言い返そうとすると、視界の隅に気になるものを捕えた。


「おい、あれはお前の弟じゃないか?」


「ええ、シオンですね。後ろにいるのは…誰でしょう?」


 皇子達も気が付いたようだ。ハイト皇子はわりと人の顔を覚える方だが、彼でもいちいち覚えなくていいと判断したくらい格の低い家なのだろうか。


 格の低すぎる家は、暗黙の了解で王族に自分から話しかけることは許されていない。皇子が知らない、覚えていないというならば格が低いのだろう。


「そういえば、今日告白するとか言っていたな」


「おお、これでお前の周りは婚約者もちばかりになるな」


「そんな事はわざわざ言わなくともわかっている」


「君の弟に手を引かれている彼女もうっとりとした目で見ていましたし、これは成功しそうですね」


「シオンなら断る女性はいなさそうなものだ。しかし、な」


「ああ」


「ええ」


 遠くからなので、どの種族のものかはっきりと分からないが。あれは間違いなく獣人族の耳だった。


 この国ではカスドラク教国のように他種族排斥は行っていないが、それでも純人族の国であるため、中位貴族以上は純人族ばかりで構成されている。


 つまりシオンの婚約者(予定)は低位貴族の可能性が大きいようだ。


「まあ、婚約者ぐらい好きに選べばいいと思うが、一悶着ありそうだな。特に母上と」


 間違いなくいい顔はしないだろう。シュティーア家の次男が低位貴族を娶るなんて、いい顔するものは殆どいない。


 まあ、僕はそんなものは気にしないが。


「様々な苦難を乗り越えて成就する恋、いいではないか」


「そんな貴族令嬢向けのラブロマンスが現実で起きるとは思いませんでした」


「まあ、かの若者の未来を祝そうじゃないか」


 と僕たちはニヤニヤしながら彼らの行く末を見守る。




「おい、あれ」


 と最初にアデル皇子がそれに気づく。


「あれは…尾行されているな」


「ええ、そのようですね」


 次に気づいたのは残る僕たちだ。シオン達に集中していたとはいえ、アデル皇子に負けたのは悔しいな。こういう分野は勝っていると思っていたから、余計にショックだ。


「あれは…エイベル伯爵家の兄妹じゃないか。なんで尾行なんかしているんだ?」


「そりゃあ、シオンがとられるのが気に食わない妹か、獣人令嬢の方に恋をしていた兄が今の状況を気に食わないのかとか色々考えられるだろう」


「まあ、それはどうでもいいでしょう。それでメリル、どうします?」


「そりゃあ僕はシオンの兄だし、尾行兄妹を止めることにするよ。止めなきゃ碌なことにならないだろうし」


「だろうな。それでどう動く?」


「まあ、僕が止めることにするよ。皇子達に出張ったもらうほどじゃない」


 と瞬時に作戦会議を終わらせ、僕たちは立ち上がる。




 皇子達と会話する以外、特に面白みのないと思っていたお茶会だが、少しは面白いイベントになりそうだ。



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